悪寒

 別人かと思った。

 これまでずっと泣き言を繰り返し、体力面では自分にすら敵わない。言っては何だが男らしさの欠片もないあの少年が、まるで違う人間のように思えた。


「…………………………」


 どうしてだろう。

 彼はこちらが言うまでもなく、進んで魔導人形に乗ってくれた。

 腰を抜かすほど怖がっていたのに、文句のひとつも口にせず、戦う意思を示してくれた。

 なのに、なぜこんなにも違和感が胸をざわつかせる。

 それにあの言葉の意味は一体………。


 フィアーナはあの異様な落ち着きを持った少年に、安心感やそういった類のものではない。

 なにか底知れぬ寒気のようなものを感じていた。


「ブモオオオオオオォォォォ――――――ッ!」


 そんな彼女の懸念は現実の脅威の前に吹き飛んだ。

 突っ込んできたミノタウロスが馬車を粉々に粉砕する。


「きゃあああああっ!」

「フィーさん!」


 宙へ投げ出されたフィアーナを、魔導人形がヘッドスライディングで受け止めた。


「わわっ、動けた! 動けたよこのロボット!」


 中から響いた少年の声は驚きと興奮で満ちていた。


「すごいすごい! ロボットに乗るだなんて男の子の夢だよ! 感動しちゃうなぁ」


 呑気にはしゃいでいる。


「なんだろう? よくわかんないけど、パワードスーツ感覚?」

「ハルカくん!」

「はい? だわんば!?」


 奇天烈な叫び声を上げた春賀。反射的に頭を抱えたエリスの頭上を、丸太のような腕が唸りを上げて通過していった。

 図体は大きくなったが、その様はいじめっ子から身を守る子供そのものだった。

 

 しかし、違う。

 あれは魔導人形、マギアギア。

 選ばれし者をその身に宿し、大いなる力を発揮する鋼鉄の人型。

 そして、―――


 救世主、真崎春賀によってそのヴェールが、今解き放たれる!


「お助け~!」


 春賀は逃げた。

 逃走する姿が完全にギャグマンガだった。


「ブモ……」


 ミノタウロスもちょっと呆れている。

 しかしすぐに気を取り直し、地面を鳴らしてその後を追った。


「……………あ、待ってくださーい!」


 フィアーナも後に続いた。

 なんか、思っていたよりもずっと空気が緩かった。


 先ほどのは気のせいだったのだろうか………。






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