ネイバース世界

〝ネイバース世界〟

 それは春賀のいた世界―――地球世界と呼称されているらしい―――とは別の世界。


 驚くべきことにネイバース世界には過去、地球世界から多くの人が召喚されており、歴史を辿ればかるく数百年にも遡るという。


 特に大陸四大大国の一つ〝レイブルノウ王国〟は彼らとの関わりが深く、それによってもたらされた文化や技術によって多大なる発展を遂げた歴史があるそうだ。


 春賀たちがいるこのワミ村もレイブルノウ王国の領地内であり、ここで行われている稲作などの農耕技術も彼らによって伝えられ、特に米は平地が多いこの国の名産品であり国益の一端を担っているとか。


 ちなみにこの世界の人たちが普通に日本語をしゃべるのも、過去に召喚された日本人によるもの―――と、フィアーナはざっくばらんに説明してくれた。



「感動だ……っ!」


 圧巻の一言だった。

 披露された現実をそのまま言うなら、フィアーナが箒で空を飛んだ、だ。

 字面そのままだと、ぽわぽわ空間での優雅な空中飛行を想像するかもしれないが、実際はそんな可愛らしいものではなかった。


 彼女の魔法はまるでジェット機さながら。爆音と共に箒から激しい炎を吹き出し、マッハの速度で空を一直線にぶっ飛んでいったのだ。

 その光景に魔女っ娘アニメのようなファンシーさはなく、どちらかというとトップガンに近い。


 だが春賀にとってそんなことは些細なこと。

 本物の魔法を目に少年のハートはがっちり鷲掴みにされていた。


 空の彼方へぶっ飛んでいったフィアーナがジェット魔法で戻ってきた。ソニックブームが巻き起こり、周囲の水田が慌てふためくように波打った。


「これが私の魔法、《箒星点火スターダスト・バーニアン》です」


 名称も魔法というより異能という方がしっくりくる感じだった。

 ドヤ顔で胸を張るフィアーナの体を包んでいた紅い魔力の光が消えていく。


「すごいやフィアーナさん!」


 春賀は興奮しながら彼女に駆け寄り、


「ゆべし!」


 どん臭く転んだ。

 草履の代わりに革靴をもらったのだが、つま先がおもしろいくらい上向きに曲がっているせいで絶妙に歩きずらかった。


「大丈夫ですか?」

「う、うん。それよりフィアーナさんってすごいんだね」

「ありがとうございます。それと私のことはフィーと呼んでください。もしくはフィーお姉さんかフィーお姉様。フィーお姉ちゃんでも構いませんよ」


 聞けばフィアーナは十五歳の春賀よりも二つ年上らしい。


「……じゃあ、フィー、さん」

「うんうん。よしよし」


 まるで小動物にするかのように春賀の頭をわしゃわしゃする。


「地球世界から召喚した救世主様が可愛らしい女の子とは思いませんでした」

「ええっ!?」

「?」

「僕は男だよぅ!」

「うそっ!?」


 フィアーナはマジで驚いている。

 最初に老人らにも勘違いされたが、それも致し方ないというもの。

 春賀の顔立ちは女性の方に傾いた童顔で、目元もぱっちり二重まぶた。体格も小柄でフィアーナよりも身長が低い。あまり日に当たってこなかったせいで肌は真っ白。運動不足と少食がたたって身体はガリガリ。体脂肪率はたったの五%で筋肉成分はチキンナゲットの方がよっぽどある。

 残念ながら初対面で彼を男だと認識する材料はあまりに少なかった。


「ごめんなさい、ハルカ……くん?」

「そこで違和感感じないでよぅ!」


 湯気を出してぷんぷん怒る。

 フィアーナは、そういうところやぞ、と思った。


「それにしても……僕、本当に異世界に来ちゃったんだ……」


 春賀は東の空に傾きかけた太陽を見上げ、感慨深そうに呟いた。

 少々大味ではあるものの、魔法を見たことでようやく実感し始める。


 ここはネイバース世界。

 自分が住んでいた地球世界とは違う世界。

 太陽が西から昇り、東に沈む、魔法というファンタジーが存在する世界。

 自分は今、その世界にいる。


「魔法って僕も使えるのかなぁ………あれ?」


 春賀は何の気なく口にしたのだが、途端に周囲からの雰囲気がおかしくなった気がした。

 今まで各々仕事をしていた人たちの手が止まり、眉をひそめた視線をこちらに向けてくる。


(う~ん、ま、まあいいか)


 考えるのが億劫になった春賀が、早々に思考を打ち切った時だった。

 遠巻きの景色に、それが見えた。





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