Layer37 三日後
どうにかして落ち着かせて、やっと姫石はまともに会話ができるまでに回復した。
「人の体を勝手に見るなんてサイテー」
姫石が自分の体を隠すような仕草をしながら言った。
回復した姫石の第一声がこれだった……
姫石のその体は俺のだから隠したって意味はないと思うのだが。
「仕方ないだろう。好奇心には勝てなかった。服の上からでもわかる地平線を確かめずにはいられなかった」
「……まだ男の子だから異性の体に興味があったって言われた方がマシだったわ」
「そういう姫石はどうなんだ? 女の子だから異性の体に興味があって見ちゃったんじゃないのか? 」
本気半分、冗談半分で俺は姫石に聞いてみた。
「なっ! み、見るわけないでしょ! いくら玉宮の体が思っていたより筋肉質だったからって触ったりなんかしてないわよ!」
この反応は……図星だな。
しかも想像以上のことをしていやがった。
「俺は見たかどうかを聞いただけで、触ったかどうかなんて聞いてないぞ」
「ッ! それは玉宮もあたしの体をベタベタ触ったと思ったから言っただけ!」
あれ?
そういえば俺って姫石の体触ったっけ?
「いや……俺は腕とかには軽く触ったような気がするけど、腕ぐらいなら今までも触ったことあったしノーカンじゃないか? そうなると触ってないな」
「え……触ってないの?」
姫石が信じられないと言わんばかりに驚愕して聞いてきた。
「あぁ、特に触るというか揉むようなものもなかったし」
さっそくいつも通りの対応をした俺だったが、そこには何の反応も示さずに姫石はなぜかうなだれていた。
「……とにかく、あたしは見ても触ってもないから!」
「なら、お互い様ということでこの話は終わりだ」
「お互い様じゃないから!」
「ほう。姫石がそのつもりなら俺はもっとお前を問い詰めても良いんだぞ」
痛い所を突かれた姫石は言葉に詰まった。
「……まぁ、あたしは優しいからお互い様ってことでいいわよ。だから玉宮があたしの体を見て触ったことは許してあげる」
姫石が根負けたように言った。
だから触ってはいないんだがな。
「そりゃあどうも。互いに二日目の下着を着ている仲だからな。裸を見られたことぐらい大したことないよな」
「……気づきたくなかったし、気づいてないフリしてたのに」
姫石も気づいていたようだ。
男子の俺ですら下着を着替えずに二日間も同じものを着たままなんてのは気持ちが悪い。
女子である姫石なら尚更だろう。
「あ! 下着で思い出した! さっき渡したあたしの着替えに入ってる下着のタグは見ないでって……もう言っても意味ないんだった……」
嫌なことから目を背けようとして、姫石が墓穴を掘った。
姫石が言っている下着のタグとはブラジャーのことなのだろう。
たしかタグにサイズ表記があった気がする。
それを見られたくなかったようだが、俺が実物を見てしまっているので今さらどうしようもない。
「「……」」
俺と姫石の間にまた沈黙が流れる。
麦茶の入ったコップが汗をかいていた。
「女の人の方が気持ちいいってよく言うけど、本当なのかな?」
姫石が唐突に変なことを聞いてきた。
「気持ちいいって何が?」
「ほら、恋人とかがするそういうことだよ」
「……は?」
間の抜けた声が俺の口から漏れた。
姫石は何を言ってるんだ?
セックスは女の方が気持ちいいというのは本当かと俺に聞いているのか?
「本当かどうかは知らん。そもそもどっちが良いかなんて男側と女側を両方経験して比較することによってわかるものだろう。男は男、女は女の経験しかできないんだからそんなことは誰にもわからないはずだ」
こんな質問に真面目に答えてどうするんだよ俺は……
「けどあたし達は今、体が入れ替わってるわけでしょ。これで元の体に戻ることができたら比較ができるんじゃない?」
汗をかいた麦茶のコップの水滴が一筋の軌跡を残しながら静かに流れた。
俺と姫石の二人だけしかいない家の中はシンとしていた。
……
なぜ、この状況でそれを言った!?
なんなんだ!?
姫石は何を言いたいんだ?
俺達は入れ替わっているから今のうちに経験して、元の体に戻ってから、また経験して比較すればいいって言ってるのか!?
これって、もしかして誘われてるのか?
ダメだろ、思春期の真っ只中の奴を誘うなんて!
まぁ、最初に親のいない家に誘ったのは俺なんだけどさ!
でも、俺はそういうやましい気持ちがあって誘ったわけではない。
だが、姫石は違う!
これはもうそういう意味で誘ってきている。
そもそも付き合ってもいない女子から誘ってくることなんてことはありえるのか?
そんなの男の妄想の中だけじゃないのか!?
ともかく俺は姫石の頭を一度正気に戻さなければならない。
俺は姫石のこめかみ辺りを両手で添えて、自分の顔の目の前に姫石の顔を近づけた。
「え!? 何!?」
いきなり顔を寄せられた姫石が何事かと驚いた。
「え!? ちょっと待って! 何する気?」
俺は何も言わずに姫石の顔を見つめた。
「いや、気持ちは嬉しいけどまだ心の準備が……」
ドン
俺は姫石の言葉を無視して、互いの額を軽くぶつけた。
少し鈍い音がしたが音のわりにはあまり痛くない。
「イッタ〜〜〜何で急におでこぶつけてくんのよ!」
「これで少しは姫石の頭も正気を取り戻すかなと思ってな。あと、入れ替わった時と同じことをすれば元の体に戻るっていう定番をやっていなかったなと思ったからやってみた。ま、元には戻らなかったけどな」
「戻るわけないでしょ!」
「やってみなきゃわからないだろう」
「そうかもしれないけど、やるならもっと優しくやってよ。まだ、昨日のぶつけた痛みが若干残ってるんだから」
「そうしたら再現にならないだろう」
ぶつけた時に静電気が発生していない時点で再現はできていないのだが。
それに姫石の言う通り、俺も昨日のぶつけた痛みが残ってたのか後から痛みが増してきているような気がする。
「あたしは何のために急いで心の準備を……」
ピロン♪
話を遮るような形で俺と姫石のスマホが同時に鳴った。
見ると昨日作ったグループ「転校生だって取り替えたい」からのメッセージ通知だった。
差出人は八雲だった。
八雲からのメッセージにはこう書いてあった。
「三日後の午前、科学室に来てくれ。玉宮香六と姫石華の体を
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