第四章 衝突する陰謀
アステリア魔法学校に入り、もうすぐで一か月が
最初こそ二属性適性によって
そんなウォンは、朝は少し早く起き、
談話室に入ってまず目に入ってきたのは、ソファに座っている
ウォンは談笑している様子のジャックとウルカに声をかける。
「おはよう」
「おはようございます。ウォンさん」
「おはよ、ウォン」
ウルカは
すると、この場にはもう一人の仲間であるホルンがいないことに気付く。
気になっていても聞くことが出来ない
「ホルンさんならまだ寝ていますわ。
ホルンは
それだけでもすごいのだが、一般家庭出身ではどうしても名家出身の生徒には
その実力差を補うため、彼女は毎日必死に勉強をしているのだ。
その頑張りを
「そういえば、ウォンさんはもう中間試験の話は聞きましたか?」
「聞いてない」
ウルカの話はウォンにとって
どこの学校でも定期試験というものは存在している。
その内容は一般的に
日常的に行われている授業でさえ、
「
「俺達一年生には聞かされてないよな。それって試験としてどうなんだ?」
ジャックの質問は当然だった。
通常、定期試験は試験前に十分に
だが、ウルカは考える
「おそらく、私達の
「それで、今回は上級生からの情報提供ってわけだな」
「ええ。もちろん、私はこの情報をドラグーン寮の皆さんに提供いたしますわ。ですが、明確な内容は
ウルカが上級生から聞いたのは、一学期中間試験が行われるという情報だけ。その内容まではまだ分かっていないため、試験内容を知ってすぐに攻略法を編み出すことを迫られるのも
アステリア魔法学校の
すると、一年生女子の寝室から
「おはよぉ」
「おはようございます、ホルンさん。もう少し寝ていてもよろしかったのですよ?」
「うぅん、、。でも、みんなは起きてるからさ、」
「無理して俺達に合わせなくてもいいんだぞ」
「うん」
ホルンは本当によく頑張っている。
ウォンも同じように努力を重ねてきたからこそ分かるが、確実に無理をしている。
魔法という才能が九割の世界で、残りの一割の努力は一般的に言って意味がない。だが、それは努力自体の存在を完全に否定しているわけでは、決してない。
ただ、努力が意味を成すまで積み上げられる魔法使い自体が一般ではない、という意味だ。
ホルンを心配するウォン達だったが、ホルンは首を横に振る。
「私がしたいからしてるの。みんなが心配しなくても大丈夫」
そう言って
**************************************
「エスノーズ君。ちょっといいかい?」
ウォンがグランの元へ向かうと、いつも通りの
「君はかなり
「お
グランの言う通り、ウォンは入学してからの一か月間、魔法実戦の授業では試合に一度も負けていない。
それは今までの努力に
「だけどまだ一度も闇属性魔法を使っていないよね。
「はい」
ウォンはアステリア魔法学校に入り、初めて自分が二属性適性であるということを知った。
二属性適性は魔法の名門、アステリア魔法学校でも二人目という
つまり、他の魔法使いにはない利点なのだ。
しかし、元々火属性魔法のみを
そのため、入学から一か月経った今でも、ウォンは一度も闇属性魔法を使っていないのだ。
精一杯の
「いいよ、ギランもそんな感じだったから」
ギランはアステリア魔法学校現生徒会長であり、ウォンと同じ二属性適性の生徒。グランの実の弟でもある。
そして、
「そこでなんだけど、ギランに魔法を教わってみるのはどう?きっと力になれると思うんだけど、、」
ウォンからしてみれば、それはとても
アステリア魔法学校生徒会長とは、この学校で
そんなギランに指導をされるのなら、ウォンもさらに強くなることが出来るだろう。
だが、ウォンは別に強くなるためにアステリア魔法学校に入学したわけではない。
他の生徒達よりも強いのは、入学するために必死に努力してきた
すると、頭の中にこの状況を
「、、大丈夫」
「そうか。なら、今日の放課後から教えてもらえるよう、ギランに言っておくよ」
そう言って、グランは授業に戻って行ってしまった。
ウォンはその場に立ち尽くすしかできない。
グランは基本的にとても親切な教師で、生徒一人一人にできる指導は
そのせいだろう。彼はウォンの口下手を理解し、
