第29話 怪猫、飼い猫に戻る

 佑夏は、その後も、ぽん太の里親探しに懸命に奔走してくれたようだ。


 猫又は解説する

(佑夏は最初、実家や地元の近所の家に、オレを飼ってくれないか、聞いてくれてたな。

 でもよ、どこも猫は一杯でダメだった。


 メチャクチャ忙しそうなのにな、オレに苛立った顔一つ見せず、どこまでも優しく、笑顔だったぜ。


 朝早く大学がっこうに出てって、もう家庭教師とやらも、始まってたよ。

 バイトも、色々してたようだ。

 

 タッキュウとかいうのも、やってんだろ?毎朝、スポーツバック持参だ。

 帰りは、いつも結構、遅かったぜ。


 それでも、帰って来ると、オレの世話をして、毎晩、夜更けまで勉強してたな。

 電子ピアノの練習もやってたぜ。先コーになるってな、大変だな、オイ。

 

 ああ、アレだ。幸福ナントカっていう本な。書いた奴が三人いるアレだよ。

 忙しいのに、どうにか時間を作って、読んでいたな。


 三冊とも、擦り切れてボロボロだったぜ。

 よっぽど、好きなんだな。

 

 佑夏がいない間は、オレはケージの中で留守番だ。

「こんなの中で、ゴメンね。早く、新しい飼い主さん、見つけてあげるからね。」

 と、悪くもねえのに、いつも謝ってくれてよ。


 夜は必ず、一緒に寝てくれたもんだよ。


 それから、動物病院に連れて行ってくれてな、レントゲン検査で身体の中に弾丸があるのを見て、獣医は首を傾げてたな。思考を見てみると”こんな状態の悪い猫は初めてだ”と、ひどく驚いてたぜ。


 そりゃ、そうだな。身体に弾丸の入ってる猫なんか、いる訳ねえからな、ニャハハハ!


 診察中、女の看護師の頭の中、覗いてみたら、ケッサクだったぜ!

 ”こんなに臭くて、汚くて、気持ち悪い猫、連れて来ないでよ!このひと一体、何考えてるの?

 他のお客さんが嫌がるじゃない!”


 だとよ!ああいう職業でも、優しい奴ばかりとは限らねえんだな、ニャハッ!


 んでよ、生殖機能は不老と関係ねえんだ。

 ガキなんか、とうに作れねえ身体なのに、佑夏は弾丸の摘出手術と一緒に、去勢手術までしてくれたのさ。

 かなり金もかかったろうな。


 ともかく、オレは60年ぶりに、弾丸の激痛から解放されたんだ。)


「何!?俺には、佑夏ちゃんは、”去勢手術はしてあった、元飼い猫だろう”と言ってたぞ!?」


(そりゃ、ジンスケに”自分が世話してやりました~”みたいなこと言って、余計なプレッシャーかけたくなかったんだろうよ。全くできた娘だぜ。)


 佑夏ちゃん...........。



 (オレの元の飼い主ましろさまが、もうこの世にいねえことを、佑夏は知らねえから、警察と保健所にオレについては遺失物の連絡を、一応、入れてはいた。


 だが直感で、あの子は、オレの前の主人が決して名乗り出ねえことは、分かっていたようだな。


 ネットなんかで里親募集してくれてたが、問合せの一つもねえ。オレのこのツラじゃな。


 そしてアイツ、神野翠だ。

 何度か部屋に来ていたが、翠が言い出したんだよ。

「絶対に引き取ってくれる奴がいる。ソイツに頼んでみよう。」とな。)


「俺のことだな?」


(その通りさ。翠の思考を辿って、ジンスケの人となりは分かった。確信したぜ、この男ならオレの主人になってくれる!


 そして、オレは、この家にやって来た。

 諦めていた新たな飼い主がやっと見つかったんだ。


 不老の身体は元に戻り、普通に歳をとれるようになったのさ。

 ちょっとスマホソイツで、オレの一年前の姿を見てみな。)


 ぽん太に言われるまま、スマホに保存してある画像を見てみると、確かに一年前より、老けている。


(歳とって喜ぶのも、おかしな話だがな、

 このまま、寿命を迎えりゃ、オレはやっと真白様のお傍に行ける。

 礼を言うぜ!ジンスケ!)


 ぽん太は、満足氣にでんぐり返って、横たわると

(しかし、佑夏といい、お前といい、オレのツラが嫌じゃねのか?

 他の人間共は、あんなに氣味悪がるのによ。)


「イヤ、俺は別に......。」


 実は、佑夏があまりに、ぽん太をカワイイと言うもので、彼女は見た目にこだわりが無いのか?聞いてみたことがある。


「そう言えば、佑夏ちゃんが言ってたんだけど。」


(何をだ?)


「イケメンとか好きじゃないの?ってな。聞いてみたんだよ。

 そしたら、イスラム教の例話をされた。」


(何だ、そりゃ?

 そいつは知らねえな。まあ、オレもお前達の頭の中、全部探ってる訳じゃねえからな。

 思考探索は結構、体力使うんだよ。)


「腐った犬の死体があって、みんな顔をそむける中、一人だけ、”なんて綺麗な歯なんだろう”って言って、立ち止まって感心した人がいたんだって。」


(ニャハハハ!オレは腐った死体かよ?)


「そんなこと言ってないだろ。

 だけど、佑夏ちゃんは、美しさも醜さも、見る側の心の問題だってさ。


 ぽん太、俺も思ったが、お前のヨリ目はなかなか、カワイイぞ。


 お前は、真白さんに大変な忠誠を尽くした、そして60年も孤独に耐えて、飢えてお腹がすいても、化け猫に変身して人から食糧を奪ったりしなかった。


 そういう誠実さが、目にも現れてるんだよ。

 佑夏ちゃんは、そこを見つけて、お前を可愛いと言ってるんだな、きっと。


 あの子が、お前を本心から溺愛してるのは、他の者の綺麗な所を見つけられる、優しい心を持ってるからじゃないか?」


(ほう?)


「俺は貧しい生まれで、学校じゃ爪はじきだったから感じるんだけどさ。


 他の者の容姿を悪く言ったりする連中は一人じゃなにもできなくて、必ず群れるんだ。


 だけど、そいつらはお互いに仲がいい訳じゃない。

 陰じゃ、悪口を言い合ってる。群れてるのは弱さからで、一人でいられないからだ。


 そんな連中が集団でいると、興奮して集団暴力を楽しむようになっていくのを、何度も見たよ。


 戦争を起こした、昔の日本人も同じだったんじゃないか?


 お前をブサイクと言った奴らが正しいんじゃない。

 佑夏ちゃんと真白さんが正しいんだよ。」


 今まで、考えてもみなかったことが、口からスラスラ出て来る。

 主人としての、ぽん太への愛?


 だが、こうして言葉にしてみると、本当に佑夏と真白さんが正しいように思える。

 いや、きっと、そうだろう。


(なるほどな!また助けられたな。ありがとよ、ジンスケ!)


「俺は一度でも、ぽん太の姿をけなしたりしたことは無いだろう?

 だから、最高の女性ゆうかちゃんが家に通ってくれるようになってるんだ。


 結局、自分本位に他人の容姿を悪く言ったりしてると、本当の幸せは掴めないんだと思うぞ。」


 自分自身に諭されてる?不思議な感覚だ。



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