第三章 魔との会合
アステリア魔法学校に入学して三日目。ウォン達は
というのも、初回の魔法生物の授業は少し
ウォンと同じ馬車に乗っているのは、ホルン、ジャック、そしてウルカ。
自分達で自由に班を組んでいいということだったのだが、どうしてもウォン達は残りの一人が見つからず、しょうがなく
だが現在、何一つ言葉を交わさない、非常に気まずい状況が
言葉を
「う、ウルカちゃんって魔法上手だよね」
「当然ですわ。ですが、そちらのエスノーズさんの方がお上手では?」
ホルンがどうにかウルカに
上手くホルンの言葉がかわされる
それを一番嫌うのはジャックだった。
「さっきから何なんだ。お前はただ人数合わせで共にいるだけで、慣れ合う必要などはない。だが、ホルンはそうじゃないんだ。ホルンの優しさを
「それこそおかしな話ですわ。必要でないことをする
「は?お前こそおかしい」
「どうとでも言うといいですわ」
ジャックとウルカの間には
このままではこの後の授業も、まともに行うことができないだろう。
ウォンもそれは
「ジャック」
ウォンがジャックの肩を
そして、ウルカの
「悪かった、、。だが、どうして俺達に対して
ジャックは自分の心を
この状態になったジャックなら何も問題はないだろう。ウォンは安心して二人を見ておくことにする。
ジャックの言葉に対して、ウルカは
「言いたくない、ですわ、、」
「そうか」
それ以上ジャックは
「なら、言わせてやる」
地面に降り立ったジャックが振り返る。
その目に敵意などはなく、
「俺達も魔法使いだ」
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一年生ドラグーン寮の三十人が馬車を降りて、一人の男性の周りに集まる。
魔法生物は魔法に関連する生物の知識を深め、それを
「全員揃ってるね。これから今日の内容を説明するよ」
それはウォン以外の同級生達も同じで、確かな覚悟を持ってその先の言葉に耳を
「今日は班ごとに分かれて『
その言葉に対し、その場にいた大半の生徒に
生徒の様子を感じ取ったテオも、さらに言葉を紡いだ。
「みんな魔物については知っているね。確か君達が受けた試験にも出ていたはずだから」
テオの言う通り、確かにウォン達が受けた入学試験に魔物に関する問題があった。それも基本問題の
魔法使いに
それは魔法を使える使えないに限らずに共通していることだ。
そして、生物の魔力容量を
それが魔物。
生物としての
「何人かは気づいていると思うけど、この森に含まれる
ヘラヘラと
それも無理はない。魔物が非常に強力な力を持っているということは、この場にいる全員が知っていることだ。
どんなに魔法の名家出身が多いとはいえ、魔物との戦闘経験がある生徒はいないだろう。
だが、テオからは緊張感の
その
「先生。魔物は非常に危険な存在だと、
ウルカの言葉にテオは首を
「ああ、確か君はツヴァン家出身だったよね」
「それがどうかしたのですか、、!」
「いや、いかにも
ウルカの言葉もヘラヘラとかわす。
しかし、態度は置いておいて、確かにテオの言っていることは納得させられるものだ。
魔法使いは常に危険と
「ということで、今からもう一回馬車に乗って、スタート地点まで運んでもらうから、ごめんだけどもう一回乗ってくれる?」
「、、、、」
その場にいた生徒全員が
テオとの
馬車の窓から
「なんか、、変な人だったよね」
「まあ、あれでも実力は確かなんだろ」
「そうでしょうかね」
テオの実力を認めるジャックだったが、それに
ようやく会話をしてくれる気になったらしいウルカに、ホルンは急いで質問を投げかけた。
「う、ウルカちゃんはそう思わないの?」
「思いませんわ。名前も聞いたことないですし」
魔法使いの実力を
例えばアステリア魔法学校現校長のシャンラであれば、魔法使いなら全員知っているほどの知名度があり、現代最強であることも
だが、ウルカが
それだけなら弱い魔法使いなのだろうが、テトもアステリア魔法学校の教師の一人。
「いや、あの人は強いと思うけどな」
「その