こうして、ウォンはギランから魔法の指導を受けることになった。
**************************************
昼休みになり、ウォン達四人は食堂で昼食を
「すごいじゃないですの!ギランさんに教わることができるなんて!」
もはや本人よりも
「そんなにすごいことなのか?」
「当たり前ですわ!あの人の魔法はまさに
もはやファンの
「そっか。ウルカちゃんはギラン先輩とも昔から交流があるんだっけ」
「そうですわ。私のツヴァン家とギランさんのタリタ家は昔から交流がございます」
「へー。あの人は昔から魔法が上手かったのか?」
ようやく落ち着いてきたウルカに、ジャックがテンション低くそう聞く。
ジャックのテンションが低いのは、彼自身が少しギランに対して苦手意識があるからだろう。
すると、ウルカはどこかを見つめながら答えた。
「ええ。私が十歳、ギランさんが十三歳の頃、ギランさんがパーティーで
「そんな風に思ってくれていたのか、ウルカ」
熱く語っていたウルカにそう返したのは他の三人ではなく、いつの間にか近づいていたギランだった。
しかし、ウルカは驚く様子もなく、ただ笑みを浮かべる。
「お久しぶりですわ。ギランさん」
「ああ、俺が一年生の時以来だな。二年生からは長期休暇も
「ご活躍はよく聞いていますわ。それで、ウォンさんに
「ああ」
ギランは視線をウルカからウォンに移した。
「
「、、よろしく」
どうやらウォンは大変なことになってしまったようだ。
**************************************
放課後になり、ウォンは第一競技場に向かう。
ウォンが着いたころにはギランが既にいて、ローブを
ウォンが近づいていくと、ギランが立ち上がる。
「来たか。早速始める」
「うん」
ウォンがギランと同じようにローブを脱ぎ、
「まずはエスノーズの適正属性を教えてくれ」
「火と
「俺と似ているな。俺は火と光、まあ元々は光属性を使っていたんだがな。エスノーズと違って俺は、この学校に入学する前から自分が二属性適性であることを知っていた。だが、それが普通ではなかったからな。火属性魔法は
タリタ家はツヴァン家のような魔法の名家と交流があるほどの名家ではあるが、魔法を進んで子供に学ばせるような家ではない。なんとなくの
その中でもギランは珍しく、
だが指導する人間もいないため、最初に彼が試したのは、
当然適正属性でない魔法を使うことはできないが、ギランに使えたのは火と光の二つだったということ。
「聞いたところによると、まだ闇属性魔法を使っていないようだな」
「うん」
「俺も一時期悩んだことがあるが、割り切るしかない。これはアンドリュー・グレイバーの体内精霊についての
ウォンは正直驚いていた。
ギランが話している論文の
「それによると、一人分の体内精霊で二つの属性を十分に
「ギランも?」
「ああ。俺は火属性を主軸に、光属性で補助している感じだな。元々光属性を使っていたから分かるが、光と闇属性は補助的な魔法がほとんどで、まともな攻撃魔法が少ない。その結果だな。エスノーズは元々火属性魔法を使っているだろ。それを闇属性で補助する形にすれば良いだろう」
ウォンが迷っていたのは、闇属性をどう扱うか。
その答えが
ここからは本格的に指導を始めるようだ。
まずは、ギランが床に正座で座る。
ウォンも同じようにギランの正面に座ると、ゆっくりと
「魔法を使う時と同じで、全身に神経を集中させるんだ。この空気に含まれる
神経を集中させることに関しては、ウォンは今までで死ぬほど
今まで
次第にウォンの体が空気と
ここからは魔力循環だ。
空気中から魔素を取り込み、体内を
すると、ウォンの体が次第に熱くなっていく。
この感覚をウォンは知っている。
「ぐっ、、」
ウォンが痛みに
目の前のギランが声をかける。
「魔力が溢れ出しているな。体内精霊が
「、、まだ」
ウォンを止めようとしたギランだったが、ウォンの言葉で動きを止めた。
その言葉には、どこか
だが、魔力容量に関しては、完全に体内精霊に
このまま続けたところで、結局は魔力暴走を起こして体がダメになるだけだ。
ギランはいつでも止められるようにしていたが、その必要はなかった。
ウォンは再び目を閉じ、神経をさらに集中させていく。
もちろん
