白雪雫のその後

「白雪雫のその後、前編」


忘れた記憶

忘れたい記憶‥


私は白雪雫だ。


私は長い長い夢を見ていた。


顔も名前も思い出せないけど多分初恋の相手の記憶。


多分それも夢だ。


私は夢では裏高に通ってたはずなのにどうやら新咲女子しんさきじょしの生徒らしい。


いや、ここでの記憶も勿論ある。


友達もいるし好きな本を未だに沢山好きだし‥


でも記憶が曖昧な時もある。






私は長い長い夢を見ていた。





冬のある日いつも通り学校に通う。

もう3年生の私は大学も決まっていた。

ただあの学校の古臭い空気の図書室が好きでよく行っている。

別に家が嫌いという訳じゃないけど、あそこに居ると私は落ち着く。


本当の私ってなんだろう‥

なんて事を思う。


今年の冬は暖冬らしい。

私はこんな名前だけど寒さも冬の空気も苦手だ。

出来ることならずっと春でいい。

なんて思ったりもする。


新咲の3年はもう自由登校の時期で基本は誰も来ていない。

だから最近はずっと同じ日々の繰り返しだ。

朝起きて図書室に来て帰って寝る。


別に主人公でもヒロインでもない私がこうなるのは当たり前なのである。


ガラッ!


またいつもの図書館。


でも、いつもと違う光景。


「こんにちは〜」


同じ3年の子だ。


「おはようございます。」


「あなたって白雪さん?だよね?」


「はい?」


何故か私に話しかけてきた。


「私、新河優妃しんかわゆうひよろしくね。」


新川という名字に何故か懐かしさというか寂しさというかそんな複雑な感情抱いた。


「よろしくお願いします。」


「いやさ、私今彼氏出来たんだけどさ〜」


「え?」


私にいきなり会ってそんな話をしてくるなんて大胆だと思った。


「それで、彼氏に読書が趣味とか言っちゃってさ〜、本当は小説なんて読んだ事なくてさ!

でも、彼氏も本好きだからなんとか話合わせたくて嘘ついちゃったのよ。

で、困ってたらクラスの子に雫ちゃんって毎日図書室に居る本好きの子が居るって教えて貰ったのよ。」


遠回しに寂しいやつって言われてる気もした。


「それで?」


「だからさ、なんかオススメの本とか無い?」


「オススメですか?あれでしたら、有名な作品のあらすじと大体の流れを‥」


「それも考えたんだけどさ、やっぱ好きな人の趣味なら私も好きになりたいじゃ無い?」


「だったら嘘つかなければ良かったんじゃ‥」


「ひどいよ〜雫ちゃん!!元も子もないこと言わないでよ〜!!」


「まあそうですよね‥わかりました。どんな作品が良いですか?」


「うーんとね!私実は漫画も長い文章飛ばして読んじゃうから、そんな私にもぴったりな‥」


「ありませんよ。」


「ですよね‥」


「まあそんな酷い事言いませんよ。こちらなんてどうでしょう。」


そう言ってわたしは、梨屋アリエ先生の”プラネタリウム”という作品を渡した。


「短編でどれも読みやすいですよ。

私は特に1話の”あおぞらフレーク”がオススメです。」


この作品は私が初めて読んだ小説だ。

それまでは興味がなかった小説を好きになり惹かれていったそんな私の初めてだ。


「いや、でも彼氏は純文学とか好きって!」


「悪いけど新川さん?あなたがそんな作品を読めるようになるにはまだまだまだまだ先の話だと思うのだけど‥?」


「そ、そうだよね‥ありがとう、プラネタリウム読んでみるね。」


「良い出会いになるといいですね。」


そうして新川優妃は図書室を後にした。


私はまだ記憶の齟齬を感じた。


それに”新川”という名前がつっかかる。


「今日はなんかおかしいわね‥」


本を読もうにも何故か集中できなかった。


「帰ろうかな‥」


いつもは夜遅くまで居るが今日は何故かそういう気持ちになれなかった。

私は2学期頃から何か異変をずっと感じていた。

それと同時に初めて読んだ小説の事や昔読んでいた小説を思い出していた。


元といえば人と話すのが苦手で人の心が読めないのが苦手だった私は絵本や漫画、小説に逃げた。

よく、小説で過去に戻ったり何度もやり直したり出来る話があるが、私はそれに憧れているんだと思う。


しかし、過去に戻った所で何かしたい事があるのだろうか‥


「あれ?雫さん?」


突然知らたい人に話しかけられた。


「やっぱり雫さんですよね?私ですよ!って会った時は小学生でしたもんね‥」


「ごめんなさい、あなたの事‥」


「てか、裏高から転校したんですか?」


今裏高って‥


「ごめんなさい、あなた私の事本当に知ってるの?」


「当たり前じゃ無いですか、あなたのおかげで前向けたんですから!って名乗った方が良いですよね‥私、有栖桃花ありすももかです。」


有栖‥どこかで聞いた事あるような‥


「私の事で知ってる事教えて欲しいの!」


「いいですよ。」


.


.


.


私は私の話を聞くためにカフェに来た。


「ごめんなさい、私のわがままで‥」


「気にしないでください。雫さんのおかげで私助けられましたから。」


「まず私が裏高に居たって言うのは‥」


「私が知ってる記憶では文化祭までは確実に雫さんは裏高の生徒でした。なんなら私達同じ中学校でしたよ!

それで、私と同じで優くん‥新川優希しんかわゆうきの事を好きでしたよ。」


「新川‥優希‥。」


ー続くー

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