第8話遠見の魔法

 シャルロットを見送った私たちは応接室に集まりガレットさんの淹れたお茶を飲んでいた。

 ガレットさんの淹れてくれたお茶は美味しいなぁ。しかしシャルロット、あの子一人で魔物退治なんて大丈夫なのかな?


「シャルロットが心配かスフレ? あの子は幼く見えるがもう五百歳になる。実力は私も認めるほどに強い」

「シャルロットが五百歳!! 私よりも年下だと思っていました……。やはり人間の常識で考えてはいけませんね」


 あのシャルロットが五百歳か、てっきり十五歳くらいかと思ってたよ。これからはシャルロットおばあちゃんって呼ぼうかな。

 でもシャルロットが五百歳なら、その兄のブールドネージュ様はいったい何歳なんだろ?千歳とか超えてたりして……。


「そろそろシャルロットは森に入った頃か。スフレ、そんなにシャルロットが心配なら様子を見てみるか?」

「そんなことができるのですか? ぜひともお願いします」


 離れた場所を見る魔法なんて王国にはなかったわ。さすが魔族領ってことかしら。

 とにかくシャルロットの様子が見れるならお願いしたい。


「おっ、あれをやる気だなネージュ。俺もシャルちゃんがどこまで強くなったか気になる。頼むぜ」

「ああ、任せろ」


 ブールドネージュ様がオランジェット様の催促に頷き目の前に手を翳すと、空中に大きな鏡が現れた。

 鏡は点滅を繰り返すとシャルロットの姿を映し出した。


「ちょうど森で戦闘中のようだな」

「おお、強い強い。以前俺が教えてた頃より強くなってるぜ」

「これがあのシャルロット……。こんなに強かったのですね」


 鏡に映るシャルロットは縦横無尽に森を駆け、両手に持つ双剣で魔物を斬り捨てていた。

 私には反抗的だけど可愛い妹みたいに思ってたシャルロットがこんなに強いなんて知らなかったわ。


『この程度の魔獣ではたいした魔石は持っておりませんね。もっと奥へ入りますか』


 シャルロットは倒した魔物から魔石を回収すると大きさを確認し、納得いかない様子で魔石を袋に入れて森の奥へと進んで行った。

 この鏡声まで聞こえるなんて凄いな。


「おいネージュ、シャルちゃんの奴マジで俺らより大物の魔石を狙ってるみたいだぜ。森の奥に入っちまった」

「まずいな、この先は魔獣王の縄張りだ。魔獣王は最奥から出てこないとは思うが、ここから先は魔物がより強くなる」

「それってシャルロットが危ないってことですか? 大丈夫なのでしょうか?」


 シャルロットが心配になり問いかけると、ブールドネージュ様は眉間に深い皴を寄せて考えてから口を開く。


「スフレも見ただろう? シャルロットは強い。これはあの子の成人の儀式だ。とりあえず様子を見よう」

「そうですね……シャルロットを信じます」


 ブールドネージュ様の言う通りこれはシャルロットの成人の儀式なんだ。外野の私がとやかく言うのは筋違いか。

 それにシャルロットは私の想像よりもずっと強い。鏡の中では次々に魔物を屠って森を進んでいる。


「もしかするとなんだが、シャルちゃんが大物の魔石を求めているのは俺たちのせいかもな」

「ああ、そうかもしれん」

「えっ、それってどういうことですか?」


 オランジェット様が深刻な表情で話し始め、ブールドネージュ様もそれに同意する。


「自分で言うのもあれなんだが、俺たちは魔族の英雄と言われるほど優秀でな、シャルちゃんはそんな俺たちと比べられることも多かったんだ」

「シャルロットはそれを気にしていたようだ。それに、シャルロットは私の実の妹ではない。血縁はないのだ。それもありあの子は成人の儀式で実力を示し、皆を見返す必要があると感じているのかもしれん」

「なるほど、そういう事情があったのですね……」


 シャルロットはブールドネージュ様の義妹だったのか、うちの義妹とは大違いだ。私もシャルロットみたいな子が義妹だったら仲良くやれてたんだけどな。

 でもシャルロットの気持ちもわかる。私も歴代聖女に負けじと今まで頑張ってきたのだから。


「だがネージュ、ちょっとやばそうな相手が出てきたみたいだぜ。あいつはシャルちゃんには厳しいかもな」

「むっ、あれはまさか……だが、サイズが小さい……か?」


 オランジェット様に促されて鏡に目を向けると、シャルロットは見るからに強そうな魔物と対峙していた。

 ブールドネージュ様も難しい顔してるし、あの魔物ってもしかしてやばい奴なの?

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