負け組女子が女子陸上部のエースとまったりなり

霜花 桔梗

第1話

 私の名前は『大田原 成子』名前からして成功しそうであるが現実は違う。本当にこの名前を付けた両親を恨んでいる。


『成子』なのに何も成功していないからだ。


 それは、中学生の時から対人不安が有ったが高校生になって更に酷くなった。


 結果、お昼を保健室で過ごす半保健室登校になった。


今日も保健室の奥でおにぎりを独りで食べる。


「コンチワー」


 何だ?体育会系のノリの女子が入ってくる。


「昼休みに走り込んだら転んですりむいてしまったのです」


 彼女は『西島 舞美』と名乗った。


 保健の先生こと暗部先生はテキパキと舞美の治療をする。


「何だ、お前は?」


 舞美は私の顔を見て驚いている。


「はい?」


 私が聞き直すと舞美は照れた様子でいる。


「可憐だ……」


 何を言うかなこの筋肉脳の女子は、私は可憐だ?この失敗成子の何処を見て言うのだ?


「ここはメッセージアプリの交換だ」


 仕方がない、メッセージアプリの交換で静かになるならそれも良かろう。


 舞美が保健室を後にすると、私は昼食に戻る。食べかけのおにぎりを口に運んでいると。


「成子ちゃん、出会いは何時も偶然よ」


 ……。


 暗部先生は積極的にお友達を作るように言いたいらしい。私はご飯も人前で食べられない負け組だ。人生、負けて、負けて来た。成功する事のない成子だ。


 趣味も自宅で動画投稿サイトを見るだけの毎日だ。勇気があれば私も動画をアップしたい。でも、誰も観ない動画など上げても仕方がない。


 あああああ、午後らの授業が始まる時間だ。


 私は渋々、教室に向かう。


 そして、窓際の席に座ると授業が始まる、私はノートを取る事もなく、授業を聞き流す。ホント、つまらない授業であった。休み時間になると、メッセージアプリが鳴る。


 舞美からだ。


『放課後、女子陸上部の部室で待つ』


 なんだ、これはまるで決闘の招待状みたいだ。私は暗部先生の言葉を思い出す。

友達か……。


 そして、放課後。私は女子陸上部の部室に到着する。


「コンチワ」


 ひーーーー。


 ガラの悪いオッサンに挨拶をされる。コミ障害の私は思わず震えてしまう。


 えーと、このオッサンは確か陸上部の監督だ。


「舞美の知り合いか?」

「は、はい」

「なら、頑張れよ」

「えぇ」


 簡単な会話の後に陸上部の監督は外に出て行く。すると、舞美がダッシュで部室の中に入ってくる。


「おおお、ホントに来たか」


 コイツ、絶対、一言多いタイプだ。私がブツブツ言っていると。


「やはり可憐だ、君、伝説のマジカルに成れるよ」


 あい?


 何か異次元な言葉を聞いた気がする。


「伝説のマジカルになってよ」

「イヤ、私、負け組の成子だし……」

「そんなの関係ない、マジカルになって愛と勇気をこの学園にもたらしてよ」

「やです、私、愛とか勇気は関係ない人種です」


 私は部室から逃げ出して保健室に向かう。


 これは大変な事になったぞと背筋に寒気を覚えながら走るのであった。



『ジュキュン!ジュキュン!君のハートに一直線、マジカル少女!セイコちゃん!!!』


 バァ!!!