ジャックの言葉に、ウルカは視線を窓ではなく、ジャックの方に移す。
かなりの
「俺は見れば直感的に相手の強さが分かる。その証拠に、俺はウォンを強いと思って仲間になった」
「では、他の
「そうは言ってない。俺はお前の実力も認めているつもりなんだが」
まだウォンはジャックと関わり始めて間もないが、良い意味で言葉に
だからきっと、ジャックは本心からウルカのことを認めているのだろう。
こうして素直に相手に伝えられるのも、ジャックの
すると、ウルカは窓際に
「え、えーっと、、、。わ、
初めて動揺を
「やっぱり、恥ずかしがり屋だな」
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五分ほど
ウォン達を下ろした馬車はそのまま去っていき、森の中にはウォン達四人だけになる。
「なるほど。本当に私達だけで魔物を討伐するのですわね」
馬車が去ったということは、何かあっても決して
アステリア魔法学校はその特性上、死の危険に瀕する場面が数多くある。そして、おそらくこれがウォン達が初めてそれに瀕する場面だろう。
少しの間目を閉じていたジャックが目を開き、静かに言う。
「気を付けて行くぞ」
ジャックが先頭になり、
あまりにも止まらないので、不思議に思ったホルンがジャックに問いかけた。
「ジャックくん。もしかして、もう魔物の位置が分かってるの?」
「普通の生物とは違う音がする。それもこの森のあちこちから。例え場所が分かっていなくても、すぐに
ジャックの
その気になれば、森の中にいる
それほどの感覚を持っているのだから、魔物と接敵するのに時間がかからないのは、言うまでもない。
森を進んでいると、ジャックが
それも複数体。まあ狼は
狼に聞こえないような小声でウルカが
「
魔物には
下から
平均級魔物は一般的な魔法使いで倒せる程度、驚異級魔物は
つまり、今ウォン達の目の前にいる驚異級魔物の魔狼は、ウォン達のような
魔狼の数は五体。ウルカの言うように
それに同意するのは、ジャック。
「そうだな。なら、それはお前に任せていいか?」
「わ、
動揺するウルカだが、ジャックは首を横に振る。
「いや、ウォンよりもお前の方が向いている。俺の目に間違いはない」
「で、ですが、、」
彼女は魔法使いであれば誰でも知っているほどの名家、ツヴァン家で生まれた長女だ。
彼女の髪の色は、
彼女の
ウルカが家から
優れていなくてはならない。正しくいなくてはならない。
ウルカ・ツヴァンって誰?
そんな呪いをウルカは
歴史が決めた
昔を忘れた家族は、彼女と自分を重ねてはくれない。
下を向く彼女は、自分を
だが、ウルカの前にいる少年は違った。
「お前は確かにウォンに負けたかもしれない。もしかしたら人生で初めてだったのかもしれない。だがな。たかが一回負けただけで、お前の全てが消えるわけじゃない。今までの努力も、貰った
「、、、」
「お前は強い。少しくらい、自分を信じてあげてもいいんじゃないか?」
ジャックの言葉を聞いて、ウルカはようやく彼を正面から見る。
その緑の瞳もまたウルカを見つめていて、二人の間には空気だとか
ただ同じ魔法使いとして、ジャックとウルカは言葉を交わす。
「私は、ツヴァン家の長女として、偉大な魔法使いにならないといけませんわ、、」
「ああ。だが、そのなり方まで
「それは、、」
「お前はお前らしいやり方で近づいていけばいい。それをもし誰かが
「、、そう、ですわね。私は私らしく、、。私のやり方で、私の夢を
「そうか」
ジャックはその碧眼がこれ以上迷いに
一度目を閉じたウルカが目を開けると、
「ですが、否定した方は私が許しませんので、あなたが
笑みを浮かべ合うジャックとウルカ。その様子を見て、ウォンとホルンは顔を合わせて笑みをこぼした。
ウルカは笑みを
「今から作戦を立てますわ。皆さんについて教えていただけますか?」
「私は光属性の
「火炎とか」
「俺は土属性の初級」
ジャックの言葉を聞いて、ウルカが思わず口を開く。
「え、あれだけ戦えていたのに?」
「ああ。俺は魔法体質で
ウルカはそれ以上追及することはない。
