「菊池ゆいのその後、後編」


結局描いた絵が完成するまでうちのカフェで待っててもらう事にした。


「ゆいさんのお家ってカフェなんですね。」


「いや〜ここも雰囲気がすごくいいね!」


「もう少しで完成するから少し待っててね。

お父さん、コーヒー入れてあげて〜」


「はいよ。」


そして私は部屋に戻り最後の仕上げをしていた。


.


.


.


「お待たせしました〜」


「桃花ちゃんこれ‥」


「すっっごく良い!」


「うん!曲のイメージにもピッタリだよ!」


「ほんと?ありがとう‥」


家族以外に褒められるのは久々でなんか小っ恥ずかしい感じもした。


「あの、ゆいさん、良かったらさ、今度の日曜日にライブがあるんだけど昼間だしここから割と近いんだけどさ、ちゃんと電車賃とかもろもろ出すんで〜」


「ここって優希ゆうき君の住んでる所の近くだ。

って、ごめん個人的な話を‥」


「え!!優君の知り合い!?!?」


「優希を知ってるんですか???」


想像もしてない返事が返ってきた。


「え、優希君って新川優希しんかわゆうきだよね?」


「そうです!まさかこんなにも世間が狭いとは‥」


「もしかして、あんた夏休みに優君と2人でお祭りデートしてた子??」


「え!!何で知ってるの???」


「私、桃花って名前でモデルやってて‥」


「そういえば、優希君がなんかこの街に来てるって言ってた!!」


そうして私は新川優希に振られた会に入会した。


「あいつ結局、風夏さんの所行ったとかありえないですよね〜」


「そうだよね、私なんて小学生の頃優希君が好きだったらしいからね!」


「え?今なんて?」


「いやだから、小学生の頃優希君が‥」


「あいつ‥‥私も優君に小学生の頃好きだったって言われたわよ?」


「なんだか優希って割とたらし??」


「まああんな奴の事なんか忘れましょう。」


「そうそう、とりあえず、萌ちゃんのライブ見に行くよ!」


「本当ですか?嬉しいです!」


そうして私はライブを見に行く約束をした。


「じゃあ私達そろそろ行くね!今日はありがとう。このお店とかこの絵とかイソスタに上げても良い?」


「全然良いよー大したものじゃないし!」


「本当にすごく素敵な絵だよ。」


「ありがとう!」


「じゃあまたね!」


「ライブの日よろしくお願いします!」


そう言って2人は帰った。


「私がこんなにも自然に話せるなんて家族以外で初めてだったな〜」


なんて干渉に浸るほど楽しかった。


.


.


.


そしてライブ当日、私は桃花ちゃんと待ち合わせする事になった。


「お待たせ〜」


そう言って桃花ちゃんはイケメンを連れてきた。


「こ、こんにちは。」


「遅くなってごめんね、彼は同じモデル仲間の七海和也ななみかずや!見た目よりいい奴だから大丈夫だよ!」


何が大丈夫なんだろうか‥


「あの、菊池きくちゆいです、はじめまして。」


「どーも。」


確かに背も高いしモデルなだけあってスタイルもいいから威圧感が‥


「彼はSPみたいなもんだから気にしないで?」


「そう言われても‥」


「菊池さんは気にしないで。」


確かに少し優しさがあった。


「とりあえずライブハウス行こうか!」


「うん!」


そうして私達はライブハウスに向かった。


「着いた〜」


思ったよりも明るいライブハウスで思ったよりも人が多かった。


「そろそろ出番ね。」


そうしてライブハウスが無音に包まれた。


早乙女萌さおとめもえです。よろしく」


どうやらここに居る大半は萌ちゃんのファンらしい。


「それでは聴いてください”ダイスキ”」


あんまり音楽も聴かないタイプの私はなんて表現すれば良いか分からないけどただただ良かった。

透き通ってるのに歌に載せてるのに感情がここまで溢れてるのがすごく沁みた。


「♪〜愛の先どころか友達の前で止まった私達〜ないよ永遠〜あるのは空虚〜」


脳裏に私が描きたい絵が浮かんだ。


「これだ‥」


つぶやしてしまうほど描きたい絵のイメージが湧いた。

そうして5曲ほど演奏をしてライブは終わった。


.


.


.


「ゆいさん!来てくれたんですね!」


「もちろんだよ!」


「ありがとうございます、あのどうでした?」


「私さ音楽とか普段聴かないんだけどさ、今日聴いて、ここに来て良かった。あのさ、本当にお金とかいいから私にジャケットの絵、描かせて欲しい。」


「いいんですか?」


「うん。萌ちゃんの感情と私の描きたい感情って完全には同じじゃないとは思うけど近いところもあると思うの、だならいいかな?」


「当たり前じゃないですか!」


たまたま出会った人がたまたま私の感覚と似てて当たり前じゃないこの気持ちがとても嬉しかった。

好きな人が一緒だったりするのって今まで無かったけどそれを含めて自分を愛せてる萌ちゃんがかっこよく見えたからこそ私もこうなりたいと思った。


.


.


.


波の音、風の音、カモメの鳴き声、全てが止まり訪れる無音、そして萌ちゃんの歌声。


それ全部が私の絵を更にブラッシュアップしてくれる


直感で描き続けた。

私にとって絵は1番素直に感情を伝えられるのかもしれない。

このガッシュのマットな質感が私の乾いた心のよう。

萌ちゃんの心の叫びが広がる様にそして1番届けたい貴方に‥


「出来た。」


下手くそかもしれないし届けたい人には届かないかもしれない。

それでもこれが今の私だ。


これが今の想いで感情だ。


選ばれなきゃ選べばいい


届け。

私の全部‥


.


.


.


後日、萌ちゃんと桃花ちゃんに来てもらった


「どう、かな??」


「凄い‥」


「生きてるみたい。」


「凄いですよ!!!ゆいさん!まるで私の気持ちの写し鏡みたい!」


そう言ってもらえて良かった!

私の絵が誰かの力になるんだという事がとっても嬉しかった。


「曲が出来たらまた連絡しますね!」


後日完成したCDが届いた。


「ゆい、これって‥」


「うん。私が描いた絵なの。」


「凄いね!これって早乙女萌のCDだよね?」


「かおり、知り合いなの?」


「いやいや!知り合いな訳ないじゃん!学校で結構流行ってるアーティストだよ?」


私が知らないだけで桃花ちゃんも萌ちゃんも結構な有名人らしい。

そんな人の手助けになれたなら良かったな


「かおり、やっぱ人生は恋だけじゃ無かった!!」


「そっか、良かったね!ゆい!」


「うん!」


こうして私の人生はまた始まるのであった。

いつか優希君の事も忘れられるぐらいになれるといいな。


ー終わりー

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