第7話成人の儀式
「あった! これが虹色茸……図鑑でしか見たことなかったわ」
魔族領で薬屋を始めて一月がたった。
薬師の朝は早い、私は今魔族領に広がる森にきている。ポーション作りに使う薬草やキノコを採取にきているのだ。
魔族領で取れる薬草は種類が豊富で王国では珍しい物や見たことのない物まであり、私も薬師として非常に研究のしがいがある。
しかし、こうして早朝から頑張って活動しているが、店の売り上げは芳しくない。
魔族領で使われているポーションは王国で使用されている物と大差ない性能だから、私の作ったポーションの方が絶対効果は高いんだけどなあ。
ブールドネージュ様の紹介とはいえ、人間の私が作ったポーションを信用できないのもわかる。
これは地道に誠実にやっていって、信用を勝ち取るしかないだろうな。
「ようしっ! 次は工房に戻って調合を試してみよう」
私は工房に戻り採取した薬草や茸を使い調合をしながら考える。
魔族領にきて結構立つが今だにわからないことがある。私は癒しの聖女として薬師の勉強をしてきたけど、ショコラが薬師の勉強をしているところなんて見たことがない。あの子はちゃんとやれているのかな?
私がいなくなった後の王国のことを考えていると入口の呼び鈴がなった。
朝早くから誰だろうと思い店に顔を出すとブールドネージュ様がきていた。
「早朝からすまないスフレ。今日は魔貴族にとって大事な儀式がおこなわれる。めったに見れるものではないし、良ければ見にこないか?」
「私もご一緒させていただいてよろしいのですか? ぜひともお願いします」
えっ!? 何それ面白そう! ぜひ見たい!
魔族領の珍しい儀式なんてめちゃくちゃ興味があるわ。
こうして私は魔貴族の儀式を見るために、ブールドネージュのお屋敷に向かった。
お屋敷に到着するとオランジェット様にガレットさん、それにブールドネージュ様の妹であるシャルロットが戦闘準備を整えて待っていた。
儀式なのに戦闘準備? 儀式で戦闘するにしては祭事用の装備じゃなく、戦争にでも行くみたいな本気の装備に見えるんだけど。
「お兄様どちらに行かれていましたの! ……あ~ら、スフレさんじゃありませんの? 何しにいらしたのかしらぁ?」
私たちが部屋に入るとブールドネージュ様に気づいたシャルロットが満面の笑みを向けてくるが、私に気づいた途端に嫌そうな顔に早変わりした。
う~ん、出会った時と変わらず嫌われている。
私はシャルロットのこと嫌いじゃないんだけどなあ。だって大好きなお兄様と親しくしている私に嫉妬してるだけでしょ? ショコラと比べたら可愛いものだわ。
「ちょっと、何気持ち悪い笑顔になっていますの? 引きますわぁ……」
「おっと、失礼しました」
おっといけない。ショコラと比べてシャルロットがあまりに可愛いから顔が緩んじゃったわ。
「でもシャルロット、何でそんなに本気の装備をしているの? 今日は儀式よね? まるで戦争にでも行くみたいな恰好じゃない」
「それについては私が説明しよう。今日おこなう儀式は魔族領の周りに広がる森に生息する魔物を倒し、一定以上の魔物の核である魔石を手に入れること。それで実力を示し、一人前の魔貴族であると認められるというものだ。魔貴族にとっては成人の儀式みたいなものだな」
「なるほど、それで戦闘準備を整えていたのですね」
さすがは戦闘が好きな魔族の貴族だ。面白い成人の儀式を考えるな。
「そして歴代最大サイズの魔石を持って帰ってきたのがお前なんだよなネージュ。噂は竜族まで轟いているぜ」
「昔の話だ。それにジェットの取ってきた魔石もかなりのサイズだったのだろう?」
ブールドネージュ様とオランジェット様は昔話に花を咲かせだした。
へー、二人も昔この成人の儀式をやったんだ。二人とも魔貴族だもんね。
「皆様、時間になりましたので成人の儀式を始めさせていただきます」
私たちが談笑していると、ガレットさんが成人の儀式の開始時間を告げてきた。
「森には強い魔物も生息している。気をつけるのだぞ」
「わかっております。お兄様やジェットよりも大きな魔石を手に入れてみせますわ」
えっ、シャルロットの奴あんなこと言ってるし、無理する気満々じゃない。
だったら――、
「待ってシャルロット、これを持って行って」
「これはポーション? それも貴方の作った物じゃない。まあ、物に罪はないですし、もらっておきましょう。それでは皆様、行ってまいります」
私の渡したポーションを受け取ると、シャルロットは意気揚々と成人の儀式に出かけて行った。
あの様子じゃ絶対無理して強い魔物と戦いそうだけど大丈夫かなぁ。まあ、私の作ったポーションも渡したし、後は無事に帰ってくるのを祈るとしますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます