第14話河童魔貴族
イバラキの沢で河童のチマキ・イグサを助けた私たちは、お礼にと河童の里に招待されることになった。チマキの案内でイバラキの沢の上流へと進んで行くと、崖の上や断崖に作られた建物が見えてきた。
「ついたぜ。ここが我らが河童の里だ」
チマキが振り返り、薄い胸を張って宣言した。
どの建築物も趣向を凝らした意匠が施されており、河童たちの技術力の高さが窺える。
さすがは王国で伝説上の生き物とされる河童の里、すっごい独特だわ……。あんな崖に家なんか建てて事故が起きたりしないのかな?
「崖に建物があるのが不思議って顔だな聖女さん。安心しな、おいらたち河童の技術でしっかり補強してあるから安全は保障するぜ。ま、河童は頑丈だから、例え崩落したとしても平気だがな。シャルも竜魔貴族の旦那もそうだろ」
「そうですわね」
「俺らは大丈夫だが、聖女さんは……」
「私も死にはしませんが……」
うげぇ、きっと死なないけど死ぬほど痛い。
「大丈夫だって聖女さん。安全性はおいらが保証するぜ。案内するからついてきてくれ」
私が嫌そうな顔をしているのに気付いたのか、チマキが安全の保障をしてくれた。ここに住んでる本人が言うのだから、そうだと信じよう。
チマキについて歩く私たちは、里で一番大きな屋敷へと案内された。
私たちに気づいた門番の河童が駆け寄ってきた。
「ちょっとチマキさんどこに行ってたんですか!? お客人がお待ちですよ!」
「すまねえ。ちょっと沢の様子を見に行ってたんだが、そこで例のワイバーンに襲われてな、危ない所をこの人らに助けてもらってたんだ。丁重にもてなしてくれ」
「この人らって……鬼魔貴族の妹様に竜魔貴族様じゃないですか! 皆さんチマキさんを救ってくれてありがとうございます。こりゃあ大変だ! もてなしの準備は私らに任せて、お客人を待たせてるんだから、チマキさんは急いで向かってくださいよ!」
門番の河童はそう言うと、急いで屋敷の奥に走って行った。
チマキはこの屋敷の子なのかと思ったけど、門番とのやり取りを見た感じ、同僚とか先輩みたいな間柄なのかな?
「すまねえ、どうやらお客人がお待ちのようだ。ついてきてくれ」
お客様がきてるのに私たちがお邪魔しても良いのかな?
そう思いながらチマキに応接室まで案内してもらうと、そこで待っていたのは、
「えっ、ブールドネージュ様!」
「む、スフレ。シャルロットにジェットも一緒か。確か今日はイバラキの沢へ行くと聞いていたが、河童の里で会うとは思わなかったぞ」
応接室で待っていた客人とはブールドネージュ様のことだった。
「私たちはイバラキの沢で魔物に襲われていた河童の少年を助けて、お礼がしたいとのことで里にきたのです。ブールドネージュ様こそどうしてここに?」
「私は河童族からイバラキの沢に危険な魔物が現れるようになったと相談を受けて話を聞きにきたのだが、河童族の主が留守で待っているところなのだ」
河童の主が留守?
さっき門番さんはお客人を待たせてるから急いで向かえって言ってたよね。
ってことは、まさか河童の主って……。
「待たせてすまねえ鬼魔貴族様。今日はお越しいただきありがとうございます。おいらが河童族の主、河童魔貴族をやらせてもらってるチマキ・イグサと申します」
チマキは一歩前に歩み出ると、堂々と名乗りを上げた。
なんと、私たちがイバラキの沢で出会った河童の少年チマキは河童族の主であり、河童魔貴族だったのだ。
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