第15話河童の願いと妙薬

「チマキ、貴方河童魔貴族でしたの? 知りませんでしたわ」


 シャルロットがチマキに問いかけた。

 友達のシャルロットも知らなかったみたいだ。


「そういやあシャルにも話してなかったっけな。最近例のワイバーンに先代がやられてな。おいらが後を継いだのさ」

「でも貴方、先代の息子ってわけじゃなかったはずですわよね?」

「河童魔貴族は鬼魔貴族と違って世襲制じゃねえんだよ。河童族の中でも河伯かはくの力を持つ者から選ばれるんだ」


 河伯? 何それ? 河童とは違うの?


「河伯とは河童の始祖とされる種族だ。河伯は大天狗や人魚と同じ、今は絶滅した古代魔族とされている。河童族は突然変異的に始祖である河伯の力を持って生まれることがある。そういった者が主となり率いるのが河童族の伝統なのだ」


 話についていけない私に、ブールドネージュ様が説明してくれた。


「なるほど……。要するに凄い河童ってことですね」

「まあ大体あってるからそれでいいよ」


 私の感想にチマキは不承不承といった感じで納得した。


「紹介も済んだところで本題に入ろう。河童魔貴族チマキよ、イバラキの沢に危険な魔物が現れたとのことだが?」

「ああ、そうなんだ鬼魔貴族様。ここ最近イバラキの沢に凶悪な毒を吐くワイバーンが出没するようになってな、魔族だろうが魔物だろうが、奴らは見境なく襲いだしたのさ。川も汚染されて、それに怒った沢の主と戦いになったんだが、主もやられちまった。今じゃあイバラキの沢は奴らの天下になっちまってるんだ。このままじゃあ河童の里も危ない。いずれは他の魔族領も……」

「何! 沢の主がやられたのか! しかし、毒を吐くワイバーンか……」


 ブールドネージュ様はチマキの話を聞くと、顎に手を当てしばし考え込む。

 博識なブールドネージュ様なら何か知っているかもしれない。心当たりがあるのかな?

 しかし、沢の主って水竜だよね? ワイバーンは竜の下位種族のはずなのに、あの魔獣王と同格とされる沢の主を倒すほど危険なのか……。


「ワイバーンはイバラキの沢の上流にある河童族の遺跡をアジトにしている。その遺跡にある浄化装置を作動させれば川の毒を消せる。川が浄化されれば聖属性に弱い毒属性の魔物を弱体化することができるはずだ。鬼魔貴族様、どうかおいらたち河童を助けてくれねえか? もちろんただとは言わねえ。お礼には河童族に伝わる妙薬を約束する」

「河童の妙薬!?」

「ちょっとスフレ。大事な話の最中ですのよ。はしたないマネはお止めなさい」


 河童の妙薬と聞いてテンションが上がってしまいシャルロットに怒られた。う~、ごめんなさい。

 でも、河童の妙薬だよ! その噂は遠い王国にまでお伽噺として伝わっている。


 王国のお伽噺によると、河童の秘術で作られた妙薬は切断された部位であろうが、妙薬を塗ってくっつければ、たちまちに治ってしまうとされる異常な回復力を持った薬だ。

 まさに、薬師垂涎の一品である。

 私も一人の薬師としてテンションが上がってしまうのは許してほしい。


「案ずるなチマキよ。その願い、この鬼魔貴族ブールドネージュが確かに聞き入れた。イバラキの沢からワイバーンを一掃しよう」

「ありがとうございます鬼魔貴族様! もちろんおいらも手伝うぜ!」

「ああ、河童魔貴族に選ばれた河伯の力、期待している」


 ブールドネージュ様はチマキの願いを快く快諾した。

 チマキも戦うって言ってくれたけど、さっきワイバーンに追っかけられてたのに大丈夫かな?


「おいおい聖女さん。そんな不安そうな顔すんなよ。確かに河童族は鬼族戦闘力はおとる。さっきは多勢に無勢で逃げ回ってたが、河伯の力は役に立つんだぜ」


 チマキは訝しむ私に薄い胸を張って宣言した。

 本当かなぁ。この子、結構調子いいこと言うからなぁ。

 ともかく、上手くいったらちょっとでいいから河童の妙薬を分けてもらえないかな。伝説級の薬を研究してみたいよ。


 話し合いが終わると、チマキを助けたお礼の宴が開かれた。

 ちなみに宴会料理は野菜と川魚が中心の豪華なもので大変美味しかった。特に緑色で細長い野菜がさっぱりした味で私好みだったな。

 ちなみに串焼きやステーキなんかも出たんだけど、あのワイバーンの肉を使ったらしい。毒を吐く魔物の肉なんか出すなよ! って思ったんだけど美味しかった。ちゃんと薬草で毒抜きしてるし、魔族は毒に強い。そして私は聖女だから毒なんか効かない。あれ? 問題ないじゃないか。


 こうして宴会を楽しんだ私たちはチマキの願いを受け、翌日イバラキの沢に現れたワイバーンを退治することになったのだ。

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