第4話友人と妹

「今後についてなんだが、この魔族領で仕事をしてもらいたい。できるだけ君の意向に沿うようにしたいのだが、何かやりたいことはあるか? 特に希望がなければこちらで仕事を紹介するが」

「仕事ですか……それでしたら私の持つ聖女の力を使い薬屋をやりたいです。王国でも私の作る聖女印のポーションは市販の物より効果が高いと人気がありました」


 やりたいことを聞かれ、少し考えてから答えた。

 ポーション作成は私の聖女の力を活かせる仕事だ。

 王国にいた頃にも私の作るポーションは人気があったし、魔族領でも需要があると思うんだ。


「魔族領で聖女のポーションを作ってくれるのはありがたい。では場所はこちらで用意しよう。私の持ち物件に丁度良い物がある。そこを君の工房として貸し出そう」


 私の話しを聞いたブールドネージュ様は嬉しそうに顔をほころばせた。

 ポーション作成は聖女の秘密に関わるから、工房を貸してくれるのはありがたい。


 私の仕事が決まったその時、応接室の扉が勢い良く開かれた。


「お戻りになりましたのねネージュ兄様!! ん? 人間の女? ……誰ですかこの女は? まさか……私に黙って人間の女を家に連れ込みましたの!?」


 応接室に入ってきたのは頭にブールドネージュ様と同じような二本の角を生やした少女と、尻尾と翼が生えた青年だった。

 少女の方がブールドネージュ様に抱きつき、私を見て怒りだした。

 何で私が怒られてるのかわからないけど、ブールドネージュ様を兄様と呼ぶってことは妹さんなのかな?


「兄様ったら私というものがありながら他の女を家に連れ込むだなんて酷いですわ! しかも人間の女をだなんて……!? 人間と関りを持ってはならない。それが魔族領で定められたルールではないですか! それを魔貴族である兄様が破ったら示しがつきません!」

「それは違うぞシャルロット、私は無理やりスフレを連れてきたわけではない」

「兄様から言い訳なんて聞きたくありませんわ!」


 言い聞かせようとするブールドネージュ様だが、少女は聞く耳を持たない様子だ。

 ブールドネージュ様は困ったようにもう一人に視線を向けると、青年はこちらにやってきて話し始めた。


「それは少し違うぜシャルちゃん。魔族法では魔族領に迷い込んだ人間は保護することになっている。つまりこの子は魔族領に迷い込んだ。そういうことだろネージュ? それとも君の好きなネージュ兄様は嘘を吐くような男だったか?」

「そんなことありませんわ! 兄様は清廉潔白なお方です。私に嘘を吐くなどありえません!」


 青年の話を聞いた少女は納得したのか大人しくなった。


「すまないジェット、助かった」

「気にするな。で、この子は誰なんだ? 見たところ王国のお嬢様みたいだが」

「ああ、この子はスフレ。王国の聖女だ。魔族領の結界を抜けて迷い込んでいたところを私がここまで保護してきたのだ」


 ブールドネージュ様が私を連れてきた経緯を二人に説明する。

 魔族領の結界というのは外部から魔族領に入ってこれないようにする大きな結界らしい。

 あの森に入った時の濃い霧が結界だったみたい。その結界があったから王国には魔族の情報がほとんどなかったのね。

 あの森に入った時の濃い霧が結界で、普通の人間は魔族領に入ってこれないとのことだ。

 ブールドネージュ様曰く「結界は魔族に対して敵意ある者の侵入を防ぐ物だ。それでも普通は抜けられないのだが、恐らく聖女の魔力が結界を越えさせたのだろう」とのことだ。


「へー、あの結界を抜けるなんて、見た目も可愛いし、王国の聖女ってのはすげーんだな。俺はオランジェット・クラフティ。ネージュの友達だ。よろしくな聖女さん」


 手を差し出してきたブールドネージュ様の友達と名乗るオランジェット様と握手を交わす。

 魔族領には四つの領地があり、オランジェット様はブールドネージュ様の昔からの友人で、鬼族とは別の領地である竜族の魔貴族とのことだ。

 ちょっと軽そうだけど、ブールドネージュ様に負けないほどに整った顔立ちをした人当たりの良い人だな。


「しかし王国の聖女か、それってネージュ、お前が話してたあれか?」

「……そうだが、その話は止めろ」

「お~こわっ」


 ブールドネージュ様が聖女の話をしていた? 聖女に興味があったのかな?


「スフレ、この子は私の妹のシャルロットだ」


 ブールドネージュ様がもう一人の少女を紹介してくれた。

 私より少し年下くらいかな? ブールドネージュ様が妹ってだけあってすっごい美少女だわ。

 魔族ってみんな美形なのかしら?


「よろしくお願いしますシャルロット様」

「ふんっ!」


 シャルロット様に握手しようと差し出した手を叩き落された。

 え? 何で?


「この泥棒猫! 私の兄様を貴方なんかに渡しませんわ!」


 ええっ!? 何この子!

 私そんなつもりないのに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る