見えない威圧

 激しく打ち鳴らされた鐘の音が王都全体に響き渡った。


《敵襲! モンスター! 数! 三〇!》


 拡声器が事態を簡潔に伝える。

 周囲に緊張と動揺が一気に膨れ上がっていった。


「落ち着くのだ!」


 人々が混乱に飲み込まれる前に、シムケン王が大声を張り上げてそれを制した。


「皆の者、衛兵の指示に従いすぐに避難せよ! 男は女子供と老人に手を貸せ! 決して取り乱すでないぞ! 我らには強い味方がいることを忘れるな!」


 さすが一国の王は伊達ではない。

 大パニックも必至のこの状況で、一発で人々に冷静さを取り戻させた。

 フィアーナはいまだ全裸の王様に感心しつつ、我らが強い味方に向き直った。


「あわわわっ!」


 春賀はパニクってた。


「もう! しっかりしてください!」


 フィアーナは春賀の手を引いて、エリスのところまで引きずって行こうとする。


「どけっ!」


 ザカルガードが強引に割り込んできた。彼は押し退けた二人に目もくれず、まっすぐに魔導人形へと走っていく。


 彼が何をしようとしているのか、誰の目にも明らかだった。


「だめ!」


 それを阻止しようと、フィアーナが後ろから飛び掛かった。

 二人はもつれ合うように地面を転がる。


「何やってるんですかあなたは!」

「うるさいっ! 触るな亀裂者が! 貴様もあの迷信を信じているのか!」

「きゃあ!」


 ザカルガードはフィアーナを突き飛ばし、邪魔者を排除すると、荒い呼吸で魔導人形の前に立った。


「こんなもの……これが動かせれば、私だって救世主だっ!」

「どいてください」

「!?」


 春賀がすぐ後ろに立っていた。


「黙れ地球人! 貴様みたいな余所者に―――」

「どいてください」


 春賀は、ただそう言った。


「どいてください」


 単調に繰り返した。

 自分よりも背の高い男を前にしても一切怯まない。

 まっすぐにザカルガードの目を、ジッと見つめる。


「―――――っ」


 ザカルガードは道を明け渡していた。

 本人としても無意識だったに違いない。


 魔導人形は少年を乗せ、ゆっくりと立ち上がる。

 堪らず歯を食いしばるザカルガードを背に、去っていった。





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