第六章 爆裂少女
一学期中間試験の
ウォン達が同級生達に受け入れられたのは、まだ記憶に新しい。
本格的に人と関わり始めて、ウォンは一つ学んだことがある。
それは、人間関係はめんどくさいということだ。
「ねね、いいじゃん。付き合ってよ」
談話室にいたのは、知らない上級生の男子生徒とマナ。
どうやら取り込み中だったようだ。
「何して、、」
「あっ!」
ウォンが口を
マナはおもむろにウォンの腕に抱きつく。
「わ、私!この人と付き合ってるから!」
「え、、」
ウォンが状況を飲み込めずにいると、男子生徒の顔に
「
それだけ言って、男子生徒は
それを
「、、マナ」
「ん?何?」
ウォンを見上げるマナは何も気が付いていない。
だが、この
「
「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」
マナが腕から離れると、今までに見たこともないほどマナの表情が暗くなる。
「変なところ見せちゃったね」
「ううん」
「あの先輩さ、前からちょっと付きまとわれてるって言うか、そんな感じなんだよね」
マナはソファの背もたれに
「お願い!少しの間、私と付き合ってるフリをして欲しいの!」
マナはドラグーン寮の中でもカースト一軍に属するほどの生徒であり、当然容姿も
一般的な十四歳の男子なら、この願いをすぐに
ウォンは首を傾げた。
「付き合うって、、何?」
「え、、?」
「え、、?」
ウォンとマナの間に
マナは知らなかったが、ウォンはアステリア魔法学校に入学するまで、母親であるペトラとしか関わっていなかった。
そんなウォンが、女子と
流石に想定外だったらしいマナは、少し考える
「あの先輩に付きまとわれないように、ウォンくんに一緒に居てほしいってことかな」
「ボディガード?」
「まあ、そんな感じ?」
マナは一軍に所属できるほど、人を見ることには
だから、付き合うということについて解説したならば、きっとウォンは受け入れてくれないと思った。
ウォンが真っすぐな人だと、もう分かっているから。
少し
ウォンが少し考えてからマナに聞く。
「いつまで?」
「うーん、、。とりあえず一週間かな。その間はずっと一緒に居てもらえれば」
いくらマナに付きまとっている男子生徒が
ウォンはマナの言葉にうなずく。
「引き受ける」
「ホント!?ありがと!」
こうして、ウォンとマナの偽恋人関係が始まった。
**************************************
朝になり、ウォンはいつも通り、仲間達と話すべく談話室に来ていた。
既にジャック、ウルカ、ホルンの三人全員が
それにしてもウォンはかなり寝てしまった。もうすぐ授業のために生徒達が活動を始める八時ごろ。
「あ、ウォンくんおはよう」
「おはよ、ウォン」
「ウォンさんおはようございます。中々お
「大丈夫」
ウォンは月に一度ほどの
ソファに座っていた三人が立ち上がると、ウォンに呼びかけた。
「もう朝食を摂りに行った方がよろしいでしょう。行きましょう、ウォンさん」
「待って」
談話室から出ようと歩き始めた三人を、ウォンが引き留めた。
普段ならこのまま三人と行動を共にするのだが、この一週間はそうすることができない。
振り返った三人から視線を向けられる。
「ウォン?」
そう声をかけたジャックも、この後のウォンがまさかの
ウォンは
「付き合った」
三人に電流が走ったような衝撃が伝わり、その顔には明らかな驚きしか現れていない。
困惑しつつも、ウルカが事実を明らかにしようとする。
「そ、それは、どなたと、、、」
「マナ」
「へ、へー、、、」
もはやそれ以上の
ウォンにとっての付き合うとは、これから一週間マナを守るボディガードになることなので、本来の意味とはかけ離れているのだが。
とはいえウルカがここまで言葉を詰まらせているのは、別に彼女がウォンに気があるわけではない。
隣にいる
ジャックもそれを感じ取っているようで、
「ほ、ホルン。どうかしたのか?」
「うん。それが?」
「何でもないです、、」
ホルンは目の中の
その圧には、魔物を相手にしても引かなかったジャックが引き下がったほど。
ウォンもそれを感じ取り、
「い、一週間だけ」
「あ、そうなんだ。よかったぁ」
胸を撫で下ろすホルンだったが、ウルカの反応は違った。
引きつった笑みを浮かべ、ウォンに聞く。
「そ、それって大丈夫なんですの?」
「大丈夫」
