こいつは宴会でやったら盛り上がるぜ!

 ……スッ。


 サリアリットの目が紐を優しく解くようにゆっくり開かれた。

 扇子をあおぎ、宙へと舞った羽。


「……………………」


 この後一体どうなるのか。

 期待が高まる春賀の脳内では、サリアリットがキラキラ優雅に空を飛んでいた。

 しかし白い羽はひらひら空中を踊った後、


 ………………………ふわ。


 彼女が手にしたグラスの中にゆっくりと不時着した。


「はい!」

「…………。…………………。」


 春賀はまだ固唾を呑んで見守っている。

 しかし、サリアリットはやり切った感で聴衆に一礼。

 フィアーナが奇跡を見たとばかりにぺちぺち手を叩いている。


「あら?」


 思ったよりも春賀の反応が薄かったからか、


「では」


 今度は手いっぱいに掴んだ羽を宙へと投げ、扇子を一振り。

 風に煽られた羽たちは、また暫しの空中散歩を楽しんだ後、サリアリットが手にしたお皿の上に一枚の漏れもなく積もっていった。


「はいっ!」


 またポーズを取って一礼する。

 なにが?


「すごくないですか?」


 フィアーナが同意を求めてくる。

 だからなにが?


「えと……その……」


 春賀は反応に困った。


「サリーの魔法! その名も《絢爛操扇風ホーミング・フェザー》! 扇子で風を操って、羽根を狙った位置に着地させることができるんです! 一〇〇パーセントですよ! 必中なんですよ!」


 フィアーナが興奮気味に解説してくる。


 これは魔法なのだろうか。

 ぶっちゃけ大道芸の域を出ていない。


 春賀はワミ村で瓶底眼鏡の老人が説明してくれたことを思い出し、切なくなった。

 サリアリットには悪いが、いまいち凄さが伝わらないし、なんの役に立つのかもさっぱりわからなかった。


「ワシら王族は象徴的意味合いで魔法を習得する伝統があるのだ」


 と、シムケン王。


「ワシも風の魔法が使えるけど、城下で秘儀、いたずら好きの風を披露したらおなごたちに磔にされたんだよねー」

「スカート捲りの件ですね。一国の王が恥ずかしいですわ」

「なんで生きてるんですか?」


 フィアーナたちから軽蔑の眼差し。


「それでどうじゃハルカ殿、ワシの自慢の娘は。どっかの貧乳と違って巨乳だし」

「実の父とはいえセクハラですよ? あと来たるべき時のために今の発言も証拠として記録させていただきますから」

「来たるべき時って何!? 訴えられるのワシ!?」

「むしろ今までよく訴えなかったですよね。サリーに感謝してください」

「うっせーどっかの貧乳」

「よし殺す」

「皆さん、目を瞑って耳も塞いでください」


 メイドさんたちは忠実に従った。


「さあフィー、今のうちに」

「承知」

「ちょっと待ってよ娘さんんんんっ! おいこらてめぇら! 一国の王がヤキ入れられそうになってるのにわかりやすい見て見ぬふりしてんじゃないよおおおおおっ!」


 メイドさんらは完全無視。

 ただの自己紹介を兼ねたお食事タイムのはずが一国の王が針の筵状態。

 春賀はこの異世界テンションについて行けないまま、シムケン王が二人にボコられるのを苦笑したまま眺めるのだった。







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