そして、口を閉じてから一秒も
「まず、エスノーズさんの火属性魔法は森を燃やしてしまう
「それって
ホルンの疑問は当然だろう。
対象を閉じ込める空間を作る魔法は、現代の
もちろんホルンが使えるわけがないため、ホルンが聞くのも無理はない。
だが、ウォンは知っていた。他の方法を。
「バリア?」
「
「俺達は何をするんだ?」
「プリアルさんがバリアを
「わかった」
ウルカの作戦に全員が納得した上で
ホルンが右手を伸ばすと、全神経を集中して
「バリア」
魔狼を球体のバリアが包む。
魔法の形成は魔法使いの中でも、
どれだけ
つまりは、想像力と魔力循環が要求される。
ここまでの
「今ですわ」
ウルカの合図でウォンが立ち上がり、右手を伸ばす。
ウォンは少しだけ神経を集中して詠唱した。
「
バリアの中を巨大な火炎が満たしていく。
ウォンが詠唱してから数秒と
「も、もう
「
「ああ」
バリアが壊れると同時にウォンも魔法を
ウォンとホルンを
「
「剣」
雷属性の中級魔法である電が一匹の魔狼を貫き、右手に剣を形成したジャックが残りの一匹の首を切り落とした。
四人は
「やったねっ。ウォンくんっ」
「うん」
剣を振って
それに気づいたジャックも同じように左手の手の平を差し出そうとした瞬間、ジャックが
「どうかしましたの?」
「ああ。悪いな、喜ぶのは後になりそうだ」
ウルカがそれについて追及する暇もなく、ジャックが走り出した。
残りの三人もそれに合わせて走り始める。
「ジャックくん!どうしたの!?」
「説明してる暇はない!戦闘準備!」
ジャックの走りに魔法体質ではないウォン達が追いつけるわけがなく、どんどんとジャックの姿が遠ざかっていく。
ジャックを追って茂みを抜けると、そこには巨大な魔物と、地面に
どうやら
四人が生徒と魔物の間に入る。
「大丈夫?
ホルンの判断は
先ほどの魔狼は作戦があったからこそ討伐することができたが、今回は
ここは、逃げることが
立ち上がる三人の生徒とは
「
足首が
魔物を正面から見つめるウルカが
「さ、サーベルベアー、、」
「それってすごいのか?」
「驚異級魔物の中でも災害級魔物に近い位置にいる魔物ですわ、、。
サーベルベアーは
熊は冬になると
それがサーベルベアーの背中に生えた、
ジャックも目の前にいる存在が強いことは気づいていたが、一応ウルカに
金属のはずなのに
かなり重い攻撃のはずだが、ジャックが
「ガルデリアさん!」
「
ジャックの言葉は
ウルカは
「エスノーズさんとプリアルさんは、皆さんを連れて
きっと授業の前の状態でそう言われたなら、ホルンやウォンは絶対にそれを
相手は熟練した魔法使いでも上位の実力者が相手取るような、強力な魔物。
まだ魔法を
しかし、魔狼を倒したことで、ウォンとホルンは既に二人の
だから、今は二人を信じることにする。
「わかった」
「二人とも気を付けてね」
ウォンが立ち上がることができない女子生徒を
緊張した様子のウルカが、ジャックに問いかける。
「よかったのですか?私の指示に
「どうしてだ?」
「死ぬかもしれないですわよ」
「俺達は魔法使いだ。死ぬなんていつでもあり
それに、とジャックが白い歯を見せる。
「お前を信じてるからな」
「これで死なせたら、私はとんだ
「なら死なないようにしないとな」
ウルカが右手をサーベルベアーに向ける。
「
ウルカ達と同じ
それは魔法の名門アステリア魔法学校でも同じことで、中級魔法を使えるのは学年に
その中で上級魔法を
ウルカからすれば確かに
幼い頃から才能にも
悔しくないはずがない。
だが、まだ一度しか、アステリア魔法学校の入学試験でしか負けていない。
ウルカはまだ負けていない。
「
しかし、流石に
雷属性の上級魔法だったとしても、
この規模はまさに先ほどのウルカが放った魔法のよう。
ジャックが少し前に出て剣を振る。
剣を
だが、この数を一人が一本の剣で
ギリギリ
ウルカも詠唱が間に合わない。
目を閉じて痛みを覚悟したが、何も
「クソッ、、」
そんな声が聞こえ、ゆっくりと目を開けると、ウルカの目の前にはジャックの背中があった。