ウォンが何も分かっていない顔でサムズアップして見せると、ウルカは
「わかりましたわ。今度、ウォンさんには色々教えて差し上げます。いいですわね?」
「は、、、はい」
それは
マナはウォンを見つけると、駆け足で近づいてくる。
「ウォンくん、おはよー!」
「おはよう」
朝からかなりハイテンションだが、それがマナだ。これが
マナはウォンの目の前に来ると、ニカっと笑った。
「そろそろご飯行くと思って、頑張って早起きしたの!早く行こ?」
マナはそう言うと、モジモジとして落ち着かない様子になった。まるで何かを待っているような感じ。
ウォンはよく分からなかったが、とりあえず右手を差し出してみると、マナはそこに左手を
先程よりも近くなったマナが笑う。
「もしかして
「ううん」
ウォンがここまで女子と
そんなやり取りを
「
そう言って、ウルカは残りの二人を引きずっていった。
これから一週間は彼らと別行動になってしまう。何もないといいが。
**************************************
一限目は魔法技術の授業。
一年生にして上級魔法の
魔法技術の授業は基本的に生徒が自主練習をしている様子を見て、教師であるルカが口出しするというものなので、生徒同士の会話などはあまり制限されていない。
ウォンは普段ならジャック達といるのだが、今日はマナと二人で練習に
マナの適正属性は、ウォンと同じ火属性。その中でも
爆破の初級魔法しか使っているところを見たことはないが、それでも非常に威力が高い。
すると、隣に座るマナが話しかけてきた。
「ねえウォンくん。その人の適正属性が、どういう風に決まってるか知ってる?」
「
「そう。体内精霊の属性なんだけど、それを決めるのが
右手の上で小さな爆発を
「私は普通の火の魔法は使えなくて、爆破魔法しか使えないから、きっと私はひどひど》い人間なんだなって」
そういえば初回の
爆破魔法は一線級の魔法士も多く使用しているほど、
「違う。優しい」
ウォンはそれだけは言える。
例え人を傷つける魔法しか使えないとしても、それを気にしている時点でとても優しいことには違いない。
だが、マナが顔を上げることはなかった。
「優しくないよ」
そんな会話をしていると、教師であるルカが近づいてきた。
その顔には
「なーにしてんの?お二人さん」
「なんでもなーい。それより先生って、何重まで詠唱できるの?」
「多分三重かな?それがどうかしたのん?」
「いや、それくらい火力あるなら、なんで
きっとルカは男女二人でいたウォン達をからかいにでも来たのだろうが、マナの
確かにルカは『
それほどの戦闘能力があるなら、人材的に
ルカは少しの笑みを
「確かにね。私がこの学校の生徒だったときは、このまま魔法士になるんだろうなって、そう思ってた。でもねー、同級生の一人が現代最強に選ばれちゃって、かわいそうだったから支えないないとって、なったんだろうね」
「その同級生って、、」
「そうそう。シャンラ・ランパートだよん」
アステリア魔法学校の校長という座は、なりたくてなれるようなものではない。
ただの魔法大国ティンベルの名門魔法学校の校長だけではなく、現代で最強の魔法使いであると、魔法省から
しかし、ルカの口振りでは、シャンラはアステリア魔法学校の校長以外に、目指していたものや希望していた進路があったのだろう。
まだ魔法を学び始めてすぐのウォン達は彼女の実力を
「はい、そんじゃ今度はそっちの話ね」
「え、、」
「私の前で
どうやらマナが話を
マナは
「なるほどね~、確かにロキ・ライは面倒かも」
ドラグーン寮二年生、ロキ・ライ。
入学して一か月半ほどしか経っていないウォン達一年生も、名前自体は聞いたことがある。
アステリア魔法学校は一学期につき中間試験と期末試験が存在しているが、三学期には学年末試験の一つしかなく、そこでは学年の順位が決定される。
ロキは二年生約百二十人の中でも
「ライの魔法は性格悪いからね~」
「どんな魔法を使うんですか?」
「
付与魔法とは、物質に魔力を流し込み、その物質そのものに魔法を持たせる、要は個人で魔法陣を作るようなものだ。
かなり使える人が限られる高等魔法ではあるが、その実、戦闘力が低い欠点があり、あまり魔法使い向けではなく、どちらかというと魔道具を作って販売する、
そんな魔法で上位の実力を持っているロキは、思っていたよりも手ごわそうだ。
「ま、戦い方以外は普通だから、あとは君達のやり方次第じゃん?」
