第18話 涙

何、泣いているんだ?

何が理由か判らないが矢島が泣いているのを発見した恵はティッシュを渡しながら声をかけた。

「どうした? 腹が減りすぎて悲しいのか? 」 渡されたティッシュを受け取り涙と鼻水を拭って

「俺はそこまで子供じゃないよ! 恵のバカ」 「そうかい、それじゃ季節がら花粉にやられたのか、処方してもらおうか? 」

「····俺は花粉になんてやられてないよ(泣)」 「んじゃ、大事な誰かとお別れでもしたのか? 私以上に大事な存在がお前が抱いていたら許せないな〜」鼻で笑う恵だが至極真面目な顔で聞いてくる。

「テストで進級できなかった生徒がさ結局スイミングを辞めるんだよ、この子は続けていけば到達できるから、頑張って行きませんか? って親御さんにも話したんだけどさ····スイミングで将来食べては行けないでしょ、それに月謝や費用がかかり過ぎてご飯が食べれなくなりますって言われたら続けてもらう事を強くは言えなかったんだ(泣)」

「泣くな····お前の指導が悪かった訳じゃない。 相手を良く見て理解しようといつも話し合っているじゃているないか。生徒側の生計が無理だったのが理由なんだろう、ま、理由が理由だけど社長とか同僚とも、ガッツリ話もしたんだろ、だから泣くな····」

「俺が、どんなに説得しようと打ち勝てない経済の壁とスイミングへの情熱を注ぎ込めなかった事がどうしようもなく悔しいんだ! 俺は不必要な存在だ! 邪魔者なんだよ、役立たずだ!」


矢島のメソメソが止まないので恵は部屋からそっと出て行った。


恵はフライドチキンを買って帰ってきた。

「ほら食え、お前の大好きなフライドチキンだ」矢島がチキンを食べているのを恵は背中から抱きしめながら囁く。

「コラ、私の安定剤。お前が落ちたら私には死が待っているのみだ。油まみれのチキンを食べていようがお前が元気なのが1番なんだ····インストラクターがキツイなら辞めて私の配偶者になれよ」

「嫌だよ····好きな時にプール行けなくなるじゃん」

「何も考えず、好きな事を続ければ良いだろ」 「お前の配偶者にならないし、インストラクターも辞めない。生徒達は俺の夢なんだ、辞めても、自力で戻った来ればまた指導できるよ」 矢島は恵を正面に向き直しキスをしようとするが 「やめろ、油とチキンの臭いで迫るな」 俺の事は好きだけどやっぱり嫌いなもの(フライドチキン)は嫌いなんだ〜恵は恵だね(笑)


自分の概念を曲げないそんな恵が大好きだ〜俺は安定剤で良いよ、と言うよりお前が俺の安定剤だよ。

矢島は思いながらキスは迫らないが恵を抱きしめた。

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