おそらく一流の魔法使いでもできるのは
しかし、ウォンは普通ではない。
少しずつ意識を心の深いところに落としていく。
それに従って、
それも一時的なものではない。空気中から取り込む魔素の量も一定で何も変わっていない。
ギランは目を見開く。
「驚いたな、、。見違えるように完璧な魔力循環だ」
ウォンの体にはもう激痛は走っていない。
魔力を完全に
次第にウォンは目を開けていく。
「どう?」
「完璧だ。何か魔法を使ってみろ」
「うん」
ウォンは立ち上がり、右手を伸ばす。
普段なら火属性の上級魔法『火炎』を放つところなのだが、なぜか頭の中に浮かんだ魔法は違った。
「闇」
そう
闇は
すると、ウォンの少し左から詠唱が聞こえてきた。
「発光」
次の瞬間、闇の中に
「すごい威力だな。初級魔法のはずだが、中級魔法を使ってかき消すほどとは」
「そう?」
「ああ。初めて闇属性魔法を使った感想は?」
ギランにそう聞かれ、ウォンは自分の
闇属性の魔法なんて学んだこともないのに、急に頭の中に浮かんで詠唱したのだ。
「、、
首を傾げながら言うウォンに、ギランは
「そうか。これから慣れて行けばいい」
**************************************
少し他の生徒よりは
ホルンとウルカだ。
「魔法陣と
「
「えーっと、確か魔力を形として
「そうですわ。それに対して魔石は、魔素を多く含む土地で自然生成される、
「それだと魔石の方が便利なように感じるけど、、」
「実際、魔石の方が現代では多くの魔法使いに
「でも、アステリア魔法学校では魔石使ってないよね」
「ええ。それには、魔石の
「どういうこと?」
「まず、魔石の最大の特徴として、魔石には使用回数に限りがありますの。これは魔石が魔素を取り込むという
「確かに。でもでも、魔法陣も魔素を取り込んだりはしないよね?」
「魔法陣は
どうやら勉強中だったようだ。
ウォンは、音を立てないように二人に近づく。
「え、じゃあ作者が死んだらどうなるの?」
「変わらない」
ホルンの質問に答えると、二人が驚いた様子で振り返る。
胸を
「ウォンさん、、いたなら声をかけてくださいまし」
「ごめん」
ジャックならウォンの
ちょっとした
「それで、変わらないってどういうこと?」
ホルンがウォンの言葉を聞き返す。
授業の
「えーっと、入学式で校長先生がおっしゃっていたことを覚えていますか?」
「なんかあれだよね。死は魔法使いを強くする、みたいな」
「そうですわ。あれは文字通りの意味で、死んだ魔法使いは近くにいる魔法使いに力を
「そういうことだったんだ、、。なんか怖い話だよね」
ホルンは両手を
「それが
三人の間に
ホルンは基本的に
最低限の情報があれば、この
だが、それを
ウルカがホルンの手を両手で
「確かに、昔の魔法使いはその
「うん、、」
「つまりはそういうことですわ。現代の
昔からの
アステリア魔法学校には多くの死の危険がある。実際に命を落とす生徒も少なくないだろう。
それはシャンラなりの優しさの考えのように思えた。
すると、一年生男子の談話室から、白髪の少年が出てくる。
「ウォン、戻ってたのか」
「うん」
「もう一年生の入浴時間終わるぞ。入りに行かなくていいのか?」
「今行く」
アステリア魔法学校では入浴時間を、学年で
午後七時から一時間単位で一年生から順番に区切られていて、もうすぐで八時の今は一年生の入浴時間終了間際だ。
「あ、もうそんな時間でしたのね。私達も入りに行きましょうか、ホルンさん」
「うん、教科書だけしまってくるね」
そう言って、ホルンは
「ジャックは?」
「俺も今から。さっさと入るぞ」
ウォンとジャックはウルカと別れ、談話室から繋がっている男子の
ジャックは口では言わないが、きっとウォンが帰ってくるのを待っていたのだろう。
ウォンはきっとそうだと感じる。
入浴時間ギリギリということもあり、二人以外に生徒はいない。
「貸し切りなんて
「うん」
二人は
ジャックの体は運動神経のわりには
何度見てもジャックの体は
全身に切り傷や
「どうかしたのか?」
「痛々しい」
ウォンの視線に気づいていたらしいジャック。
自分の体を見下ろすと、苦笑気味に答えた。
「これか。どれだけ時間が経っても消えないんだ。もう