ルカの言葉の意味が分からず二人が首を傾げると、ルカは
「とりあえず一週間エスノーズがフレイヤを守ったとして、その後どうやって決着付けるつもり?もしフレイヤが振ったことにするなら、エスノーズの評価は下がるだろうし、その逆ならエスノーズが
「あ、、」
マナは
だが、ウォンは未だに首を傾げたままだ。
「どうでも良くない?」
ウォンにとっては評価などどうでもいい。中間試験以降は同級生達とも会話出来るようになったが、それ以前の評価は
たとえ評価を再び悪化させたとしても、ホルンやジャック、ウルカは変わらず仲間でいてくれるだろうから、ウォンにとってはさほど重要な問題ではないのだが、マナは焦った顔をウォンに近づけて言う。
「何言ってるの!私のせいでウォンくんがまた嫌われちゃうなんて、絶対嫌だよ!」
「でも、」
「でもじゃないから!」
マナはいつも通り振舞ってはいるが、実はウォンに対してとても
これ以上マナが罪を重ねるわけにはいかないのだ。
二人の様子を見ていたルカが笑みを深めると、人差し指を立てて口を開く。
「なら、一つだけ
マナが驚いた様子でルカを見る。
「え、、。それって、、」
「もちろん、試合だよん」
*************************************
本日の授業は終了し、ウォンはマナを連れていつも通りギランに魔法を教えてもらうため、第一競技場に来ていた。
マナは魔法実戦の授業でかなり
ギランに
「なるほど。つまりはエスノーズとフレイヤが付き合っていることにはせず、ライに
「うん」
ルカが提案したのは、ウォンとマナが付き合っているフリをするのではなく、単純にマナを守るため、これ以上マナに付きまとわないことを条件に、ロキとウォンが試合をするというもの。
アステリア魔法学校では立ち合いの教師が一人いれば、どこでも試合を行うことが出来る。
立ち合いに関してはルカが既に
ギランが少しだけ考える素振りを見せてから口を開く。
「俺は
「そうなんだ」
「ああ。俺も一年生の頃から多くの上級生から試合を申し込まれてな。そのおかげで実力が
ギランと
ギランは去年の生徒会選挙で、圧倒的な実力を認められて生徒会長になった。その背景には一年生の頃から大量の試合をこなし、全戦全勝を積み上げた実績がある。
ウォンを気に入っているギランらしい判断だ。
「それにしてもライか。ちょうどいい
「ちょうどいい?」
「そうだ。ライが使う魔法はもう知ってるか?」
「付与魔法」
「付与魔法は非常に
「じゃあどうすれば?」
ウォンには
確かに付与魔法なんてウォンは相手にしたことがないし、ルカから聞いた前情報では勝算が低いのもわかる。
しかし、この
「簡単な話だ。エスノーズ。今までの戦いを思い出してみろ」
ウォンは入学してからの戦いを思い出す。
最初は魔法実戦の授業。ウルカと仲間ではなかったウォン達はあまり作戦を立てず、
次は魔法生物の授業。ウルカが考えた作戦で見事に勝利を収めたが、結局は魔法力によるごり押しだ。
次にクルーシャードと戦った中間試験。四人で戦い、なんとか勝利したが、二重詠唱に物を言わせた。
最後に錬金術の授業。ウィップウッド相手に作戦勝ちした。
その全てを
ほとんどが力技であり、安定した勝利のためにはウルカの作戦が必要不可欠だということ。
結論に
「わかったか。エスノーズは災害級魔物を相手にしても
*************************************
第一競技場の真ん中、ウォンは床に座り込み、肩で息をする。
一方のギランは
改めて実感するが、ギランの実力は
あくまでウォンの体感だが、ギランならクルーシャード相手でも
「試合はいつにする予定だ?」
「、、さあ?」
全く
「お前、、そういうところあるよな」
ギランはこの後生徒会の仕事があるようで、ウォンに呆れながら第一競技場から去っていった。
ウォンはマナを起こすために二階の観客席に向かい、マナの体を
「マナ」
「ん、、、」
体を揺らしてみるが、マナは言葉なのか
仕方ないので起きるまで待つことにすると、第一競技場に誰かが入ってくる。
マナと付き合っていないことにしなければいけないので、
「
ウォンとマナの姿を
それはロキだった。
アステリア魔法学校に四つある競技場は、授業等で使用されていないときは生徒が自由に使うことができる。
夕方まではウォンとギランが使っているが、それ以降は当然他の生徒も使う。
