ただよう

食連星

第1話

「うぉぉぉー!泳がせてんの?」

「いやまだ.

そのネーミング商標登録通った?」

「えー何?

まだフィッシュが良かったとか言うつもりなの?

詐欺みてぇ.

特許出願中.」

「言う方も聞く方も耐えらんない.

センス皆無.

特許は大事.」

「戦争だよ穏やかな.」

「何が?

そんなんないない.」

もう頭上てっぺんだった陽は,

もう下がりかけるよって言い始めてた.

「寝すぎ」

「昨日遅かった.」

何気に目に入った観葉植物を掴む.

「千切らない」

「健康状態を」

「分からんくせに」

「あー!」

しゅっとして少し艶っとした葉っぱは,

どうも手触りが気になる.

何度か聞いたお名前は,何度聞いても頭に入んなくて,

もう訊くのもやめて時々やり過ぎな位の水を枯れ果てる位の密度で

流し込んでる.

影は短い.

隠れる所なんて無い.

「暗闇は」

ソファーにドカッと座り込んでしな垂れる.

腕を伸ばして抱え込んでみれば

「馴れ馴れしい」

って叩き落とされるんだ.

でも,

「暗闇は?」

聞き返してくれる.

それ位の間柄.

ふいに耳が痒くなる.

「暗闇は悪い奴らが蠢くから怖がる奴がいるのか.

もしくは無関係か.」

言いながら,夜間の方が案件多いよなとか思ってみては.

明るい今は休憩だ休憩だって.

「どちらでも,やることはやる.」

あぁー…

「そうだな」

首を左右に動かすと,1回だけコキっと鳴った.

それから,肩甲骨をギュッと寄せて,

背もたれに腕を添わせる.

上を向いても薄汚れた天井.

下水が漏れて伝ったという話だった.

まだ起きられて無い.

「コーヒー」

「メーカーじゃないから」

「ノーブランド?」

「言ったら出ると?」

こめかみ掻きながら

「お客様は来ないから,お客様用のコーヒーは要らない.」

「のに買っちゃったあれを抽出して出せと?」

「凄い呑み込み早い」

「飲んだ事にしたら」

「それ呑み込めない.いいから早く」

カップを掴んで上げる真似をしたら,溜め息が聞こえた.

「下は空き店舗だからぁ」

声を張り上げて遠くから呼びかけられる.

何で,そこで話し始めるんだ.

「そう」

「防犯上良くないよねぇ」

「うん?

下に行く?」

「え?」

「下に行きたいのかっ!?」

寄るのも面倒で,幾分ましな大声を選ぶ.

「1階向きの仕事じゃないよね」

分かってんじゃん.

黒いトレーナーに湯気が見える.

香りは,まだ届かない.

味も,尚更まだ.

「だから賃料が格安」

なんだよな.

首をぐるっと回すと,まだコキコキ鳴った.

「うぉぉぉー!何で休ませてる?」

「うおおぉぉは」

恥ずかしそうに言わんでくれ.

「恥ずかしいなら言わなくていいって.

大体休ませなくても動けるっしょ.

電気食わせてりゃいいんだからさ.

そんな病弱な彼女じゃあるまいし.」

「普通の画像を挙げてくる」

「待って待って.

それは,あなたの判断も入れて来てる.」

コツってガラスのテーブルに置いたつもりが,

少しはみ出てて異質なもの同士が交じり合わずに浮いた.

「いいから挙げてきたもの,こっちに出して.」

きょどる姿を見て

「このコーヒーは美味しい」

と取り繕ってみたけど,もう遅くって同じように浮いた.



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただよう 食連星 @kakumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る