【第一章】異世界! 救世主! え? 僕? ま、いっか
ネギ畑とマッチョな仲間たち
視界に飛び込んできた陽の光。
眩しくてかざした手の隙間から、雲ひとつないクリアな青空が見えた。
(……あれ、僕は……う~ん頭がぼーっとする。体もなんだかだるいや……)
それでも何とか現状の把握を求めて、鈍い思考に働きかける。
まず自分がどこかで横になっていることはわかった。舗装されたアスファルトではなく土の上で。
太陽が頂点にあるところを見ると、時刻は昼だろうか。
(少なくとも近所じゃないのかな? というか東京ですらない気がする)
おそらくはどこか地方の片田舎か。
(……でも、なんで?)
とりあえず直近の記憶を手繰り寄せてみる。
高校入学から三か月が経過して、今日もいつものように帰宅して、それから……。
「ま、いっか」
春賀はあっさり思考を放棄した。
確かにいくら考えても自分が見知らぬ土地にいることには変わりはなく、それより今後のことに頭を使った方が建設的ではある。
だが、あいにく春賀はそこまで考えておらず、単に能天気だからだ。
寝転がったまま制服のネクタイを緩め、大きく深呼吸。
濃度の濃い緑の青臭さはあるが、大気汚染とは無縁の澄んだ空気はなんとも心地よい。
こんなに深く呼吸をしたのはいつぶりだろうか。
「もしかしてここは天国かも……」
春賀はポカポカ陽気に誘われるままに目を閉じ、
「おめ、何やっとりゃあッ!」
びくーん!
起こされた。
春賀はいつの間にか農耕具で武装した老人たちに囲まれていた。全員が日焼けしたマッチョで、春賀なんかよりもよっぽど健康的だった。白い歯とはち切れんばかりの筋肉が眩しい。
その一人とバッチリ目が合う。
「見つけたがやこ―――」
「うわ~んごめんなさ~い!」
春賀は怒声が出るのに先んじて、謝った。
「違うんですぅ~! 僕は泥棒じゃありませ~ん!」
情けなくひらひら土下座する。
彼の周りには、盛り上がった土からたくさんのネギの葉が列となって突き出ている。
つまりこの武装した老人たちは、ネギを盗みに来た不届き者を成敗しに来たのだ。
「……す、素直に謝るのは見上げたもんだぎゃ……」
老人らは面食らっていた。
多少の抵抗は予想していた彼らにとって、こんなに感情丸出しで平謝りされると逆に反応に困る。
「じゃ、じゃあめぇな―――」
「わからないんですぅ~! 本当に気がついたらここで寝てたんですぅ~!」
「? お、おお……」
「信じてくださぁ~い!」
春賀は涙ながらの潔白を訴える。
もう少し強気に出てもよさそうなものだが、あいにく春賀にそんな度胸はない。
「そ、そったらこと信用できっか!」
「ひい!」
鍬を突き付けられた。
あれよあれよという間に縄で縛られる。
「詳しい話は向こうで聞いてやるがや」
「たっぷり可愛がってやんべ」
おしりを触られた。
身も毛もよだつ寒気に春賀は声も上げられなかった。
「ヒヒヒ、さっさと歩きゃーて」
「がくがくぶるぶる………あイタッ!」
裸足のまま動いたもんだから、思いっきり小石を踏んでしまった。
「おっめ履もんも履かんと。ほれ」
草履を借してくれた。
普通に親切だった。
でも、おしりはずっと撫でられてた。
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おきな
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