第5話住居兼工房

 ブールドネージュ様の妹に握手しようと差し出した手を叩き落された。

 うう……叩かれた手が痛い……。この子、見かけによらず凄い力だ。ブールドネージュ様の妹だけに高位魔族なんだろうな。いくら勝手に傷が治る聖女とはいえ、痛みは感じるのよ。


「何をしているシャルロット! スフレは我がザッハトルテ家が客人として魔族領に迎え入れたのだぞ! さあ、スフレに謝りなさい」

「――そ、そんなっ……!? 兄様は私よりもこの女の肩を持つのですか! に……兄様のバカーー!!」


 シャルロット様は悪態を吐いて応接室から走り去って行った。

 大好きな兄様を横取りされると思ったのかな? 兄様大好き妹とか、うちのバカ義妹とは比べ物にならないほど可愛いじゃないか。


「すまないスフレ。私が甘やかして育ててしまったせいだ。シャルロットに代わって謝罪する」

「頭をお上げくださいブールドネージュ様。うちの義妹と比べれば可愛いものです。私は大丈夫ですのでお気になさらず」


 ブールドネージュ様は私に謝罪の言葉を述べると頭を下げた。

 魔貴族が部外者の私に頭を下げるなんて、ブールドネージュ様は本当に誠実な人だな。でも、


「シャルロット様を追いかけた方が良いのではないでしょうか? 出て行く時泣いていましたし……」

「うむ……だが君を残して行くわけにも」

「ネージュはスフレちゃんと話があるんだろう? だったら俺がシャルちゃんを慰めてくるぜ。任せとけって」


 オランジェット様がシャルロット様の所に行くと名乗り出た。


「すまないジェット、シャルロットを頼む。ではスフレ、さっき話した君に貸し出す工房に案内しよう」

「はい。よろしくお願いします」


 こうして私たちはシャルロット様をオランジェット様に任せ、工房の内見に向かった。




 案内された工房はブールドネージュ様の屋敷からほど近い場所にある一軒家だった。

 正面は店の入り口になっており、カウンターの奥が工房につながっている。一階が店舗兼工房、二階が住居になっていた。

 魔族領で見た他の建物と同じ木造建築で、家具や調度品も落ち着いた雰囲気の物が使われていて私の趣味にも合うし、良い物件だな。


「ここが貸し出そうと思っている工房だ。一軒家を改造した工房で生活もできる。家具もそのまま使ってもらってかまわない。ここを君の住居兼工房にしてもらいたいのだがどうだろうか?」

「はい。広さも設備も申し分ないし、とても素敵な物件です。ですが、私は着の身着のまま王国を追放された身……金銭の持ち合わせがないのです」


 せっかく紹介してもらった素敵な物件だけど、あいにくと今の私にはお金がない。

 情けない話だが、こんな立派な物件を借りても家賃を払えないのだ。


「それについては心配するな。スフレは私が連れてきた客人だ。初めの一ヵ月は無償で貸し出そう。魔族は狩や戦闘で怪我をする者も多い、ポーションの売り上げも見込めるだろう。物価は王国とさほど変わらないはずだ。家賃は二ヵ月目から月に金貨一枚でどうだろうか?」

「よろしいのですか!? ぜひ、ぜひともお願いいたします!」


 表情が浮かない私の様子を見たブールドネージュ様が一ヵ月無償で貸し出してくれると提案してくれた。

 着の身着のまま王国を追放されてお金のない私には本当にありがたい。でも……、


「ブールドネージュ様、なぜここまで良くしてくれるのでしょうか。私が王国の重要人物である聖女だからですか? それならば私は王国を追放された身、王国にとっては価値のない存在ですよ」

「理由か……では、少し昔話をしよう。私は過去の聖女と知り合いでな。昔随分と世話になったのだ。言わばその恩返しといったところだな」

「なるほど、過去の聖女様とお知り合いでしたか。それでは、次は私がブールドネージュ様に恩返しさせていただきます。こうして恩返しが回ることで、幸せの循環ができそうですね」


 私の言葉にブールドネージュ様は微笑みで答えてくれた。その優しい笑顔に少しドキッとしてしまった。も~、その表情は反則だよ……。

 王国を追放されてからブールドネージュ様には本当にお世話になりっぱなしだ。今後私が作るポーションを魔族領で販売することで、少しでも恩返しができると良いな。

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