体を洗い終え、二人は
「前にも言っただろ。俺の魔法体質は
「どうして?」
「、、
「ううん。かっこいい」
「そうか」
ジャックは自分の
ウォンはそういうところが好きだ。
**************************************
一週間が経ち、ウォン達一年生の全生徒は第一競技場に来ていた。
だが、いるのは普段授業でいるフィールドではなく、二階部分にある
寮ごとに座り、一年生全体としてざわついている。
それもそのはずだろう。一年生には何も情報を伝えられていないのだから。
それには反して、フィールドにいる四年生達は準備運動や
すると、フィールドに現れたのはシャンラ。
突然現れたため、一年生たちは
「あれは、、
ウルカが冷静に
「一年生、四年生諸君。ただいまより、アステリア魔法学校一学期中間試験を行う」
シャンラの
落ち着いている生徒達は何らかの方法で試験があることを知っていた生徒だ。
だが、その内容を知る生徒は一人もいない。
「これより試験内容の説明を始める。四年生は寮対抗の
例えば魔力感知の技術を例にすると、各寮の魔力量を感知することで、実力を多少は
つまりは、実力も
「私語は
何かしらの魔法を感じる。
これは音を
他の生徒達と同じように、ウォンも予想を始める。
ウォンが使う技術は、
試合前の準備運動や精神統一の様子を見て、実力を推し量る。
見たところ、四年生は全体としてそこまで強くはない。
オーディン寮が少し
ウォンは心の中でオーディン寮を
隣に座っているジャックとその隣のウルカも終わったようで、どの寮に投票したのかを聞く。
「どこ?」
「俺はオーディン寮」
「あら、私もオーディン寮ですわ」
「ウォンは?」
「オーディン寮」
どうやらジャックとウルカもオーディン寮に投票したようだ。
まあ二人ほど実力があれば、この結果は当然だろう。
続いてウォンの隣に座っているホルンも投票し終わったようだ。
「ホルンさんは、どこに投票されましたの?」
「私はオーディン寮だよ。どう見てもオーディン寮が一番魔力量が多いからね」
「魔力感知か?」
「うん。魔力感知は得意なんだー」
こうして四人全員がオーディン寮に投票し、次第に他の生徒達も投票を終えていく。
アステリア魔法学校に入学できるほどの実力なら、すぐにウォン達と同じ結論に至るはずなので、きっとこれは投票する早さも要素に含まれているのだろう。
あとはじっくりと観戦するだけで終わり。
かなり簡単な試験だった。
「あまり
「ああ、
ウルカとジャックがそう言ってしまうのも納得だ。
ウォン達は死すらあり得る、危険な試験を想定していた。だが、
「この試験内容よりも、私達に四年生の試合を見せることを
確かにホルンの考え方もできる。
四年生はアステリア魔法学校の中では最上級生であり、ウォン達一年生とは本来実力が遠く離れているはずだ。
その試合を見ることは、魔法を学び始めたばかりの一年生には
しかし、現実はそうではないだろう。
それを感じていたらしいウルカが苦笑する。
「そうでしょうか。現在の四年生は
ウルカはまだ試験が終わっていないという可能性すら
アステリア魔法学校なら十分にあり得る。
そんな不安も残ったまま、
フィールドは魔法実戦の授業と同じ
「
フィールド全体に多くの木が
これで単純な魔法の撃ち合いにはならないだろう。
しかし、森には火属性魔法が大きく作用することができる。
ドラグーン寮の生徒が火炎を放ち、森が焼け始めた。
どこの寮の生徒も速度を殺して、
「泥試合だな」
ジャックがそう言うのも頷ける。
環境魔法で場を整えるだけなら分かるが、その後の火炎は完全に
相手の動きを制限するための戦略的な魔法ではなく、自分たちの動きも制限する結果になる、
同じドラグーン寮ではあるが、これはいただけない。
「あ、でも何かやってるよ?」
ホルンが指を指した方向には、何かしらの巨大な魔法陣を描いているオーディン寮の生徒達がいる。
あの
「大魔法?」
「そうですわね。少し読み取ってみましょうか。ホルンさん、レンズを作り出す魔法は使えますか?」
「バリアの
光属性魔法は応用力がどの属性よりも高い。
バリア一つでも魔法生物の初回授業で見せたような
その方法をすぐに思いつけたということから、ホルンの努力が分かった。