ロキにバレるのは最もまずいため、ウォンは息を
ロキは右手を床に触れさせると、静かに詠唱する。
「
床に
ロキが一度両手を叩き合わせ、その音を空間に響かせた。
次の瞬間、床から何本もの
ここまで探知不能な
付与魔法は光属性を基本とした魔法のはずだが、今目の前でロキは火柱を上げて見せた。つまりは、付与さえすれば全属性の魔法を使用できるということだ。
更なる情報を求めようとすると、ウォンとロキの視線が重なる。
「なあ。いつまでそこにいるつもりだ?」
「っ!?」
どうやらロキはウォンが隠れていたことに気付いていたらしい。
ここは誤魔化しても仕方ないので、素直に魔法を
姿を現すと、ロキは一度舌打ちをする。
「お前かよ。しかもこんな所でマナと二人とか、
「売ってない」
「嘘つくなよ。どうせならここで試合でもするか?」
それはウォンからしてみれば、かなり
どうやってロキに試合を申し込むのかを、ウォンは
アステリア魔法学校に入学してからというもの、ウォンは対人関係があまり
最近になって同級生とも打ち明けてきたのだから、当然上級生と関わりなんてない。
今の魔法を見せられて勝てる
「わかった」
ウォンが頷くと、ロキが
「立ち合いの教師を呼ぶが、指定はないな?」
「うん」
ロキが右手を制服のエンブレムに重ねると、口を開く。
「我、ドラグーン寮二年生、ロキ・ライ」
そう言うと、ロキの目の前に
そこにはロキ・ライの名前が記されていった。
ウォンも一階に降り、揺らぎの目の前でエンブレムに右手を添える。
「ドラグーン寮一年生、ウォン・エスノーズ」
揺らぎにウォンの名前も
右手をひらひらと振る彼女は、ルカだった。
「やあやあお二人さん。私が立ち会うよん」
その顔には
ルカも揺らぎの目の前まで来ると、右手を揺らぎに伸ばした。
「
この契約こそが試合の
魔法により決して破ることができない契約を結ばされるのだ。
これが友人同士なら何も契約せずに試合をしたりするようだが、今回は話が全く違う。
マナがかかっているのだ。
「マナに付きまとわないで」
「それがお前の契約か?」
「うん」
「なら俺が勝ったら一つ
「いい」
この契約だけ見れば、ロキとウォンの契約内容に差がありすぎるような気がするが、ウォンは他に望むことがないため、この契約内容で何も問題はない。
ルカは両手を体の前で合わせた。
「両者の契約を魔法の名のもとで結ぶ。それでは両者、互いに距離を取れ」
ウォンとロキがそれぞれ十メートル以上離れると、ルカが右手を高く上げる。
「試合開始」
ルカが右手を勢いよく下げた瞬間、床に右手を付けたロキとウォンが同時に詠唱する。
「火炎」
「付与」
まずは上級魔法の火力で攻略できないかを試すウォンだが、火炎がロキに届く前にバリアによって
圧倒的に
ウォンはこの隙に距離を詰めようと走り出すが、ロキは冷静に詠唱した。
「付与」
その瞬間違和感が走り、ウォンは右斜め前に飛ぶ。
ウォンの真横に雷が降り注ぎ、その
全身を打ちながらも更なる違和感の連続に、ウォンはすぐに立ち上がって走る。
ウォンを狙って次々に発生する
だが、このまま防戦一方ではウォンは詠唱すらできない。
ウォンはギランとの練習を思い出した。
純粋な火力以外の要素を戦いに
ウォンはロキの
立て続けの詠唱を繰り返しているロキだが、必ず詠唱の間には明確な隙が生じるはずだ。
火柱をかわした瞬間、ウォンは詠唱する。
「闇」
第一競技場を
ウォンが姿を隠していても気づいたことや、ここまでの戦いから気づいたことがある。
ロキは探知魔法も付与している。
ウォンはそれを逆手に取ることにしたのだ。
「闇」
魔法操作でローブに闇の体を生成し、まっすぐロキがいる方向へ走らせ始める。
ウォンもそれにピッタリくっつくように走り始めると、ウォンに違和感が走り、ウォンだけが右斜め前に
進み続けたローブが火柱に焼かれ、その風圧で闇が完全に振り払われる。
ウォンは風圧を背に受け、闇が晴れて姿が見えたロキの目の前にまで
「
そのままロキを押し倒そうとするが、嫌な予感がしたため、空中で体を
ウォンの右肩からは血が流れていた。
先程の詠唱の正体は、今ロキの右手に握られている。
ジャックがいつも使うような
しかし、ここで更に詠唱させるわけにはいかない。
「火炎」
放たれた火炎だったが、ロキは
ウォンが微かに感じていた剣への違和感。
ロキの持っている剣は、魔法が付与された魔道具だった。
バリアによって防がれ、むしろ制限された視界がウォンを苦しめる。
