菊池ゆいのその後

「菊池ゆいのその後、前編」


こんにちは、菊池きくちゆいです。

冬に優希ゆうき君と風夏ふうかちゃんに振られてから私の長い長い初恋は完全に終わりを告げられました。

でもかおりは人生恋だけじゃないと言ってくれました。


「あれお父さん〜ゆいは〜?」


「また海に行ってるよ。」


「最近また描き始めたんだね。」


「らしいな、まあ美大にも行きたいとかこの前相談されたし。」


そう、私は昔から好きだった絵をまた最近描き始めることになったのです。


私はかおりと違って運動が出来るわけじゃなかったし、幼稚園の頃に何となく書いた絵をたまたま先生に褒められた事がすごく嬉しかった。


そのまま小学生も中学生も賞を取ったりこんな小さい町では絵が上手いと少し有名だった。


が、高校に入って自分より沢山絵が上手い人が居るのを知って私は美術部は疎か絵を描く事もやめていた。

正直かおりと話してれば面白いし家の手伝いとか家族とか数少ない友達とか優希君とかそういうのがあれば十分だと思ってた。


「おーい!ゆい〜!」


「おはよ〜かおり。」


「朝からまた描いてるんだ。」


「うん、最近なんか描きたくて。」


「その方が良いよ!!絶対!!

無理に描く必要もないしやりたい時にやれば良いんだよ!」


「ありがとう〜」


「いや、でも相変わらず上手いねゆいは!」


そう。十分だと思ってただけで本当は全部全部失いたくないって気持ちが強かった。


そんな自分を知ったのは夏頃、そしてこの前、風夏ちゃんに勝てないと思った時に私の中で何かが崩れた。


「私さ、別に1番とかにはなりたいタイプじゃないってずっと思ってたの、でも最近気が付いたんだ。」


私がもし幸せになるならすっっごく大金持ちになるか優希君と一緒にいれるか優希君が死ぬか好きな事で成功するかしかないって最近思い知った。

だから自分を封じ込めるのは辞めた。


「確かに昔からゆいは何でも諦めて別に良いよって言ってたもんな〜

でも今のゆいもかっこよくて好きだぞ!」


「もう諦めたくないんだ。そう思わせてくれたのは多分、いや優希君のおかげ?いや優希君のせいかな〜」


「まぁ確かに長い長い片想い、いや両想いが終わりを告げたんだもんな〜」


「両想い?」


「あれ、言ってなかったっけ?優希のやつタイムカプセルの時嘘つきやがってよ、本当はゆいと結婚してるか?って書いてたんだよ。」


「ええ!!!!知らなかった。」


「まあでも奴が選んだのが完璧超人の風夏様だからな〜ムカつくぜ。」


「そうなんだ‥」


複雑だけど少し嬉しいような

でもじゃあ小学生の頃に両想いって知ってたらなにか変わったのだろうかとも思ってしまった。


「まあ今は絵もあるしいつか良い出会いとかもあるだろ?ゆいはなんて言ったって可愛いからな〜」


「一卵性の私たちなんだから自分の事可愛いって言ってるのと同じだよ?」


「ハハッ、確かにな。

でも今のゆいに足りないのは気持ちだけだと思うよ!!」


「それが難しいんじゃん!」


「まあ頑張れよ〜

じゃあ私は朝練があるから!また!」


そう言ってかおりは去っていった。


思ってるよりも本当は何でも出来るのにできないふりして逃げてきた。

だからこそ今は自分ができる全力を出してみたい。


惰性、偽り、愛情、哀愁、苛立ち


全部が混ざって気持ち悪くもあり気持ちも良い

今年は暖冬なのか毎日心地よい気温が続いている。


波の音、風の音、カモメの鳴き声、全てが止まり訪れる無音


その瞬間に自分の鼓動の音だけがこだまする瞬間が気持ちがよく筆が進む。


私はアクリルが好きだ。


このやり直しの効かない感じも人生みたいで好きだ。

まだ若いんだからとか言われても私からしたらゲームのようにセーブしてロード出来ない時点でやり直しなんてないと思っている。


たしかに上塗りして無かったことには出来るかもしれないけど、偽りじゃなくて真っ直ぐなものが私は好きなのだ。


アクリルガッシュが特に好きで私の感覚を1番素直に表せれると思っている。


「すごく素敵な絵ですね。」


そう言って1人の人に話しかけられた。


「ちょっと〜桃花ももかちゃ〜ん!」


もえちゃん歩くの遅いんじゃない?」


「違うよ!桃花ちゃんが早いんだよ!」


いや、正確には2人に話しかけられたのかもしれない。


「ありがとうございます。」


「あなたここら辺の人?」


「はい、そうです。」


「やっぱりそうなのね。」


「何でそう思ったんですか?」


「絵から感じるわ、ずっとこの海の見える街で生きてきた事も。」


なんだか怪しさも感じたが素直さも感じるような話口調だった。


「確かに凄く良い絵ですね。

この絵、写真とってもいいですか?」


「別に良いですけど、もう少しで完成なのでちょっとだけそこら辺観光しててもらえませんか?って言っても何もないんですけど。」


「そう?私実は夏にここ来て凄く良い所だな〜って思ったんですよ!で、ここでこの子が今度シンガーソングライターとして活動するからその写真撮らない?って話になって。」


「そうなんですね、ギター弾けるんですか?」


「はい、まだまだ下手くそですけど。」


「ぜひ聞いてみたいです。」


「そうだ!」


「え?」


桃花さんという人がいきなり大声を上げた。


「この絵を今度出す曲のジャケットにするってのはどう?」


「いやいや、確かに凄く綺麗だし私の歌に合うなとか色々想像しちゃったけど、桃花ちゃん流石に烏滸がましいよ〜」


「わ、私の絵よりも素晴らしい人は沢山いますよ。」


「あの、ちなみにこの描くのにどれくらいかかったんですか?」


「これは落書きみたいなもんだから数日ですよ。」


「ちゃんとお金とか色々するで良かったら曲聴いてもし、よければ絵とか描いてもらえませんか?」


「え!聴いてみたい!」


そうして私達は仲良くなったのだ。


ー続くー

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