「バリア」
右手を伸ばして詠唱すると、
「どうかな?」
「
ウルカは魔法陣に書かれている文字を読み取っていく。
この文字は魔法そのものを表すもので、ごく一部の魔法使いは読み取る技術があるらしいが、ウルカがその技術を
十数秒ほど視線を一定にし、視線を外す。
「まずいですわね」
「どうかしたのか?」
ウルカの表情は
何か問題があるのだろうか。
「あの大魔法は雷属性で、
「それって問題あるの?」
「ありますわ。これは
その説明でようやくウォン達は納得した。
少し雷を落とすくらいなら大魔法にはなっていない。天候を変えるほどの
第一競技場の天井はガラス
しかし、それには
「
「そう、ですわね、。その
ウォンが
フィールドを覆う結界魔法により、ウォン達一年生はフィールドに干渉することはできないし、四年生はフィールド外に干渉することはできない。
つまり、このまま大魔法が
その結論に落ち着いたところで、ウォン達に
「今のって、、」
「け、結界がありませんわ」
「結界が解除されたってことか?」
「え、ええ。ですが、結界魔法は大魔法で解除できるほど、やわな物ではないですわ」
ウォン達が
破片が飛び散り、観客席にまで
「バリア!」
現在のホルンでは、一年生全体を守るほどの魔法を扱うことはできない。
しかし、次の瞬間には観客席から
ドラグーン寮とリヴァイア寮は
中には
フィールドの四年生もただでは済んでおらず、ひどい
ウルカが
「そんな、、」
すると、ウォンの体に嫌な予感が走り、
同じく気配を感じ取っていたらしいジャックが目を
「あれは、、!?」
それはとても大きな鳥のような生物で、二本ずつの手足と大きな
ウォンは、この生物を知っていた。
「クルーシャード!」
その姿を
「なんだよこれ!」
「出してよ!」
どうやら出入口を通ることが出来ないらしい。
ウルカが天井を見上げると、うっすら空間に
「結界が張り直されていますわ!これでは出られない!」
地面に降り立ったクルーシャードは、一度咆哮し、その体に魔法陣が浮かぶ。
次の瞬間、クルーシャードから非常に多くの羽が空中を
「来る!」
ジャックが言うまでもなく、ウォンは
観客席に向かってくる羽に右手を向けて詠唱する。
「火炎」
巨大な火炎で羽を出来る限り燃やすが、すべてではない。
火炎の
ホルンが慌てた様子で口を開く。
「ど、どうしよう!?」
「落ち着け。すぐに助けが来る」
「そうですわね。それまでの間、
ウルカは三人の顔を順番に見つめ、
「私達で皆を守りましょう!」
全員が頷き、すぐに
「
右手に剣を生成したジャックが、飛んでくる羽を切り落とす。
かなりの速さではあるが、ジャックの反射神経で防げない速さではない。
「
これはかなり魔法を操作する技術が必要だが、今のような非常時でもウルカはそれができる。
羽からの攻撃を防ぎ、気が
「大丈夫ですわ。とりあえず
ウルカは元々この試験で、同じドラグーン寮の生徒を導くと決めていた。
これは、ウルカの戦いだ。
「バリア!」
ホルンは観客席の最前列に立ち、バリアを展開する。
「みんな!このバリアの後ろに!」
多くの生徒がホルンの
残りをウォン達三人で防いでいたが、それも長くは持たないだろう。
ウォンが視線を向けるのは、フィールド。
環境魔法が解け、完全に遮蔽物がなくなったそこは、
クルーシャードから逃げ回る五年生達と、横たわって大量の血を流している四年生。
まさに
このままではフィールドが
ウォンは走り出す。
「ごめん」
それだけ三人に言い残して、ウォンはフィールドに飛び降りた。
突然現れたウォンに、クルーシャードは
真っすぐにウォンに向かって飛んできた。
考える
「闇」
観客席には行かないように操作しながらクルーシャードの視界を
この間に距離を取ろうとしたウォンだったが、嫌な予感がして大きく
すると、次の瞬間にはウォンの足があった位置に
クルーシャードの魔法で闇は完全に
飛んでくる風の刃に右手を向けた。
「火炎」
巨大な炎と無数の風の刃が
力比べは
クルーシャードは羽を飛ばしながら戦っていて魔力を
この調子だとウォンもきっと、長くは持たない。
クルーシャードの体に魔法陣が浮かんだ。
魔法を放つ
今度は数よりも
火炎では今度こそ負けてしまうだろう。
ウォンは右手を構え、詠唱した。