直感的に魔法を解除してバックステップをすると、数瞬前までウォンがいた場所に剣があった。
だが、ロキは一歩も足を動かしてはいない。
剣が伸びていたのだ。
「これも避けんのか。えぐいな」
そう言うロキは笑っていた。
ウォンからしてみれば全く笑えない状況なのだが、勝利の希望は既に見えている。
ロキは先程まで床に触れていたため、全く読むことのできない攻撃を繰り出されていたが、今は剣にしか触れていない。つまりは、剣さえ注意していれば何も問題はない。
あの剣に付与されている魔法は現時点でバリアと刀身を伸ばす魔法の二種類。
足を床につけていないと剣が伸びて負けかねない。空中で避けることは
ウォンが床を蹴って距離を詰めようとすると、当然刀身を伸ばしてきた。
剣がウォンをかすめる寸前にウォンは詠唱する。
「火炎」
ロキは当然背後からの火炎を
ウォンは一か八か、詠唱するフリをしてロキの攻撃を
その隙に距離を詰めようとするが、これだけで負けるロキではない。
剣先を曲げながらウォンに向かって伸ばぢ、まるで
だが、これに関しては対策を見出していた。
「火」
「アッツ!?」
ウォンが詠唱した瞬間、ロキが剣を
ウォンはロキの手の平に火を発生させ、剣を手放させたのだ。
そのまま右手を首に押し付け、宣言する。
「
「、、、、」
ウォンとロキの視線がぶつかる。
数秒間の沈黙が流れた。
その間、ウォンの
それは単純に急激な戦闘に疲労しているせいもあるが、まだウォンが敗北の可能性を
ロキの使う付与魔法が空間に適応できないという保証はない。
ここまで床を
しかし、その心配はロキの笑みによって
「降参こーさん。流石に無理だよ」
ロキが宣言すると、ルカが口を開く。
「そこまで。勝者、ウォン・エスノーズ」
ウォンとロキが離れると、ロキは先程までとは打って変わって、人の良さそうな笑みをこぼす。
「いやぁ。まさかここまで強いとは思ってなかったな。
「どういうこと?」
ここまで来て真実に気づかないほど、ウォンも
すると、寝ていたはずのマナとルカが二人に近づいてきた。
「それは、フレイヤから説明するよん」
マナがウォンの目の前まで来ると、両手を頭の前で合わせて頭を下げた。
「ごめん!ウォンくん!実は、、私達三人でウォンくんを騙してたの!」
「え、、」
「マナを責めないでよ?俺が頼んだことなんだ」
ロキは
「一年生に二属性適性が出たって聞いてな。しかもかなりの実力と来た。どんな形でもいいから戦ってみたかったんだ」
「、、それだけ?」
ウォンが首を傾げると、周りの三人が頷くので、思わずため息をついて座り込んだ。
明らかに慌てた様子のマナが駆け寄る。
「だ、大丈夫!?ごめんね!ほんとに!」
「違うよ」
ウォンはこの三人に言わないといけないことがある。
「言われればやった」
ウォンはロキから普通に試合を申し込まれたとしても、断る理由は全くなかった。
普通に試合を申し込んでくれていたなら、ここまでロキに嫌な印象を持たずに済んだ。
それだけではない。
「マナも。無事だし」
元々マナを心配したからこそ引き受けた偽の恋人関係。もしロキに勝ったとしても、必ずロキとマナの間には
マナが無事でいてくれるだけで、肩の荷が下りた気分だ。
「安心とか、後悔とか。いっぱい」
ウォンは基本的に人を疑うことを知らない。
信じた人は最後まで信じるし、嫌な人は最後まで嫌う。
だからこそ、真実を知って感情がぐちゃぐちゃに入り混じっているのだ。
ルカがマナの肩を軽く叩くと、振り返ったマナに頷く。
体育座りで顔を伏せるウォンを、マナが優しく抱きしめた。
「ごめんね。私、ウォンくんを苦しめた」
だけどね、とマナは続ける。
「ウォンくんが私のために頑張ってくれたこと、すっごく
「俺からも礼を言うよ。お前は確かに強かった。戦えてよかったぜ」
ロキからも礼を言われるが、ウォンが顔を上げる気配はない。
流石に焦ったらしいロキが慌ててマナに言う。
「ど、どうしよう」
「どうしようも何も、私達がやったんだからね?」
「よ、よしよしとか」
「よしよし!?そんなの無理なんだけど!」
「いいから」
「むー、、」
ロキに説得され、マナは恐る恐るウォンの頭を左手で撫でる。
「よ、よーしよーし」
結局ウォンが顔を上げたのは、それから十分近く後のことだった。
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