第二章 敵意の対象
入学式を終えたウォンは、明日から始まる授業に
談話室は昇降口から入ることができ、全学年の
各学年の
昇降口の
ちなみに学年の判断は制服に
ウォンも同級生との良い関係を出来るだけ
他の一年生たちと同じように、近くにいる生徒に話しかけようと思ったが、今まで母親であるペトラ以外の人間と関わったことがないのだから、いきなり同級生に
完全に水を失った魚状態でおどおどとしているウォンに、一人の少女が近づいてきた。
「ねえ、どうかしたの?」
そう声をかけてきた少女は、
ウォンは初めての
「は、初めて」
「うんうん。緊張するよね」
話すことが苦手なウォンの言いたいことを、最後まで言葉を聞くことなく理解してのけた。この少女はかなり人の心を読み取ることに
柔らかな表情と
そこで初めて少女と視線がぶつかる。
「私はホルン・プリアル。これからよろしくね」
「ウォン・エスノーズ」
「ウォンくんか。いい名前だね」
すると、ホルンはウォンの顔よりも少し上に視線を向けた。
最初はその視線が何を示しているのか分からなかったが、すぐに気づく。
「髪?」
そう聞くと、ホルンは
「い、いや、別にバカにしてるとかじゃないんだけど、、。黒髪って
「大丈夫。気にしてない」
「よかったぁ、、」
魔法使いは魔力の
この色は魔法使いとしてはあまり
加えて、ホルンはとてもやさしい少女であると、ウォンは直感的に判断した。だからきっと、そんなことで人を馬鹿にしたりしないだろうと思った。
「ホルンちゃん、お
「プリアルさん、この魔法なんだけど、」
「ベッドすごいよ!見に行かない?」
その全員がホルンに対して用があったようだ。
もう既にこんなに多くの生徒から信頼を得ている。
人の
「ちょっと待っててね」
「え、」
てっきりみんなの方へ行ってしまうと思っていたため、ホルンが
「どうかしたの?ウォンくん」
ウォンを見上げるホルンはみんなに向けるのと同じ笑顔だ。
「なんで?」
「なんでって、。今、私が話してるのはウォンくんだよ?それを
その言葉にウォンは目を
どんなにこの少女の考え方は美しいのだろう、と。
ウォンと話す理由ではなく、話さない理由で判断した。
「かっこいい」
「え、何が?」
「ホルン」
ウォンは
すると、ホルンは慌てて否定する。
「そんなの言われたことないよ~。バカっぽいとかなら言われたことあるけど」
「ううん。いい人」
ウォンが
「ありがとう、。でも、あんまりそういうこと、言わない方がいいよ?」
「なんで?」
ホルンの瞳がギラギラと
二人の間に
「いいからっ。もう行くね」
ウォンは首を
談話室から各学年の寝室に向かうことができ、一年生の寝室は
これは入れる寝室を制限するための魔法らしい。
絵を通り抜けると、十五個のベッドが
プライバシーの欠片もないと言ってしまえばそこまでだが、ウォンには夢にまで見た共同空間だ。
ベッドの横にあるローテーブルには、どのベッドが誰の物なのかを示すためのネームプレートが置かれている。
ウォンは自分のベッドを見つけると、おもむろに思いっきりダイブした。
「疲れた」
ここまで長かった。あれから大変だった。だが、まだ足りない。まだだ。
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目が覚めると、まだ寝室には
ウォンは田舎暮らしが長かったせいか、毎日朝早くに自然と目が覚めるようになっている。
魔法貴族出身が多い彼らには、考えられないことかもしれないが。
ウォンはベッドから体を起こし、ベッドの下にある
音を立てないように制服に着替え、ウォンは談話室に向かうことにする。
「ホルン、、?」
談話室に入ってすぐに視界に入っていたのは、ソファに
ウォンが声をかけると、ホルンが振り返って驚く。
「え、ウォン君?こんなに早くにどうしたの?」
それはウォンの
「
「そっか。私も早めに起きちゃうんだ」
ホルンは自分の両手を眺めながら、
