*


 活気を取り戻したメインストリート。

 そこから離れた風車塔のてっぺんにいた二人の男。

 衛兵である彼らは王都内外を見渡せるこの場所で、監視警戒の任にあたっていた。


「ったく運がねえな、こんな時に見張りの番なんてな。そう思わねえかボエン?」

「そう腐るなよサーチス。下でバカ騒ぎができるのも俺たちがこうして真面目に働いてるおかげってもんだろ。ほら」


 不貞腐れる相棒にボエンは酒の入った小瓶を放り投げた。どうせこうなるだろうと密かに忍ばせていたのだ。


「飲みすぎんなよ」

「へへ、わかってますって」


 上機嫌に栓を開けるサーチスに嘆息しながらボエンが双眼鏡に目を当てた。


「異常なーし」

「はは、そりゃそうだ」


 茶化すサーチスをつま先で小突く。

 見ればすでに彼は酒を半分まで空けていた。


「悪かったよ。代わってやるからそんな顔すんなって」


 酔いで顔を赤くしたサーチスが双眼鏡をひったくり、酒瓶と交換した。


「いじょうなーしでありまーす!」


 やはり気を利かせたのは失敗だったとボエンは反省した。


「……………ん?」


 ボエンが舌を湿らせる程度に瓶を傾けた時だった。


「なんだ?」


 サーチスが前のめりになり、双眼鏡を覗き込んでいた。


「おいおい、あんまり乗り出すと落っこちちまうぞ」

「………………………」


 注意するも、返事はなかった。


「?」


 不審に思ったボエンが立ち上がる。相棒はまだ双眼鏡を構えたままだ。


 どうしたことか。

 あれだけ赤かった顔が青くなり、手が微かに震えていた。


「おい大丈夫か? 弱いくせに調子に乗るからだ」

「バカ野郎!」


 突然声を荒げたサーチスに、ボエンはポカンとしてしまう。

 だが何か、ぞくりとした悪寒が背中に走った。


「敵襲だっ! モンスターの大群だ!」


 ボエンはもう、見張り番に酒を持ち込まないことを固く誓った。



 *



 それらは空を移動していた。


 大きな翼で風を切り、逃げ遅れた鳥が道すがらに彼らの腹に納められる。

 たかが動物にその進行を妨げることはできない。

 彼らはまさに大空を蹂躙する暴君だった。


 さあ、脆弱な猿どもよ。我らが一匹残らず駆逐してやるぞ。


 甲高い鳴き声が、まるでそう言っているようだった。

 空を制するモンスターの群れは一直線に目指す。

 高い城壁に囲まれたレイブルノウ王国、その王都へ。


 もちろん、そんなものは彼らにとっては何の意味もなさない。






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