第9話シャルロットの試練(シャルロットside)

「やっと強そうな魔物が出てきましたわ。貴方の魔石はお兄様たちの手に入れた物より大きいのかしら?」


 強敵を求めて森の奥にやってきた私の前に、見るからに強そうな四足の獣型の魔物が現れた。

 大きい……私の三倍はありますわね。普通の魔物ではなさそう……長い時を生きた魔獣ってところかしら。


「何用でこの地にやってきた。引き返せ」

「へー、喋る魔物なんていますのね。初めて出会いましたわ。私、シャルロット・ザッハトルテと申します。ここには成人の儀式で大きな魔石を求めてまいりましたの。貴方の魔石を私にくださらないかしら?」

「はっはっはっ! 我に死ねと言うか。……舐めるなよ小娘。やれるものならやって見せよ!」


 優雅にカーテシーで挨拶をすると、私の言葉を聞いた魔獣は激高し、しなやかに力強く地を蹴り上げ襲いかかってきた。

 まったく、礼儀正しく挨拶したというのに、畜生は短気で困りますわね。

 私は飛びかかってきた魔獣の下をスライディングで潜り抜けながら双剣で腹を斬りつける。

 ダメね。毛皮が硬くて斬れないわ。でしたらこれはどうですかっ!

 スライディングから素早く立ち上がった私は、魔獣の首に回転の遠心力を加えて刺突を叩き込んだ。

 ちっ! これでも少ししか刃が入りませんわ。


「舐めるな小娘!」


 突き刺さった刃を押し込もうと力を込めた隙に魔獣の爪撃が私のお腹を引き裂いた。

 くっ、やられた……。やるわねこの魔獣。傷は深い、まずいわね。

 でも、この成人の儀式は私の実力を周りに認めさせる絶好の機会、ここで負ける訳にはいかないのよ!

 何か策は……そうですわ! ポーションを持っていました!


 お腹の傷を手でおさえながら思い出した。

 私のお兄様と親しくしているあの泥棒猫の作った物と思うと気分が悪いけど、物に罪はないか。

 背に腹は代えられない。使わせてもらいますわ。


 私は素早くバックステップで魔獣と距離を取りながらポーションを半分飲み、残りを傷に振りかけると一瞬で傷がふさがっていく。


「なんだその異常な回復力のポーションは? 我のつけた傷が一瞬でふさがっただと!?」


 魔獣が驚くのも無理はない。普通のポーションの比じゃない回復力ですわ! 気に食わない女ですけど、薬師としては一流なのね。ですが、これでまだ戦える。癪に障りますが、心の中でありがとうとお礼を言っておきますわ。

 そこからの私と魔獣との戦いは一進一退の攻防が続いた。

 基本的には魔獣に押されていた私だが、あの女から複数個のポーションをもらっていたので傷を負いながらも回復して戦いを続けることができる。

 戦いは長期戦になったが、やがて魔獣は力尽き地面に倒れ伏した。


「我を倒すとは見事だ……。小娘と侮ったことを謝罪する……。我の魔石は自由に持っていけ」

「貴方も強かったですわ。私一人の力では勝てなかったことでしょう」


 この魔獣は本当に強かった。私は好敵手にせめてもの礼として速やかに止めをさし、魔石を回収した。

 大きい……この魔石ならお兄様やジェットにも負けていないわ。あの魔獣が噂に聞く魔獣王だったのでしょう。


 魔石を回収し一息つこうとした時、全身の細胞が警笛を鳴らす。すぐさまその場を飛びのき、私の身体が危険を知らせた相手を見る。そこには先ほどの魔獣よりも二回りは大きい、巨大な魔獣が私を見据えていた。

 その魔物はただこちらを見ているだけ、それなのに私は冷や汗を流し身体が震え、恐怖で動くことができない。

 対峙しただけで彼我の戦力差を自覚してしまったのだ。

 わかった……わからされてしまった。先ほどの魔獣は魔獣王などではない。目の前の魔獣こそが、本物の魔獣王なのだと……。

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