サリアリットの意思
「あのぅ、それは困っちゃうんですけど……」
皆が一斉に振り返った。
少し遅れてサリアリットも魔導人形を見た。
この場の誰よりも大きい二メートルオーバーの人型だが、頭を掻く姿は迫力も無ければ緊張う感もない。
「どういうことですかな、救世主殿?」
衛兵の一人が代表となった。周囲のたくさんの視線は、一刻前にあった救世主様への敬いのものから疑いへと変わっていた。
「だって僕、一人じゃ何もできませんよ? 地球人の特別な魔力っていうのもまだ使えませんし、だったら誰か魔法が使える人の協力が必要不可欠なんです」
「そこにいる魔法使いを使えばよいのでは?」
「無理ですよ」
フィアーナの頭上では星とひよこがクルクル回っている。
「だったら無理矢理起こせばいい!」
「そうだそうだ! なんだったら俺がやってやる!」
「やめてください」
フィアーナに掴みかかろうとした男の前を魔導人形が制した。
「……なるほど。あなたたちのそれは、フィーさん個人ではなく魔法使いに対してなんですね。亀裂者……でしたか? それがどういう意味なのかはわかりませんが、フィーさんに危害を加えようというなら、僕もいろいろ考えますよ?」
「うっ……」
「選んでください。サリーさんの安全か、この国の守ることか」
春賀は多勢にも臆せず、容赦なく選択を迫った。
途端に反感が沸き上がる。
「ふざけるな!」
「なんて奴だ卑怯者!」
「大体この国を守るための救世主だろ! だったら何とかしろ!」
「………………………」
春賀は周囲からの罵詈雑言を意に介さず、衛兵からの言葉を待った。
無言の圧力が末端の衛兵を追い詰める。
「そんなこと……私の権限では……」
自分の手に余る判断にそう返すのが限界だった。
「だったらこの場で一番権限がある人に聞いてみましょう。サリーさん」
「!? はい!」
ここで名が出ることが予想外だったのだろう。
もはや自分など蚊帳の外だと思っていたサリアリットは、驚いた表情で自分を見下ろす魔導人形を見上げた。
「僕はサリーさんに協力してもらう方がいいと思うけど、どうかな?」
魔導人形がサリアリットを見ている。
魔導人形の中から、春賀が見ている。
周りの大人たちになんか目もくれず、まっすぐに。
紛れもなく、彼女の意思を聞きたがっていた。
「わたくしは……」
全員がサリアリットを見ていた。
その目が何を言いたいのか。
この姫君に何を言わせたいのか。
まるで背中にナイフを突きつけられたかのような錯覚が、サリアリットの乾いた口を開かせた。
「……ハルカ様。わたくしは―――」
「ごめんごめん。こういう言い方をするべきだったね」
魔導人形の中から、あははとまた気の抜けた声。
「サリーさん、僕に力を貸して」
その言葉は、心の中に直接差し出された手のようだった。
力強さもない。明らかに頼りない手。
しかし、その手はサリアリットが封印してしまった心を引っ張り上げた。
「承知しましたわ!」
サリアリットは嬉しそうに、そう答えた。
うっすら涙がうかんだ碧い瞳に、勇気の灯が蘇っていた。
「姫様……」
「わかっています。役目が終わり次第、わたくしも避難いたします」
先ほどとは違う。
サリアリットの強い意志の前に、衛兵たちは口を閉ざすしかなかった。
春賀は懸命に魔力燃料へ魔力を注ぐ彼女を見て、思う。
(悔しかったんだろうなぁ、きっと……)
ザカルガードに詰め寄られた時、男の迫力に屈服してしまったことに。
フィアーナの闖入に安堵してしまったことに。
そして今も周囲に圧され、その意思を示すことができなかったことが。
なんと情けなかったことか。
どれだけ惨めだったことか。
シムケン王の一声で沈んだ場が活気を取り戻した時。
サリアリットは人々が騒ぐ中で一人小さくなり、俯いていた。
まるで取り残された子供のように、泣きそうになるのを必死に堪えていた。
一国の姫として毅然と振る舞うことができない。
その大層な肩書きがただのお飾りでしかない。
無力で弱い自分を、心の中でずっと責めていた。
そして、そんな彼女に春賀だけが気付いていた。
「ハルカ、様………」
(おっと)
どうやら魔力の補給が完了したらしい。
「あれ? どうしたのサリーさん? なんでそんなに顔を青くしてるの?」
「うしろ……」
「はい?」
震えた指で後ろをさされ、魔導人形が疑問符を浮かべながら振り返った。
それは、あまりに突然のモンスターとのエンカウントだった。
―――ワイバーン。
ファンタジー世界ではお馴染みのど定番モンスター。
長い首によって高さはミノタウロスを超え、翼を広げれば全長は八メートルにも届く。その巨体の飛行を可能とする極軽量化されたしなやかな体と、大空を我が物とする機動力。武器である両足の鉤爪は獲物の肉を容易に切り裂く鋭さを誇る。
まさに空を蹂躙する怪物。
「………………………………………………………………………………………」
春賀は気絶した。
「うわああああ!」
「姫様を! 姫様をお守りしろ!」
人々が慌てふためく中、衛兵が槍を構え果敢に立ち向かう。
「ギャオ――――――――――スッ!」
鼓膜を裂くような鳴き声が衝撃波のように放たれた。
全員が咄嗟に耳を塞ぎ、身動きを封じられてしまう。
その隙にワイバーンが翼を広げた。
足の爪で魔導人形の両肩をがっちり掴み、あっという間にさらってしまった。
大空という、彼らの世界へ。
「うわ~ん! 僕、高所恐怖症なんだよぉぉぉぉ~~~~~………」
雲一つない青空に、春賀の情けない悲鳴が虚しく響いた。
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※数ある作品の中からこの作品を読んでくださり、本当にありがとうございます。
少しでもいいな、と思っていただけたなら、応援していただけるとものすごく励みになります!
次回更新は、12月20日(水)PM18:00を予定です。
そして心苦しいのですが、勝手ながらマギアギアはこの二章を持って一度休載させていただきます。
理由は多々ありますが決定的なのは、とある企画でこの作品の第一章〝魔法の軌跡〟に頂いた、的確過ぎるコメントでございます。
お手数ですが、詳細はそちらをご覧になっていただければと。
私ことアホが悶えてます。
もうラストまでほぼ書いたんやぞ………でも、ね………ぐす。
でも、他者様から頂いたご意見はどれもこれも至極真っ当。
ありがたすぎるかぎりです。
ここで改めて………貴重なご意見、本当にありがとうございました!
今後も精進します!
そして、マギアギアは休載しますが、必ずリニューアルして連載再開することをお約束します!
でも、最初からほぼ書き直すし、これって再開っていうのかしら? まいっか。
再開のご連絡は、近況ノートやエックスでご報告させていただきます。
もしよろしければ、新しくなった〝魔法少女マギアギア☆エリス〟も、変わらず読んでいただけると嬉しいです!
そしてそして、完結済みですが私の他作品【宇宙が繋いだ in ベイダー】もお目に通していただけると超絶嬉しいです!
では、ここまで長々と失礼しましたm(₋ ₋)m
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