第16話キューカンバ―と河伯の力
宴の翌日、私とブールドネージュ様、シャルロット、オランジェット様、チマキの五人はワイバーンを一掃するため、奴らが住処にしているイバラキの沢の上流へ向かうことになった。
上流への道は断崖の細く狭い道になっており、敵が現れた際の逃げ場がない険しい道のりである。
「イバラキの沢には危険な魔物がいるという話でしたが静かですね」
「ああ、おそらくワイバーンにやられたか、沢の主がやられたことでイバラキの沢から逃げたのだろう」
道中では川の魔物は現れず静かなものだった。
たまに襲ってくるワイバーンもブールドネージュ様とオランジェット様の魔貴族コンビが蹴散らし、順調に進んで行けた。
「チマキ、道はこちらでよろしいのですか?」
「ああ、このまま真っすぐ進むと、今は使われてない古代河童族の遺跡があるんだ。奴らはそこを根城にしている。あの遺跡は河童族の聖地だ。頼む、奴らを追い払っておくれよ」
チマキはブールドネージュ様たちが倒した魔物を甲羅から取り出した袋に詰め込みつつお願いした。
銭ゲバ河童は嬉しそうに袋詰めしている。
「気になってたんだけど、その袋見た目以上に物が入るわね」
「おっ、気になるかい聖女さん。こいつは河童族が作り出した魔道具、マジックバックさ。中に空間魔法を付与してあるから見た目より物がいっぱい入るんだぜ」
「へー、便利な道具を持っているのね。それがあれば薬草採取が捗りそうだわ」
「はっはっはっ、だろっ! 聖女さんわかってるね! そんな見る目のある聖女さんにはこいつをプレゼントだ」
チマキはマジックバックを褒めると、薄い胸を張って嬉しそう笑い出し、マジックバックから緑色の細長い野菜を渡してきた。
「あっ、その野菜昨日の宴会でも出された物ね。凄く美味しかったわ」
「こいつは河童の里名物キューカンバーだ。聖女さんが気に入ってくれて嬉しいぜ」
「あら、キューカンバーじゃないですか、生産量が少なくて魔族領まであまり出回ってこない希少な野菜ですわ」
へー、希少な野菜なんだ。どおりで王国でも魔族領でも見たことがないわけだ。
「シャルの分もあるから心配いらねえぜ。魔貴族様たちもどうぞ」
「なっ! ちょっと、私そんなに食い意地は張っていませんわよ!」
「まあそんなに怒らないでシャルロットも貰っておきなさいよ。美味しいわよこれ」
ボリボリとキューカンバーを頬張る私をシャルロットはジト目で見つめてくる。
「貴方、元は王国の貴族の出身じゃなかったかしら? 物を食べながら話さないでくださる?」
これは失礼しました。まさかお転婆お嬢様のシャルロットに指摘されるとは思わなかったよ。
こんなに美味しいんだから大量生産できれば一儲けできそうだけど、銭ゲバ河童のチマキがやってないんだから難しいんだろうな。
「ありがとう河童の主よ。ではここで少し休憩にしよう」
リラックスする私たちを見てブールドネージュ様は休憩を提案したのだろう。その好意をありがたく受け、小休憩を取ることにした。
輪になってキューカンバ―パーティーを楽しむ私たちをよそに、ブールドネージュ様とオランジェット様は今後について相談しているようだ。
私たちばっかり休憩して申し訳ないな。
「何かくるぞ! 気をつけろ!」
そんなことを考えていたその時、ブールドネージュ様が叫んだ。
その少し後、ゴゴゴゴゴッと、細い道を爆音を鳴らしながら大岩が転がってきた。
「おっと、でけえ岩が転がってきやがったな」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないですよオランジェット様!」
余裕ある感じ見せてるけど、この細い道じゃ逃げ場がないんだよ!
「ここはおいらに任せてくれ! ちっとは役にたつところも見せねえとな!」
そう宣言したチマキは一人前へ出ると大岩に立ちはだかる。
片足を後ろへ引き前傾姿勢になり、迫りくる大岩を体で受け止めた。
「うううおおぉぉおおりゃああぁぁああっ! 河童の力を舐めるなよ!」
「……ぇぇええ、噓でしょ………」
チマキはその小さな身体からは想像できない怪力を発揮して大岩を受け止めると、さらに持ち上げ崖下に放り投げた。
「へへっ、これが河伯の力を受け継いだおいらが、スモウで鍛えた剛力だぜ!」
す……凄い力……。でもスモウって何?
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