魔法の軌跡
魔法少女は立っている。
自分よりも巨大な怪物を前に臆することなく。
堂々と、力強く、その足で。
「ブモモモモオオオ―――――――――――ッ!」
ミノタウロスの雄叫び。
自慢の角をへし折られ、怒りが頂点に達したのだろう。
顔を真っ赤にし、鼻から蒸気を吹き出しながら姿勢を低くした。
先ほど見せた必殺の構えだ。
しかも放たれる闘気はそれをさらに凌駕し、あまりの迫力にフィアーナは微動だに出来ない。たまらず膝をつきそうになる。
だが、魔法少女は屈しない。臆さない。
その足を、前に踏み出す。
「フィー、見ていろ。世界を超えた力……これがお前の魔法だ!」
エリスは腰に手を回し、ファンシーなステッキを月夜に掲げた。
魔法。
それはネイバース世界における神秘の力。
しかしその実態は実用性のない、不安定。
無用なのだと、世間から見放された力。
それはフィアーナが突き付けられてきた現実で、真実―――だが!
「いくぜ! 熱い血潮の正義の魔法!」
《―――OK。HISSATSU・フォーメーション、起動―――》
魔力がステッキに集中する。
そして応える。
姿を変える。
フィアーナの魔力が形となり、一本の箒としてこの世界に顕現した。
さらに右腕と合体。エリスの全身から灼熱の魔力が溢れ出した。
「マジカル☆ロケットパンチ! 一撃ひっさあつ!」
次の瞬間、爆発的な推進力が発生。
乙女の体を一直線に加速させた。
ロケットパンチ(体ごと)が超高速で空間を突き進み、炎が焼かれた大地に灼熱の軌跡を刻み付ける。
ミノタウロスも地面を蹴った。繰り出される全身全霊の突進。
両者の必殺が真っ向からぶつかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ…………っ!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――ッ!」
強大な力同士の正面衝突。
互いは押しも押されぬ拮抗状態へと突入した。
これは魔力切れという明確なガス欠が存在するエリスにとってかなり分が悪い。
しかもフィアーナの魔法はただでさえ燃費が最悪だ。
対するミノタウロスは体力勝負。
たとえ体力が尽きてもそこから気力で踏ん張ることもできる。この勝敗の行方はいずれ最悪な形で決着となるだろう。
しかし、
《―――3……―――》
その見解には少々誤解がある。
一見して両者は互いの力をぶつけ合ったように見える。
そう見える。
事実ミノタウロスはそうだ。強靭な肉体を駆使し、筋力を総動員した突進はアクセルを全開にした重機に等しい。
《―――2……―――》
だが、魔法少女は違う。
そもそもそんな領域で勝負はしていない。
乙女が振るうは魔法の力。
《―――1……―――》
そんなこの世の理に縛られた力など、はっきり言って敵ではない。
「かっ飛べええええええええええええぇぇぇぇぇぇ――――――――っ!!!!」
爆音と空気が衝撃となってフィアーナにぶつかってきた。
エリスに搭載された全身のブースター機構が一斉解放され、機体速度がマッハの壁を越えたのだ。
音さえ振り切り、景色が溶けるスピードとパワーはミノタウロスの必殺を瞬間的に上回り、圧倒的なまでに凌駕した。
フィアーナの魔法の欠点は消費魔力の多さと燃費の悪さ。
ドレスコード・イフリートは、それらの弱点を引き継ぎつつも魔力を極限圧縮。二段ブーストによって一気に開放し瞬間威力を倍増させる、もともと爆発力に特化した彼女の魔法をさらに尖らせた、超攻撃的格闘型の姿なのだ。
魔法少女は拳を叩き込んだままミノタウロスを押し上げ、夜空へと駆け上る。
まるで月を目指すロケットのように。
まるで流星のように。
「ブモ……ブモオオオオ――――――――――…………………………………………
爆発が田舎の夜空を照らした。
星と呼ぶにはあまりに主張の激しい綺羅星は、それを遠巻きに眺める人々の目には理解できない、どこか不吉なものとして映った。
「……………綺麗」
真相を知る魔法使いの少女は、ただただ空を見上げていた。
思えば自らが空を飛ぶことはあっても、それを地上から見ることはなかった。
あれが、私の魔法。
なんて綺麗で、美しい。
フィアーナの背後にいた不安の気配は、いつしか消え去っていた。
彼女の琥珀色の瞳は暗い天上を明るく染めた魔法の光。
その中でなお、熱く輝く星を見つめていた。
紅蓮の流星が、きゅぴっと勝利のポーズをキメた。
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おきな
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