「寝てる時間がもったいなくって、、。私は一般家庭の出身だからさ。やっぱり、みんなと比べれば魔法も
魔法使いの実力のほとんどは
基本的には長く魔法の
幼い頃から魔法を使い慣れている彼ら彼女らとは、一般家庭出身の
ホルンが
「何してた?」
ウォンの視線が向くのは、ホルンの
ウォンも魔法を使い始めて
ホルンは本の
その本の名前は『魔法初心者のための魔法技術』というもの。これはアステリア魔法学校の現校長、シャンラの
「これ、、なんだけど。前に魔法書店の人におすすめされて、、」
「ううん。大丈夫」
ホルンは少し恥ずかしそうに言うが、これは魔法使いなら誰もが通る
かくいうウォンも、最初はこれを読んでいた覚えがある。だが、、。
「魔法」
「え、、」
「使って」
「う、うん」
ホルンは右手を差し出し、
「
すると、ホルンの右手から
やはりウォンの思っていた通りの結果だ。
これは光属性の
そもそもアステリア魔法学校に入学できた時点で、この本に
ウォンは自分の記憶を頼りに、本の後ろの方を開いた。
ホルンが流れる髪を耳にかけながら、そのページを
「えーっと、、『この本は
「うん」
「そうだったんだ、、。全然知らなかった」
逆に初級魔法までしか
「ありがとう。私、そういうのも全然わからなくって」
「大丈夫。すごいよ」
「えへへ。そっか」
もし
ウォンにはない。
「あれ?ホルンちゃん、早いね」
「おはよう。ちょっとウォンくんに魔法を教えてもらってたの」
「へ~。あんまり
そう視線を向けてきたのは、名前も知らない女子生徒。
少しだけ気まずさを感じて、ウォンはソファから立ち上がる。
「そんなことない」
**************************************
朝の八時。一年生ドラグーン寮の教室に生徒全員が集まり、初回の授業が始まる。
魔女が
「これから魔法技術の授業を始めるよん。私の名前はルカ・スカーレット。一部では『
ルカ・スカーレット。灼熱の魔女という通り名は、ウォンでも知っていた。
「魔法技術は文字通り、魔法の技術を学ぶ授業。で、初回はみんなの
適正属性は魔法使いにとって、最も重要な要素と言ってもいい。なぜならそれによって、使える魔法が
そして、適正属性には
体内精霊の属性は、その人の
体内精霊の属性こそが、適正属性そのものである。つまりは、適正属性の検査というのは、体内精霊の属性を検査するということだ。
ルカが
水晶が机の上に置かれると、ルカが口を開いた。
「この水晶に手をかざし、魔力を
ルカは
それがアステリア魔法学校における、
「最初は、、ホルン・プリアル。前に出てきてね」
「は、はいっ」
ホルンが
すると、水晶が光りだす。
「おー。これは凄いね」
ルカがそう言うのも無理はない。そもそも適正属性には、ある程度割合に
魔法属性は全部で七つ。火、水、雷、草、土、闇、光の中でも闇属性適性と光属性適性は
そして、歴史に名を
光が収まると、ルカがホルンの頭をポンポンと叩いた。
「こんなに強い光属性なかなか居ないよん。いいね」
「あ、ありがとうございます」
ルカが言った通り、ホルンほど強く光属性を示すことは珍しい。
それは、
**************************************
ウォンの順番が回ってきたのは、二十九人目が終わった後、つまりは最後だった。
「次が最後ね。ウォン・エスノーズ」
やっとの思いで呼ばれたウォンが前に出ていくと、ルカが
ウォンが首を
「どうかした?」
「いえ」
ウォンが右手を水晶にかざすと、空中には火と闇が入り混じった何かが現れた。
それを見て、教室中が
「おい、あれって、、」
「噓でしょ!?」
「ありえない!」
正直、ウォン自身もかなり
今までウォンが使っていた魔法は火属性の魔法。だが、これが示すことは一つの事実だった。
ウォンの適正属性は火だけではない。闇属性の適正もあるということ。
これにはルカも
「出たね!