「火炎」
さらに左手を構え、詠唱を重ねる。
「火炎」
火属性上級魔法の
簡単に言ってしまえば、先程の二倍の威力がある。
上級魔法の二重詠唱はかなり高等な魔法の技術で、今のウォンができる最大火力の魔法だ。
魔力量によっては三重以上もできるらしいが、相当な魔力量が必要だろう。
超巨大な火炎と巨大な風に刃がぶつかり、今度は力くらべにすらならず、風の刃を打ち破った火炎がクルーシャードに迫った。
火炎がクルーシャードを包み、
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ウォンはほとんどの魔力を消費した。
ここで
すると、ウォンの耳に何かの歌のようなものが聞こえてくる。
とてつもなく美しい歌のはずなのに、どこか不安定で、心の中に入り込んできた。
その瞬間には全身の力が抜けて、勝手に魔法が解除される。
なぜか力が入らなくて、ウォンは体を動かすこともできない。
ゆっくりとウォンに近づいてくるクルーシャード。
ただただ死が近づいてくるのを待つのみ。
その様子を見ていたホルンが声を上げる。
「ウルカちゃん!ジャックくん!ウォンくんが!」
「わかっていますわ!このままだと、、」
「だが、羽の魔法はもう解除された!俺は行くぞ!」
「ま、待ってください、、!」
ウルカが止めようとしたが、ジャックに続き、ホルンもフィールドに降りて行ってしまう。
「ウォン。動けるか?」
「力が入らない」
「くそっ、何かの魔法の効果か?」
続いてウォンの元に到着したホルンが、ウォンの体を
ウォンの体は、まるで意識がない人のように重い。
「ウォンを運ぶ時間は稼ぐ。頼むぞ」
「うん!」
ホルンがウォンを運び始め、ジャックがクルーシャードとの
もう魔法を使う余裕がないようで、クルーシャードは右手を振り上げ、ジャックに高速で振り下ろした。
ジャックはそれを剣で受け止めるが、かなりの力で流石のジャックも
なんなら押し負けているまである。
腕の骨が
剣で腕を受け流し、即座に切りつけた。
一度バックステップで距離を取り、ジャックは息を大きく吐き出した。
「やるぞ」
ジャックは一秒も経たずにクルーシャードまで到達し、すれ違いざまに腹を横に
次のアクションを起こされる前に、ありったけを叩きこむ。
わずか一秒にも満たないほどの時間で、ジャックは目にも止まらぬ速さで数十か所の傷をつけた。
だが、確実に欲を出し過ぎた。
ジャックは次の瞬間には、ウォンが背中を
壁のレンガが崩れるほどの
激痛が走り、その場に倒れこむ。
「ジャックくん!」
「悪い、、。やらかした」
相手は一線級の魔法使いで倒せる程度の、災害級魔物。
一年生でここまで
しかし、クルーシャードはウォン達の方へ向かってくる。
このままでは、、、。
「雷電!」
ウォン達の目の前に降りてきたのは、金髪を
「お二人とも、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないけど?」
「今はふざけてる場合じゃないですわよ!」
ジャックの言葉に本気で呆れるウルカ。
今は命をかけた現場。この状況でふざけること自体あり得ないが、それを
おそらく
「皆さんが
すると、魔力回復を終えたようで、クルーシャードが巨大な風の刃を飛ばしてくる。
これはウォンのように二重詠唱でないと、防ぐことが出来ない火力だ。
ウルカは二重詠唱などしたことがない。
だが、ここで引き下がるという
まずは右手を構えた。
「雷電」
そして左手を構え、今までにないほど神経を集中させる。
「雷電!」
超巨大な一つの雷電が、巨大な風の刃と衝突する。
雷電は風の刃を打ち破り、クルーシャードに届こうとしたところで
ウルカは全身に走る痛みに耐えながら、ゆっくりと膝をつく。
「すみません、、魔力切れですわ」
ウルカは先程から上級魔法を連発していた。
もうとっくに二重詠唱をする魔力など残っていなかったのだ。
体内精霊が
「ホルンさんだけでも、逃げてください」
「そんなのできない!」
クルーシャードはウォン達に向かって
左手を伸ばした。
「バリア!」
四人を守るバリアを展開し、クルーシャードの体を受け止める。
とてつもない衝撃で、ホルンも顔を歪めた。
(私が、、みんなを守らないと、、、、!)
