第6話ショコラside①
私ショコラ・ハーベストは母が公爵家の後妻となったためハーベスト公爵令嬢になったのですが、どうしても許せないことがあった。それは元々のハーベスト公爵令嬢である義姉スフレ・ハーベストの存在である。
別にスフレに何かされたわけではないが、所謂生理的に受け付けないといったものだろう。
生みの親である後妻の母はもちろん、義理の父であるハーベスト公爵もスフレのことを嫌っているのだが、その影響を受けたわけではない。
仮にも姉に当たる存在で、王国にとって重要な聖女であるあの女は、私の将来のためにも消しておきたい。
そう思っていたある日、素敵な出会いがあった。
スフレを消すための力を求めた私は、王城で禁忌とされる立ち入り禁止の一室に忍び込んだ。その部屋には何枚ものお札が貼られた仰々しく飾り付けられた箱があった。
いかにもなお宝の予感に胸を弾ませた私がお札を剥がすと、神の使いヨルと名乗る神々しい小さな竜が現れたのだ。
いくら神々しいオーラを放っていようと、自らを神の使いなどと名乗る輩だ。初めは信用ならない怪しい妖の類だと思った。
だが、そのヨルと名乗る小さな竜は私が幸せになるにはスフレを消すしかない。自分にはその手助けができると言う。
あの忌々しいスフレを消せるのであれば、多少のリスクは負うべきと判断した私はヨルと協力することにしたのだ。
ヨルと組んでから計画は順調に進んだ。
本当は殺したかったが、ヨル曰く歴代聖女の中でも特別な力を持つスフレは殆ど不死身の化け物なんだとか。あの女、本当に人間なのか?
殺せないのであれば追い出すしかない。聖女スフレ王国追放計画だ。
ヨルのアドバイスを受け、周りへの根回しを進めて行った。
スフレの生みの親である先代聖女とは愛のない夫婦であったハーベスト公爵と母はもちろん、周辺貴族も味方に引き込んだ。
一番の難題だった王族も、スフレの婚約者であるアルス殿下を誑し込み味方につけたことでどうにかなりそうだ。
スフレの奴、ハーベスト公爵だけじゃなく婚約者にも愛されていないなんて可哀想な子……フフフッ、実に愉快で笑いが止まらないわ。
「ご機嫌だなショコラよ。計画が順調に進んで嬉しいのか?」
惨めなスフレが楽しくて自室で笑っている私に声がかけられる。
振り向くと、そこには一匹の小さな竜の姿があった。
「あら、ごきげんようヨル。いえ、スフレが余りにも不憫で嬉しくなってしまっただけですの」
「はっはっはっ、さすが我の見込んだ女よ。性格が捻じ曲がっておるわ」
「フフフッ、貴方もね。ヨルと協力する道を選んだ私の判断は正しかったわ」
私とヨルは喜びを分かち合い共に笑う。私たちは利害が一致しているのだ。
そうでなければこんな怪しげな竜の口車に私が乗るわけがない。無事スフレを追放したらこいつも切り捨ててやろう。
こうして私たちは努力の末、遂に聖女スフレを王国から追放することに成功したのだ。
まさか私が偽聖女になってスフレを要らないものにするなんてね。一人じゃ思いつきもしない策だったわ。
でも、治療の力の発動にヨルの協力が必要不可欠になってしまった。これじゃあ切り捨てようにも切れないじゃない。もう少し一緒に行動する必要があるようね。フフフッ、いつか機を見て処分してしまいましょう。
後はアルス殿下と婚姻を結べば、私の王国での地位は確固たるものになるわ。
あの御しやすそうなバカ王子を傀儡の王に据えれば実質王国は私の物。幸せな明るい未来が待っている……んだけど、なぜか最近王国内ではやり病が蔓延し治療依頼が絶えない。
そして、なぜかヨルの力を借りて癒しの力を行使すると私の体調まで悪くなってしまう。
ヨルの話では「癒しの力に身体が慣れていないからだろう」とのことだ。少し休めば治るらしい。
でも、せっかくスフレを追い出したのだから、今は休んでなんかいられない。王国の民衆に、ショコラ・ハーベストこそが新しい聖女だと知らしめなければならないのだから。
「でも……何でこんなに身体が重いのかしら……?」
気怠い身体に鞭を打ち、今日も私の癒しを待つ民衆のもとに向かう。
別に無力な民草がどうなろうがどうでもいいけど、これも私の人気を上げるデモンストレーションだ。休むわけにはいかない。
「私自身も癒せたらいいのに。スフレは化け物みたいな頑丈さだったわよ。まったく……ヨルの奴も使えないわね」
愚痴をこぼしつつも今日の仕事に向かう。
全ては王国を私の物にする野望のために。
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