 部屋の中には朝日が差し込み。丁度、アラームが鳴り始める。インナー姿の私は微睡から目が覚めるのであった。


夢か……。


 それはマジカル少女になる夢であった。昨日、舞美にマジカル少女に成るように言われたからだ。


 あー、恐ろしや、恐ろしや。


 私がマジカル少女になるなんて世界が滅ぶ日に違いない。


 いいや、二度寝してやれ。


 私は布団に包まると二度寝を始める。


 で……。


 結果は遅刻であった。今の時代は遅刻などしても怒られない。そう、生徒様々なのだ。ショートホームルームが終わると、そのスキに自席に着く。


 今日も退屈な授業の始まりだ。


 昼休み、いつものように保健室で御飯を食べていると。舞美がやって来る。


「禁止、病んでいる人以外は保健室、禁止」

「だって、成子を見ていると癒されるの」


 負け組の成子である、私を見て癒されるとの茶番は止めて欲しい。私が不機嫌になると、舞美は『変身、マジカル少女!!!』と立ち上がり大声で叫ぶ。


 舞美がマジカル少女に成るかと思えば違っていた。


「やはり、私ではダメなの世界に愛と勇気をもたらす成子がマジカル少女確定だな」


 困った、この娘本気だ、私がマジカル少女に成れると思っている。


「なら、今からマジカル少女に成るわ」


 私は立ち上がると『変身、マジカル少女セイコちゃん!!!』と言うのであった。


 勿論、変身などしない。


 すきま風が吹くだけであった。


「これは道具が必要だな」


 マジカル少女に付き物の玩具か……。


「今度、おもちゃ屋に行って買って来るね」


 まじか、本当にそれでいいのか?私は舞美の言葉に絶句するのであった。


「さて、時間だ」


  舞美はスマホを取り出してソシャゲーを始める。時間拘束型のソシャゲーか……。


「ふむふむ、我のギルドは何度見ても強いな」


 課金ではなくログインでの戦闘で強くなるのか。


「成子はこのゲームに興味ある?」

「……多少」

「よし、合格、私のギルドに入りたまえ」


 自分勝手な判断だなー、私が呆れていると。


「職業はマジカル少女に決定だ」


 そうか、ここからマジカル少女が来ているのか。私が納得していると。


「でも……マジカル少女はギルマスしか成れないのだよ。私がギルマスだから可能ではあるが」

「なら、無理にソシャゲーをしなくてもいいです」

「いや、しかし、だが……」


 何やら歯切れが悪い。やはり、同じソシャゲーをしたいらしい。


「ゴブリンなら空いている」


 アホか!!!私が拒絶すると。


「魔王の方がいいか?」


 はいはい、もういいや、諦めて同じソシャゲーをするはめになったのである。


「ところで……」

「はい、イヤです」


 私が舞美の切り口からして、何かに同意を求めるに違いない。そこで私は話を切断する。


「まだ、何も言っていない!」


 怒る舞美に「はいはい」と返事を返す。


「もう!!!ミュージカルは好き?と聞きたかったの!!!」


 やはりそうか、と、してやったりとしていると。私の態度に舞美は苦虫を噛み潰した表情になる。


 少し意地悪だったかな。ここは反省して舞美の話を聞くことにした。


「おお、ロミオ、あなたは何故、ロミオなの……」

「それって演劇じゃない?」

「大丈夫だ、私も知らん」


 おい、好きかと問うなら詳しいのが当たり前でないのか?


「こんど、市民アリーナでミュージカルが有るの」


 うむ、一緒に行きたいのか。


「だから、お金貸して」


 あー、縁を切るなら早いうちがいいか。


「だから、お金貸して!!!」


 偉そうに言うな!私は渋々、千円を取り出して、貸してあげる。


「おお、心の友よ」


 安い心の友だな、私なら怒るが。さて、午後の授業が始まるのであった。


 放課後


 私が帰ろうとしていると。甘い香りに包まれる。ふらふらとグランドに向かうと舞美が短距離の練習をしている。うん?先客がいる。どうやら、舞美のファンクラブのようだ。一部の女子生徒に人気があるらしい。


 さて、関係ない、帰るか……。


「成子、来てくれたのね」


 げ、見つかった。


「おう、元気か?」


 適当に対応していると。陸上部の部室に案内される。そこに居たのはガラの悪い監督であった。この監督苦手なのだよな。


「脅えないでいいよ、この監督はチョコレートパフェが好物なの」


 監督はカツーっと顔が赤くなる。


「ね、可愛いでしょ」


 そういう問題ではない。この場合は逃げた方がいい。私は何も聞かなかった事にして部室から逃げ出す。そして、私がグランドの隅の木陰で休んでいると。


「やっぱ、二人きりの方がいいの?」

「あぁ、まあ……」

「監督の前ではマジカル少女の勧誘も出来ないからね」


 舞美はまだマジカル少女にこだわっていたのか。まあいい、ここは静かだ、ゆっくりと話しを聞こう。


 夜、舞美と同じソシャゲーを始めたが、毎回戦闘時間になるとギルマスである舞美のマジカル少女への変身シーンがある。大人向けのソシャゲーなのでエロいシーンがある。でも、この程度のエロは昔、地上波で放送されていたらしい。


 で……。


 私のポジションはハイエルフである。弓を使いで回復魔法も使える。このキャラなら初めから楽しめるのであった。


 しかし、何故、舞美は現実世界で私にマジカル少女になれと言うのだ?深く考えても仕方がない。今はソシャゲーを楽しもう。戦闘時間が終わり私達のギルドが勝利する。


 このソシャゲーは古いタイプなのでギルド内で雑談が出来る。


「新しく入ったセイコは身長180センチの大男よ」


 ギルドのグループチャットで舞美が私を紹介する。


 アホか!!!