もう
さらにクルーシャードが風をぶつけ、ホルンが吹き飛ばされそうになる。
それでも、ホルンは全力で
「はあ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
今までにないほどの咆哮に、ホルンの
その姿を見て、何もできない友人ではない。
ジャックが立ち上がり、ホルンの背中を支えた。
次にウルカが立ち上がり、ホルンの左肩に手を添える。
ウォンはずっと体に力が入らない。何かの魔法だと思われるが、ここで立ち上がれないのは、絶対に嫌だ。
必死に力を込め、
「、、火」
小さな火で自らの腕を燃やし、意識を
ようやく少し動くようになった体でゆっくりと立ち上がり、ウォンもホルンの右肩に手を添えた。
「ホルン!」
「あと少しだ!」
「私達で支えます!」
ウォン達の声が力となり、ホルンは右手も伸ばす。
ウォンは火傷した右手をホルンの右手に重ね、一度目を合わせてから共に詠唱した。
「「
光の線がクルーシャードの頭に向けて
頭を無くしたクルーシャードがその場に倒れる。
もう限界な四人もその場に倒れたり、座り込んだ。
ウォンとホルンは、お互いの右手を
**************************************
目が覚めると、見知らぬ天井で視界が満たされた。
ゆっくりと体を起こすと、そこがアステリア魔法学校の
すると、白いローブに身を包んだ魔女がカーテンを開けた。
「目が覚めたか、ウォン・エスノーズ」
ウォンはその魔女に見覚えがある。
実家に
「シュシュ、、ミルーゼ?」
「やはり私のことを知っているか、ペトラの息子」
シュシュの言葉に、ウォンは目を見開く。
なぜなら、昔のペトラと
「どうして知っている、という顔をしているな。ま、それだけアンドリューに似ていたら気づくよ」
そこで、医務室のドアがノックされる。
「そろそろ起きるから呼んでおいた。入ってくれ」
ウォンが寝ているベッドに現れたのは、ウルカだった。
「目が覚めたんですのね。よかったですわ」
「二人は?」
ウォンがホルンとジャックの心配をすると、シュシュがウォンの
「お二人なら、ここにいますわよ」
「え、えへへ~、
「
ホルンとジャックも医務室で
ホルンはウォンと同じ様子だが、ジャックは腕に
「
「これくらいで済んでいるのが不思議なくらいだ。この包帯も、
ウォンの質問に答えたのはシュシュ。
実際、ジャックは
それから、シュシュがそれぞれの
「ホルン・プリアルは無理に魔法を使ったため、体内精霊が拒否反応を示している状態だ。一週間ほどは魔法を使わない方がいいだろう。ウォン・エスノーズは何らかの魔法がかけられていた。体の自由を奪う
「ありがとうございます、先生。私はただの魔力切れでしたので、もう大丈夫ですわ」
すると、シュシュが医務室のドアを開き、首だけをウォン達に向けた。
「じゃ、ごゆっくり」
そう言って、シュシュは医務室から出て行った。
まだ騒動について詳しいことを聞いていないらしいジャックが、ウルカに聞く。
「それで、あれはなんだったんだ?」
「慌てなくても、順番に説明いたしますわ。私達が倒れた後、すぐにギランさん達生徒会の方々が駆けつけてくださいましたわ。まず、今回の騒動は試験には関係ありませんが、単なる事故ではないと、ギランさんは考えていますわ。クルーシャードは春にはもっと北の国へ移動するようで、この時期にティンベルにいるのは、まず異常です。それと、騒動のきっかけになった大魔法を使った生徒達は、その時の
「
「ありませんわ。校長先生が
「つまり、何者かに
「そうなりますわね」
いくら今の四年生が
さらに言えば、今回の騒動では非常に強力な結界魔法が打ち破られた。
それほど
どこか暗い顔をしている三人に、ホルンが笑いかける。
「とりあえずみんな無事でよかったよ!」
「そうだな」
「ええ」
「うん」
それから夜までウォン達四人は、くだらない
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