第3話魔族領

 危ないところをブールドネージュ様に助けられた私は、客人として一緒に魔族領に行くことになった。

 道中現れた魔物も簡単に倒してしまうし、ブールドネージュ様は強いんだな。

 こうして護衛されながら、私はブールドネージュ様が治める魔族領にやってきた。


 王国では魔族領の情報がほとんど入らないからどんな所かわからなかったけど、王国とほとんど変わらなかった。

 王都に比べると木造建築や田畑が多く、ちょっと田舎なくらいかな。


 そう思っていたが、町に入ると違うところがあった。

 ブールドネージュ様に立派な角があるように、魔族はその体の一部に角、翼、鱗といった、獣や魔物の特徴が現れている。

 鬼族の領地だけに角を持つ人が一番多いけど、色々な魔族がともに暮らしているみたいだ。

 すれ違う人々の表情も明るく、私たちを見ると丁寧に挨拶をしていく。

 民を見れば、いかにブールドネージュ様が領主として尊敬されているのかがわかる。


「魔族を見るのは初めてか?」

「はい、王国には魔族はいませんから……」


 王国で魔族は人を食べる種族と恐れられる存在だったから見るのは今日が初めてだ。

 良く見ると意外と可愛いかも。ケモ耳とか尻尾とか触ってみたいわ。


「どうやら嫌っているわけではないみたいだな」

「はい、私動物は好きですから、――あっ、失礼しました!」

「はっはっはっ、さすがは噂に高い王国の聖女だ。我ら魔族を動物扱いとはな。ますます気に入ったぞ」


 失言したと思ったらブールドネージュ様は上機嫌に笑い出した。

 何でだろ? まあ、気に入ってもらえたなら良いか。

 気分良く歩き出すブールドネージュ様の後をついて行くのだった。




「ついたぞ。ここが私の家だ」

「趣があって良いお屋敷ですね」


 ブールドネージュ様のお屋敷は、王国貴族のお屋敷のような豪華絢爛な装飾が施された建築ではなく、質素だけど味わい深い魅力のある木造建築の建物だった。

 森に囲まれた魔族領には良質な木材が多く取れるから、自然と木造建築が多くなるのかな?


「お帰りなさいませネージュ様。お連れ様もいらっしゃいませ」


 お屋敷に入ると頭から大きな角を生やした老紳士が出迎えてくれた。

 ネージュ様ってブールドネージュ様のことかしら? 可愛い愛称ね。


「スフレ、この男は我が家の執事頭ガレットだ。ガレット、本日からこちらのスフレ嬢を我が家の客人とする」

「かしこまりました。よろしくお願いいたしますスフレ様」

「は、はい。よろしくお願いします」


 ガレットと呼ばれた老紳士は滑らかな動きで一礼する。

 美しく洗練された見事な所作だわ。醸し出す雰囲気といい、この老紳士ただ者じゃないわね。


「ここまで歩いて疲れただろう。ガレット、スフレ嬢に水と手拭いと着替え、それと応接室にお茶の用意を頼む」

「かしこまりましたネージュ様」

「スフレ、まずは汚れを落とし、それから今後についての話をしよう」

「はい。ありがとうございます」


 私はガレットさんに空き部屋に案内される。用意してもらった水と手拭いで汚れを落とし、清潔な服に着替えた。

 ここまでの道中は色々大変だった。私のドレスは魔物に襲われたりして、血と泥に汚れていたから助かるわ。汗もかいていたから匂いも気になっていたし、ブールドネージュ様は紳士ね。


 その後応接室に通されるとブールドネージュ様が迎えてくれた。

 ここまで案内してくれたガレットさんはティーポットから二人分の紅茶をいれると、壁際に離れて待機した。

 洗練された見事な動きだなぁ。ハーベスト公爵家の使用人頭も凄かったけどそれ以上だよ。


「あらためてここまで疲れただろう。このお茶は魔族領の特産品なのだが心を落ち着かせる作用がある。飲んでみてくれ」

「ありがとうございます。いただきます」


 お茶が特産品なんだ。王国では魔族領の情報が入ってこないから知らなかったよ。うん、良い香り。

 お茶の香りを楽しんでからそっと口をつけると、さっぱりしていて飲みやすい。味も良いわ。さすがは特産品になるだけあるわね。


「どうやら気に入ってもらえたようだな」

「ええ、とても美味しいです」


 美味しそうにお茶を飲む姿を見たブールドネージュ様は、私の返事を聞くとにっこりと微笑んだ。

 緊張をほぐそうとしてくれているのかな?

 その気遣いが嬉しくて、私も自然と笑みがこぼれる。


「落ち着いたところで本題に入ろう。君の今後についてだ」

「は、はい」


 先程と打って変わり、ブールドネージュ様は真剣な表情で話し始めた。

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