 私は負け組女子高生だ!私が否定しようとすると。


『男なんて、飢えた狼よ、ネットの世界では180センチの大男でいなさい』


 舞美から直接メッセージアプリからアドバイスが届く。まあ、いい、成りきりプレイも良かろう。


 夜が終われば当然、朝が来る。


 ああああ、負け組女子高生には辛い朝だ。登校して授業を受けて帰るだけの毎日だ。青春などと言うモノにはほど遠い。今日は気分が悪いから二限で打ち切って保健室に向か事にした。


 う~ん、ザ、保健室登校てな感じで気分が良くなる。


「成子ちゃん、先生とポッキーゲームしましょうよ」


 はい?あのバカップルしかしないと言うポッキーゲーム!?


「ただの暇つぶしよ」


 その言葉に乗せられて保健の先生とポッキーゲームを始める。だんだんと近づく唇に呑まれて行くと。


「待った!!!」


 突然、現れたのは舞美である。


「お姫様を助けに来ました」


 その言葉によってポッキーが折れてしまう。


「あら、舞美ちゃん、今はただ、青春の『せ』の字も知らない、負け組の成子ちゃんと遊んでいたのよ」


 何か酷い事を言われた気がするがここは忘れよう。


 「ただの遊びか、安心した、私の想いも遊び程度の百合よ」


 また、酷い事を言われた気がする。ガチ百合も困るけど遊び程度の百合ってどの程度なのだ。


 舞美に聞いてみると。


「ええええ、健全女子がミュージカルを見て影響される程度」


 要はノーマルだと。


 さて、午後は授業に出席するか。


 雨上がりの放課後、綺麗な虹が出ていた。うむ、今日は良い事が起きそうな予感がするぞ。


「あ!いたいた」


 私が虹をスマホで撮っていると、舞美が話しかけてくる。


 お前か……。


 負け組の私にはカッコいい男子など近づかない。寄ってくるのは陸上部のエースの舞美だけである。


「虹をバックに写真撮って」


 私は渡されたスマホで一枚の写真を撮る。しかし、アホみたいに平和だな。スマホを返すと舞美は上機嫌になる。


「この私のオーラが虹の様に見えるのがたまらないね」


 いや、舞美のオーラでなくて虹は虹だし。ノド元まで出かかった言葉を飲み込む。


 本人が幸せなら良かろう。


「は!!!」


 突然、舞美がオーラを放出する。


「え?虹が見えた!?」


 それは雨どいから落ちた滴が顔に当たったのだ。なんだ、気のせいか……。


「は!!!」


 二度目の舞美のオーラ放出のポーズをとるがなにも起きない。すると、舞美の顔が赤くなる。


「屁でも出たか?」

「イジワル、すかしたはずなのに」


 はーぁ、下品な会話だ、負け組女子でも屁は隠そうと思うのであった。


 それから数日後。


「マジカル少女の変身玩具を買ってきたよ」


 私が保健室で昼食を食べていると。舞美が入って来る。いや、おもちゃ売り場で買ってきた玩具で変身が出来るのか?


 私がジト目で見ていると。


「愛と勇気の気持ちが有れば君もマジカル少女だ」


 渋々と玩具を受け取り、玩具のスイッチを押す。


『あああああああ』 


 なんと、変身出来たのである。それはテレビで観るド派手な衣装のマジカル少女であった。


「で、何をするの?」


 私が舞美に問うと……。


「君が正義だ」


 おい、目的も無くマジカル少女に変身させたのか?


 舞美の顔がωになっている。


 ダメだ、元の姿に戻ろう。


……。


「舞美、どうすれば、元の姿に戻れるのだ?」

「さ~ぁ」


 まじか!!!戻れないのか?舞美は小さく頷く。仕方がない、保健室に籠ろう。


「ゴメンね、この後、空調設備の工事なの」


 はあ?


 保健の先生から信じられない言葉が漏れる。


 結果、教室に戻る事になり、廊下を歩く。


『ひそひそ』

『ひそひそ』


 すれ違う生徒の注目のマトになる。生きていて、ゴメンなさい、ゴメンなさい。

と、この苦境でから出る言葉は呪文の様になり現実逃避をするのであった。


 その後、授業まで受ける事になり。先生は勿論、不機嫌だ。


 ああああああ……。


 こうして、世界は平和になり、この物語は完結するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

負け組女子が女子陸上部のエースとまったりなり 霜花 桔梗 @myosotis2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