愛するものの意思
避難は驚くほどスムーズに終了した。
お祭り騒ぎから一変した街の様相。人で溢れかえっていたメインストリートには人っ子一人おらず、その場に放置された屋台の列が虚しさをより一層際立たせた。
「ハルカくん。魔力燃料を」
「あ、そっか」
春賀はエリスの腰にマウントされていたボトルをフィアーナに渡した。
エリスは魔力がなければただのか弱き乙女。フィアーナの話では地球人である春賀の魔力で真の力を発揮するらしいが、生憎それが覚醒する兆しはいまだなかった。
なので昨夜偶然発見した方法。魔力燃料でその場しのぎをするしかない。
フィアーナもそのために魔力をちゃんと温存している。
「待っててくださいね。すぐに……あ―――」
フィアーナはバナナの皮を踏んでずっこけた。
「きゅう……」
フィアーナは気絶した。
「えええええええええええええなんでこんな時にいいいいいいいいいい!?!?」
一分一秒を争うこの状況でなんたる大ボケ。
お笑い的にはおいしいかもしれないが、なにもこのタイミングで。
「ちょっとフィーさん大丈夫!?」
「う~んもっとたべたい……」
だめだ。まったく起きる気配がない。
「どどどどどうすればばばばばっ!」
焦りまくる春賀。
このまま素で戦ってもその実力は、折り紙付きのクソ雑魚ナメクジ。
押し寄せるモンスターを相手にするなんてできるはずがない。
「ハルカ様」
頭を抱える春賀の後ろで誰かが名を呼んだ。
サリアリットだった。
「フィーの役目、わたくしに任せては頂けないでしょうか」
胸に手を当て、そう申し出てきた。
「わたくしもこの国を守るために、お役に立ちたいのです」
毅然としているように見えるが、その肩は微かに震えていた。
無理もない。
彼女はこれまでずっと安全な城で過ごしてきただろうし、命の危険に晒される異常性に満ちた空間に身を置くことは初めての経験だろう。
怖くないわけがない。
だが彼女はこの国の姫として、愛する国民を守るために小さな勇気を懸命に振り絞ったのだ。
「姫様!」
衛兵がやってきた。後ろには彼女の身を案じた数名の国民と、サリアリットファンクラブの法被を着た者や例の教団もいる。
「ここは危険です。すぐに避難してください」
「しかし……」
「戦は我々に任せて頂ければよいのです」
「そうですよ! 姫様がこんなとこにいることはない!」
「救世主様が何とかしてくれるんだ! それより姫様が怪我でもする方が問題だ!」
周囲の意見はどれも真っ当なものばかり。
衛兵たちはシムケン王から任を受けているだろうし、サリアリットがそれに従うことが正しいことは明白だ。
この国の姫に万が一があってからでは遅い。
なにより全員が本気でサリアリットのことを心配しており、彼女にもそのことが十分に伝わっていた。
「さあ姫様、こちらへ」
サリアリットは従うしかない。
せっかく振り絞った勇気は愛する民の意思によって蓋をされ、促されるままに歩き出す。
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次回更新は、12月20日(水)AM7:00とPM18:00、一本ずつを予定です。
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よろしくお願いしますm(₋ ₋)m
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