茶目っ気たっぷり地球人
さっそく会食の席が設けられた。
「硬くならなくても大丈夫ですよハルカくん」
ビビッて末席に座る春賀の隣でフィアーナが励ましてくれる。
だが、一国の王族とメイドさん達に囲まれての食事なんて、春賀のパンピー人生ではありえないこと。
ここまで通ってきた廊下や階段も、テーマパークのお城にはない本物ならではの歴史や品格を漂わせ、厳かな雰囲気にチキンの春賀は完全にやられていた。
「フィアーナの言う通りだ。ワシも硬苦しいの苦手なんだよねー」
上座に座るシムケン王は扇子をあおぎながら、ほっほっほと笑い、
「さて、今一度自己紹介をするとしよう」
立ち上がって緊張で涙目になっている春賀に向き直った。
「ワシの名はシムケン・ド・リューフ・レイブルノウ。このレイブルノウ王国の王である。地球世界の救世主殿に最大級の感謝を」
深々と頭を下げた。
さすが一国の王。放たれる威厳や風格が一般人のそれとはまるで違う。
おかげで春賀はさらにカチコチになってしまった。
「ぼ、僕は真崎春賀っていいます……」
「ハルカ殿か。よき名前じゃ」
ほっほっほ。
「それにしても救世主殿がボクっこのお嬢ちゃんとはマニアが喜びそうだのう」
「ええっ!?」
「どったの?」
「僕は男ですよぅ!」
「マジで!?」
シムケン王はガチでびっくりしている。サリアリットも同様だ。
「いや、それはそれで……」
なにが、それはそれで、なのだろう。
心なしかメイドさん達の目がちょっと怖い。
「……あの、王様?」
春賀が意を決したように、おずおずと手を上げた。
もうずっと気になって仕方なかったことを、この流れで聞くことにした。
「その顔は……」
質問の意図はシムケン王の奇抜なメイクのこと。
「これは我が王族に伝わる有所正しき王族化粧じゃ。なんでも地球世界の殿と呼ばれる王は皆こうだと伝え聞いておるぞ」
シムケン王は誇らしげに語った。
しかし日本出身の春賀は王族化粧の元ネタに心当たりがありすぎる。
完全にバ○殿だった。
(……なんか、ごめんなさい)
春賀は真実を胸の奥にしまっておくことにした。
過去の地球人はなぜこんな悪ふざけをしたのだろう。
「我がレイブルノウ王国は遥か昔から地球人とは密接な関係にあってのう。彼らの技術提供のおかげで夏季も近づいておる中、こうして快適に暮らすことができる」
「? そういえばこの部屋、随分と涼しいような……」
「エアコンあるからね」
「ええっ!?」
またも驚愕の事実。
なんとネイバース世界にはエアコンが存在した。
壁に設置してある箱がそうだろうか。
「さすがに一般家屋には水車や風車の設置の関係上無理だが、城の要所には完備しておるよ。いや~ごくらくごくらく」
「はあ……」
なんかもうすごすぎて、春賀は言葉もない。
確かに圧縮した空気を空冷や水冷などして熱を取り出す熱交換機と、それを可能とする機構があれば、ファンタジー世界だろうとエアコンを作ることは可能ではあるが。
「して、ハルカ殿。お主も何か知恵を持っておらぬか?」
「え、いや、その……」
春賀はしどろもどろ。
よくいる主人公なら「俺TUEEE! ヒャッハーッ!」と、何かしら特化した知識や特技で無双するところだろうが、ごく普通の高校生で成績も残念だった春賀にそんなチートは悲しいほどにない。
「では何か道具などは?」
「……ないです」
着ている制服すべてのポケットを裏返して見せる。
もう泣きそうだった。
「お父様。救世主様が困ってますわ」
サリアリットが助け舟を出してくれた。
彼女の配慮は純粋にありがたかったが、それはそれでくるものがあった。
背景をさらにどんよりさせる春賀を、フィアーナがよしよしする。
そんないたたまれない空気を切り替えるためなのだろう。
サリアリットは静々と席を立ち、
「わたくしはレイブルノウ王国の姫、サリアリットと申します。以後お見知りおきを」
礼儀正しく一礼した。
(うわぁ、綺麗な人だなぁ……)
春賀は落ち込んでいたことも忘れ、サリアリットの容姿に見惚れた。
ここまで恥ずかしくて意図的に見ないようにしていたが、彼女の美しさにはため息すら漏れる。所作の一つ一つに優雅さと気品が溢れ、背景に白い薔薇が舞っているかのようだ。
「あの、ハルカ様とお呼びしても……」
「え、あ、はい……どうぞっ」
思わず声が上擦ってしまう。
しかし、白薔薇のお姫様はそんな彼の挙動を変に思った素振りもなく、
「ありがとうございます。わたくしのこともサリーとお呼びくださいませ」
ぱあ、と表情を明るくし、両手を合わせた。
このネイバース世界に召喚されてはや二日。
登場のたびに何かしら破壊する迷惑系魔法使いや、目の痛くなる髪色のマッチョな老人たち。あとバ〇殿というバラエティに偏ったラインナップの中で、サリアリットの存在は唯一無二であり、良心だった。
「フィーとはお父様同士の縁もあって、幼い頃からの親友なんです」
「そうなんです」
フィアーナが少し前のめりになった。
「サリーは昔から可愛くてですねえ、魔法使いとしても私に引けを取らないほど優秀で……あ、私の方が二つ年が上なのでハルカくんとは同い年ですね」
「あらあら、まあまあまあ。光栄ですわ」
嬉しそうに両手を合わせる白薔薇の姫君。
「そういえばダナデオは最近どうしてんの?」
「さあ。もともとあまり家に帰ってきませんからね。最後に顔を見たのは半年くらい前ですけど、どこで何をやっているやら」
困ったものです、とフィアーナは両手を広げて首を振った。
心配している風もないところを見ると、本当にそれが普通なのだろう。
そんな二人の世間話の最中、春賀の好奇心は別のところに注がれていた。
「サリーさんも魔法が使えるの?」
「はい。よろしければこの場でお見せしますわ」
サリアリットは張り切った様子で、メイドさんが持ってきたお盆に乗った扇子と白い羽根を一枚手に取った。
意識を集中させ、彼女の体が淡い
何度見てもファンタジー感のあるこの光景は、春賀をわくわくさせた。
(きっとサリーさんのように綺麗な魔法なんだろうなぁ。もしかして背中から羽が生えて空を飛んじゃったり?)
物騒でおもしろなジェット魔法ではなく、優雅に。
まるで天使のように。
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おきな
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