水晶から手を離すと、ウォンの前に適正属性を検査していた少女が手を
「どうかした?ツヴァンさん」
ルカに呼ばれて立ち上がったのは、金髪を
ウルカは
「二属性適性とは、どういうことなのですか?」
それは当然の疑問だった。
ウォンも二属性適性なんて初めて聞いた。ウルカも知らなかったのなら、それは魔法界の
ルカはウルカに対して、
「二属性適性は、その名の通り二つ適正属性があることだよん。と言っても、ほとんど居ないんだけどね。アステリア魔法学校でも数人しかいないんじゃないかな」
だが、逆に言えば数人は居るということ。
その疑問はウルカも思ったようで、さらにルカに質問を投げかける。
「では、
「自分達が知ってることだけが、世界の全てじゃないよ?これから勉強していこうよ」
「とぼけないでください」
少なくとも良い雰囲気とは言えない。
それはウルカだけではない。教室にいる生徒全体の雰囲気として、どこか
ルカも当然それを感じ取っているだろう。
「ま、知れるわけないって言った方がいいかな」
「それは、、」
「もういい?そろそろ授業を再開しても」
ウルカの質問をかわし、ルカは授業を無理やり再開させた。
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昼休みを
ウォンは他の
一人なのは当然なのだが、周りからの
この状態では、落ち着いて食事を
ウォンが席に座ってすぐ、
「ウォン君。一緒に食べてもいい?」
「ホルン、、」
ホルンからは他の生徒から感じるオーラがしない。ウォン自身も心を
「ウォン君が
ホルンもウォンが感じ取っていた
すると、三人の男子生徒が二人に近づいてくる。
「なあお前、ウォン・エスノーズだろ。一年の」
そう声をかけてきた男子生徒達の制服の色は緑。エンブレムの数字は二。つまりは、ヘラクレス寮の二年生ということだ。
明らかに穏やかな様子ではない。
ホルンもそれを感じ取り、少しだけ目を
「なんですか?
「いや別に?ただ二属性適性の一年生が出たって聞いたからよ。どんなやつか見に来ただけだぜ?」
男子生徒の一人がウォンの顔に自分の顔を近づけてくる。
その目は完全に
「どうだ?俺と
そこでようやくウォンは彼らの
つまり、この二年生の男子生徒達は二属性適性を
だが、これにウォンが乗るメリットも、必要もない。
「ウォン君。そんなのしなくていいからね」
「お前には聞いてねぇよ。
「お前らこそ。引っ込めよ」
急に
「なんだテメェ。先輩に対しての
「は?そっちが先輩としての態度してないからだろ?」
すると、
「何をしている」
それは、アステリア魔法学校現生徒会長、ギラン・タリタだった。
ギラン相手はさすがに
「な、なんでもないっすよ」
それだけ言って、三人は去っていった。
ギランはそれを
「
「いいえ。大丈夫です」
ホルンが落ち着いた様子でそう答え、ギランは白髪の少年に視線を向けた。
「それは良かった。だが、君はもっと冷静になるべきだ。もし彼らが魔法を使っていたら、騒ぎでは
「その時はその時です。少なくとも俺には、あの三人に負けるビジョンは浮かばなかった」
「勝ち負けの問題ではない。
「、、、考えときます」
ギランに対しても
そんな彼にも
「、、あの人の相手はしたくないな」
「ありがとう」
ため
すると、少年は
「別に。あいつらがうるさかったからな」
「ふふ。素直じゃないね」
そうホルンが言うと、少年は大きく伸びをした。
「ま、俺よりも恥ずかしがり屋のやつもいるけどな」
ウォンとホルンがその言葉の意味を知る間もなく、少年は言葉を
「俺はジャック・ガルデリア」
「私はホルン。こっちはウォン君ね」
「ああ。よろしく頼む」
ジャックは立ち上がった。
「
そう言って
