魔法少女、完成☆

 ミノタウロスはいまいち緊張感のないこの戦いに痺れを切らすように、熱い鼻息を吹き出した。その巨体を屈め、まるでアメフトのように姿勢を低くし、丸太のような足が力強く地面を掻いた。

 全身から放たれる闘気が必殺を物語り、フィアーナのところにまでその迫力が伝わってくる。


「あうあうあう、もうだめだぁ~」


 諦めの早い春賀がひらひら土下座の姿勢。

 ロボがやると実にシュールだった。


「ハルカくん!」

「え?」


 ガンッ!


 フィアーナが投げたボトルがエリスの頭部を直撃し、ひっくり返った。


「あー、えっと……ごめんなさい」


 謝った。


「ブ、ブヒ……」


 ミノタウロスもちょっと引いていた。


「あいてて……なにこれ? 缶ジュース?」


 春賀は赤く発光するボトルを見て、率直な感想を述べた。

 フィアーナは知らないが、サイズこそ二リットルペットボトルだが、その形状は地球世界に現存するアルミ缶に酷似していた。


「これを飲むってことかな? ロボットだけど」


 プルトップに指を引っかけ、栓を開けた。


「飲まなきゃやってられないってやつなのかな。よくわかんないけど、ま、いっか」


 エリスの口部が、まるでそれを渇望していたかのように開いた。

 がぶがぶ飲み干す。


「ほんとにロボットなの?」


 ごっふ。


 ゲップまでした。


「ほんとにロボなの!?」


 さすがの春賀もびっくりだった。

 そんな矢先、魔導人形の内部で無機質な電子音声が流れた。


《―――OK。リリカル・カクテルによる外部魔力を検知。魔力カラー確認。モード切替。インストール開始―――》


 次の瞬間―――


 赤い閃光が、夜の闇の中で膨れ上がった。


 ―――巡る。


 真紅の魔力が鋼鉄の体に。

 世界の域から外れた神秘が魔導人形を聖なる次元へと誘う。


「すごい……」


 フィアーナはその光景に目を奪われた。

 光の中心で佇む、その姿。


 ―――そして、唱える。


 このネイバース世界に轟く聖なる呪文。

 絶望を焼き尽くし、奇跡を起こす魔法の言葉を。


「マジカル☆コンプリイイィィィ―――――――――――――トッッッ!!!!」


 光が弾けた。

 灼熱の熱波が田んぼの水を一瞬で蒸発させ、燃え盛る焔が鋼鉄を彩った。紅い魔力が肢体を包み、泥だらけの体を浄化する。

 ぽんっ☆と弾ける紅蓮のセーラー服。フリフリのスカートが陽炎にシャラン☆と揺れ、その下にある悩ましき純白がちらちらと顔を出した。

 きゅぴんっ☆と頭に被ったとんがり帽子の奥で単眼が、きらっ☆と輝く。


《―――インストール終了。ドレスコード・イフリート、展開完了―――》


 乙女は告げる。

 この世界に奇跡が舞い降りたことを。


 乙女は刻む。

 この世界に光をもたらす聖戦士の名を。


「魔法少女マギアギア☆エリス、完成だぜ☆」






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