この世界の、魔法

「おいおめぇら。王都に行くのは明日なんだら?」


 フィアーナが救世主である地球人の召喚に成功した。その吉報を報せるために伝令が王都へ馬を走らせ、春賀たちも明日そこへ向かう運びとなっていた。


「そんまでやることねーんなら畑の手伝いしてきゃあて」

「天才巨乳美少女魔法使いの私がなぜ?」

「じゃかぁしいまな板」


 容赦ない物言いである。

 他の人もこぞってフィアーナを指さし、念仏のようなトーンでまな板コール。

 見栄っ張りな性格が故の自業自得とも言えた。


「きゅうりの坊主」


 春賀のことらしい。


「おみゃーもやることねーんなら手伝ってきゃーよ」

「馬鹿おめぇ!」


 別の老人が焦った様子で割り込んできた。


「地球人にそったらことさせんな! 失礼だぎゃ!」


 随分と対応が変わったものである。

 春賀の正体を知った老人たちは途端にニコニコ愛想が良くなった。これが救世主効果だろうか。

 春賀は、ま、いいか、と特に気にせず、にへらと笑った。


「別にいいですよぅ。働かざる者ってのもわかりますし……というか、フィーさんの魔法でばーっとやっちゃえば……」


 フィアーナは鍬を担いでいた。


「あいつが使える魔法はあれだけだがね」

「え?」


 箒星点火スターダスト・バーニアン

 ジェット機の如く箒で空をぶっ飛んでいった、あれ。


「魔法なんてもんはそんなもんだぎゃ」


 すると老人は度のきつそうな瓶底眼鏡をおもむろにかけた。


「説明しよう」


 するらしい。


「おみゃーら地球人の認識はどうか知らんが、魔法は学問とも呼べないような〝よくわからん原理不明のびっくり能力〟なんだや」


 魔法を発動するために必要な魔力は、命ある者なら誰しも持っている生命のエネルギー。

 しかし、魔法がどういう原理で発動できるのかは、まったくの謎なのだそうだ。


(機械が電気で動くのは知ってるけど、なんで電気で動くのかはわからないとか、それと似たようなものかなぁ)


 春賀は眼鏡をやたらクイクイする老人の説明を自分なりに咀嚼した。

 過去には魔法の研究もされていたらしいが、時間と費用が浪費されただけで、見合った成果はさっぱりだったらしい。


「そして魔法ってのもまた曲者でな。何の因果か神様の悪ふざけなのか、魔法使いが扱える魔法は、それぞれたった一つなんだや」


 それも春賀が想像していた、いわゆる便利能力とは程遠い癖の強いものばかり。

 これは何が悪いとかではなく、そういうものとしか言いようがないのだそうだ。


「魔法の種類も個人でバラバラで統一性もない。教えようにも論理的なもんが無いから具体的な説明ができず、どうしても感覚的なものになっちまう。しかも習得しても役に立つんだかわからない、ヘンテコなもんばかりときたもんだ」


 フィアーナの魔法はすごいと言えばすごいが、日常的な利便性という面では疑問だ。あれしかできないのなら汎用性も薄いだろう。


「そんれに比べておみゃーら地球人の技術は素晴らしいの一言だぎゃ。原理や仕組みも十分に理解できるし、説明すれば理解させることができるんだからな」


 他者に伝えることができる。

 文字に起こし、書物にし、技術を広めることができる。

 つまりは〝教育〟ができるということだ。

 対して魔法はそれの逆。

 おまけにその実態に不明瞭な部分が多すぎるとくれば、このネイバース世界で魔法への意識が低いのも頷ける。


 地球世界では自動車が当然のように普及しているが、それは原理が解明され、構造を緻密に設計し、基準を満たす安全性が確保されているからである。

 なんの仕組みも原理もわからない未知の能力など、はっきり言って危険すぎる。


「っちゅーわけで、魔法なんて無用の長物。わざわざ自分から好き好んで魔法使いになろうとする酔狂な奴なんざいねーんだがや。それが普通なんだや」


 普通。

 その言葉が妙に春賀の耳の奥に残った。

 心なしか、鞍を振り下ろすフィアーナの背中が寂しそうに見える。


「おーい、握り飯作ったけど食うきゃ?(声をかけてきたおばあさん)」


 鍬をほっぽり出して食べに行った。

 気のせいだったかもしれない。





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