魔法少女はそこに立つ

「すごい……」


 フィアーナは変身したエリスの活躍に息を呑んだ。

 あれに乗っているのは本当にあの少年なのだろうか。

 情けない悲鳴は威勢の良い言葉へと変わり、いまやミノタウロスを相手に対等以上に渡り合っている。


「…………………」


 フィアーナは顔を背けた。

 もう、見ていられなかった。


 これ以上見続け、結果を目の当たりにするのが、怖かった。

 今はまだいい。

 だが、あの変身した姿が魔法という不確定要素で成り立っている以上、すべてが良い方向へ転がるとは限らない。

 ふとした瞬間に足場が崩れてしまうかのような不穏が、こうしている間も彼女のすぐ後ろに付き纏っていた。


 魔法とは原理不明の人知を超えたトンデモ能力。

 地球人がもたらした技術の前に敗れ、捨てられた力。

 誰にも必要とされず、淘汰され、忌み嫌われた力。


 フィアーナは魔法使いだ。

 そのことを誰よりも理解し、見せつけられ、味あわされてきた。

 どれだけ胸を張り、声を上げようと、すべては虚しさに消えていった。

 だが、それでも慣れてしまえば意外となんのことはない。

 そこで止まってしまえば、それ以上はなかった。


 フィアーナは、魔法使いだ。

 どれだけ笑われても、自分だけが誇っていればそれでよかった。

 まだ答えは出ていない。まだ自分は限界を出していない。

 そう自分に言い聞かせ、丸め込み、可能性という美しく温かな泥沼で浮いていればよかった。


 しかし事態は彼女をその安住から追い出した。

 それを承知であのボトルを掴んだ。

 波風のない可能性の泥沼に櫂を突き立て、どこへと知れぬ岸を目指し、漕ぎ出したのだ。

 もう遅い。投げられた賽はいずれ結果の目を示すだろう。


 フィアーナは、それが恐ろしい。

 魔法が存在するこのネイバース世界において、現実を目の当たりにするのがたまらない恐怖だった。

 覚悟の足らない精神が目を逸らし、瞼を閉じることを強要する。

 もし、この目を開いた時。

 あの姿が崩れ落ちていたら、もう………


「魔法の力を信じろ」


 その声は不安と恐怖に囚われたフィアーナの意識を呼び起こした。

 まるで先の見えない航海の果てで視界に映った一筋の光。

 絶望と恐怖から救い出してくれる希望の光だった。






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