剣が間に合わなかったジャックは、無理やりウルカと剣の間に
「ガルデリアさん、、!?」
ジャックの左手から血が流れる。
地面に音を立てて落ちる
「
ジャックは血を流している左手に力を込め、受け止めていた剣を
ウルカは
サーベルベアーを目の前にして、右手を差し出し、神経を集中させた。
「雷電!」
先ほどよりも巨大な電流が一直線にサーベルベアーの方へ向かっていき、その
口を開いたまま、サーベルベアーはその場に倒れる。
ウルカは確かな達成感を感じながら、肩で息をした。
しかし、すぐにウルカは座り込んだジャックに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。これくらいなら、、」
ウルカはすぐにネクタイを
「バカですか、あなたは」
「お前を守り切れなかったのは、俺の
ジャックはこの場に残った時点で、ウルカを守ることを
だからサーベルベアーに突っ込むことはしなかったし、自分の体を
ウルカは思い切りネクタイを結ぶ。
「少し痛いんだが」
そう呟くジャックを、ウルカは
「私を信用してるって、、言ってたじゃないですの、、、」
「ああ。信用はしてる」
「じゃあなぜ、、!」
「、、俺は、お前をもう仲間だと思ってる。俺にとって仲間は、何よりも大事なものだ」
「自分よりも、ということですか、、」
「そうだ。それに、このケガは俺の実力不足だ。お前は悪くない」
「ジャックさんっ!」
ウルカは気が付けば名前を呼んでいた。
「私のことを仲間だと本当にお思いになるなら、あなたを心配する私の気持ちも考えてください、、!」
「、、、」
ジャックは
それは、ジャックの感覚や直感が間違うことが少ないからだ。
だからこそ、
この場に駆け付けた時も、自分が分かっているからウォン達が知っていても知らなくても、どうでもよかった。
だが、彼の目の前にいる少女にはもう、そんなことは思えなくなっている。
「、、悪かった」
「ウォン達も心配だ。
「そ、そうですわね、、」
ジャックが
すると、ウルカがどこか落ち着かない様子でジャックに言葉を投げかけた。
「さ、先程のことは、恥ずかしいので他の方々には言わないでいただけますか?」
「ああ。
そんな会話をしていると、ウォン達が乗ってきたような馬車が二台あり、ウォンが
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
四人全員を乗せた馬車は、走り始めてすぐに姿が見えなくなってしまった。
まだ気づいていないウォン達に、ジャックが声をかける。
「ウォン。ホルン。大丈夫だったか?」
「うん」
「ジャックくん達こそ大丈夫?」
「ええ。サーベルベアーは私達で討伐いたしましたわ」
会話をしながら、ウォンの視線がジャックの左手に向かう。
「ジャック。
「ああ。少し
ウォンは本当によく周りを見ている。
本人の性格が
「ウォンくんが魔法で先生に知らせて、馬車に来てもらったの。私達も早く行った方がいいよね」
少し開けた場所に出たウォン達は、テトに知らせるために魔法を使った。
火を空中に放つことで、
ホルンから馬車に乗り込もうとした瞬間、ウルカがそれを止める。
「待ってください」
ウルカと三人が向き合い、視線が
「どうかしたの?ウルカちゃん」
ウォン達三人には全く
「私は、勝手にウォンさんを
ウルカがウォンを名前で呼んだ。
先程ジャックを名前で呼んだのは
ウルカが顔を上げると、ウォンが微笑みを浮かべていた。
「大丈夫」
それに
「うんうん。私も気にしてないよ」
「俺も」
「皆さん、、。私は、めんどくさいですわよ」
アリスは歪みそうになった顔をどうにか元に戻して、
「少し、、恥ずかしがり屋ですから」
**************************************
「サーベルベアーをこの
サーベルベアーの死体を目の前にして、テオは
「今年の一年生、誰か
人が
アステリア魔法学校ではどの学年にも出現する、
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