一人の女子生徒の後ろで立ち止まると、視線を向けることなく声をかけた。
「助けようと思うだけなら、
「、、わかっていますわ。言われなくても、、」
「そうか」
それだけ言って、ジャックはウルカを通り過ぎた。
**************************************
午後の授業は、魔法実戦。魔法を使った
ウォン達ドラグーン寮の生徒達は、第一競技場にいる。
アステリア魔法学校には魔法実戦の授業をはじめ、さまざまな
第一競技場もそのうちの一つだ。
ウォン達の前に立つのは、まだ二十代と思われる若い男性。
「これから魔法実戦の授業をみんなに教えます。グラン・タリタです。今日は三人一組で一試合してもらおうかなと思っています。何か質問がある人はいるかい?」
「組む相手は自由ですか?」
「基本的にはね。じゃあ、三人組を組んでください」
グランの合図でそれぞれに
だが、ウォンに近づいて来ようとする生徒は一人もいない。
周りを見ると、同じように一人で
それは、ジャックとホルン。
ジャックは人が寄ってきていないだけなのだが、ホルンに
なぜなら、ほとんどの生徒が昼休みでの
必然的にウォン、ジャック、ホルンの三人で組むことになる。
「ごめん」
ウォンは二人にまず
二人が同級生から
だが、それを受け入れるほど、ジャックとホルンは弱くない。
「そんなの気にしてないよ」
「ああ。お前が気にしてる方が
「、、ありがとう」
ウォンは二人に謝るのではなく、感謝した。
「よし、他のやつらを
「そうだね。ぎゃふんと言わせちゃうんだから」
「うん」
ウォン達が
「ウォン・エスノーズ。俺達と試合しろ」
確実にウォンに対して
だが、今はウォンも一人ではない。
「わかった」
すると、二つ返事だったウォンが気に入らなかったのか、男子生徒の顔が
「二属性適性だからって
男子生徒達はそれだけ
ジャックが
「なんなんだ、あいつら。相手と自分の
「え、、」
ウォンはジャックの言葉の意味が分からない。
だが、ジャックは当然のように
「ウォンは強い。俺の目に間違いはない」
**************************************
ウォン達三人と、先ほどの男子生徒三人がフィールドに入る。
フィールドは魔法陣式の結界魔法で作られた、教室四つ分ほどの空間。
ここまでの試合を見た感じ、どれだけ魔法を速く、正確に撃てるのかが
だが、ウォン達の作戦はその
「それでは試合、、、開始!」
グランの
「発光」
フィールド中央で眩い光が
その
およそ人間的に
これは、ジャックの
魔法体質とは、魔法使いが
ただ、そのほとんどは
特にジャックのような『魔力が限りなく少なくなり、運動能力が人間の
「
走りながら詠唱し、ジャックの右手に一本の剣が
光の中から向かってくる魔法を剣で
光が消えた瞬間に一人を
ジャックは
しかし、このままではもう一人も
ジャックはすかさず
「ウォン!今だっ!」
ウォンは右手を相手二人の
「
空中から放たれた火炎はフィールド全体を
火炎は相手二人を
「そこまで!
全員が魔法を解除し、フィールドから出る。
結界魔法が解除されると同時に
すると、笑みを浮かべたグランがウォン達三人に近づいてくる。
「
その言葉を聞いて、全員の頭に
だがそれを誰も正面から聞けないので、ホルンが
「ウォン君が流石って、どういうことなんですか?」
ホルンの質問に、グランはとぼけたような顔をする。
「え、知らなかったのかい?」
グランがそう言うと、三人を他の生徒たちの方へ
「
グランの言葉に、その場にいる
非常に珍しい二属性適性の魔法使いだが、魔力が体を
それがウォン・エスノーズ。
一年生暫定一位の
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