Layer27.0 早起き

 遠くからアラームの音が聞こえてくる。

 もう起きる時間なのか。

 早く起きて学校に……あ〜今日から連休で学校は休みだったか。

 なら何でアラームが鳴っているんだ?

 休みの日はいつもアラームをかけないはずなのに。

 アラームの設定を消し忘れていたのか?

 そもそも、アラームの音っていつもこんなだったけか?


 そう思い、なかなか開かない目蓋をこじ開けて音のする方へとノソノソと近づいた。

 見ると、アラームではなく姫石からの電話だった。

 どうりで音が違うわけだ。


 こんな時間に姫石から電話があったら、普段の俺なら人の睡眠を邪魔しやがってなどの恨み言の一つや二つ言っているところだが、今の状況を考えるとそうも言っていられない。


 急に電話してくるってことは姫石に何かあったってことだよな。

 少し身構えながら、俺は姫石の電話に出た。


「……もしもし、何かあったのか?」


 眠気と闘いながら、どうにか電話口の姫石に言った。

 あ、先におはようって言っといた方が良かったかな。

 いや、そんなことを言っている場合ではないかもしれない。


「……」


 電話口の姫石から何の返答もない。

 正確には何かを言っているのかもしれないが声が小さすぎるのか、それとも言語を発していないせいなのかはわからないが俺には聞き取ることができなかった。


「どうした!? 姫石! 何かあったのか!?」


 なんだか嫌な予感がして眠気が一気に吹っ飛び、俺は姫石に叫んだ。


「……へ」


 俺の叫び声に対して姫石がようやくなんとか聞き取れそうな声を発した。


「へ? へってなんだ!? へがどうしたんだ!?」


 俺は姫石の状況をしるために、必死に聞き返した。

 あ、必死って言葉使っちゃったよ。

 こうなったら必至ってことにしよう。

 ……ただのダジャレだな。


「こ、この……」


「この?」


 俺が余計なことを考えていると姫石はまたもやよくわからないことを言った。

 俺がまた姫石に聞き返そうとした時、電話口から姫石が大きく息を吸うような音がした。

 そして、


「こ、こ、この……変態!!!」


 俺は姫石から清々しいほどの罵声を浴びた。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 お休みなんだから思いっきり寝坊しようとあたしは思っていた。

 けれど、入れ替わってしまったことへの不安のせいか普段よりも早く目が覚めてしまった。

 時間を確認しようとスマホに伸ばした男の子らしい厚みのある手を見て、昨日寝る前に抱いた淡い期待は外れたことを悟った。

 同時に、入れ替わりがやっぱり夢ではなく現実だと思い知らされた。


「本当に元に戻れるのかな……」


 ずっと感じていた不安がつい口に出でしまった。


 ゴールデンウィークの初日からこんな後ろ向きなこと考えちゃ駄目だよね。

 せかっく早起きしたんだから、そのぶん時間を有意義に使わなくちゃ損だよ!

 昔から早起きは三文の徳って言うしね。

 玉宮には星が飛ぶって言葉をあたしが知らなかったことを常識がないみたいに言ってたけど、あたしだってこういう四字熟語知ってるんだから。

 玉宮への抗議を考えながら、あたしはふとんをはいでベッドから出ようとした。

 その時、不意に自分の体の下の方に違和感を感じた。

 気付いたら、自然と手を伸ばしていた。


 これと全く同じことをあたしは経験している。


 手を伸ばそうとした時、本当はしちゃいけないってわかっていた。

 あたしの本能がしてはいけないと警報を鳴らしていた。

 けれど、あたしは手を伸ばすことをやめることはできなかった。

 体の下の方にある違和感を確かめずにはいられなかった。

 昨日の夜、お風呂に入った時に見た結構大きかったアレがどうなっているのかを。


 りんごの皮を剥いた中身のような硬さが手から伝わってきた。


「……」


 想像以上の大きさとリアルな硬さの感触にあたしは悲鳴を上げられずに絶句してしまった。

 ……

 どれくらい時間が経ったのかな。

 絶句してからずっとあたしはボーっとしていた。

 それが1秒だったのか、10秒だったのか、それとも1分だったのかはわからない。

 ただ我に返えったら玉宮に電話をしていた。


 玉宮が電話に出ると、あたしは言いたいことがたくさんありすぎてなかなか言葉を発することができなかった。

 かろうじて最初に出た言葉が「変態」の「へ」だった。

 なぜか玉宮はすごく真剣に聞き返してきたけれど、あたしにはそんなことを気にしている余裕なんてなかった。

 そうしてようやく言葉を発せられそうになったので、あたしは思い切り叫んだ。


「こ、こ、この……変態!!!」


 その後すぐにあたしは勢いで電話を切ってしまった。

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