第2話アイドル事務所 rio
良く晴れた昼下がり、街は鮮やか桜が満開を迎えようとしていた。
行き交う人々は口々に花見の計画を立てているようだ。
ねぇねぇ、今度の日曜がちょうど見頃なんだって!みんなに連絡してお花見しよ?
そうだなぁ、都合のつく奴集めてみんなでぱぁっとやるか。
おっ乗り気だねぇ♪それじゃあさ、私が幹事やるからひでくんは連絡係ね?
おうょ!
そんな会話が続く中、とあるビルの2階では女性の怒号が聞こえてきた。
何べん言ったらわかるの、あなたは!
アイドルはねぇ事務所の宝なのよ?
どうしてこんな事態に…
まぁ過ぎた事は仕方ない、それで?
対応策はあるんでしょうね?
女性の前ではぽっちゃり体型の男性マネージャーが床に正座して土下座をしている。
はっはいぃ、そっそれはもっ勿論ですよ。まいの仕事をダブルブッキングしたのはこの私めですから、ちゃんとした対策を…
あなたねぇ、具体的にどうするかの報告をするのが先でしょ!
ですから既に手は売ってあると何度も言ってるじゃないですかぁ。
身体中の毛穴から汗が吹き出ているのか、床の絨毯に水溜まりが出来ている。
男性マネージャーはハンドタオルで顔をふきふきしながらそう答えていると事務所の外から軽いノックの音が聞こえてきた。
コンコン、あのぉアイドル事務所のrioってこちらで間違いありませんでしょうか?
マネージャーははっと顔を上げてドアの方を見た、磨りガラスに映るそのシルエットはまさしく待ちわびていた客人だったのだ。
あのぉ、社長?代役と言ってはなんなのですがひとり有望な新人を発掘致しましてぇ、その女性がお見えになったようです、はいぃ。
その言葉を聞くや否やヒールを鳴らして社長、陽我鈴音は扉に仁王立ちしノブを回した。
外に立っていたのは少し可愛い、がおどおどした様子の女の子が少し震えながら直立不動で鈴音を見上げる。
あなた、お名前は?
はい、うらみと言います。ほ、本日、こちらでアイドルの選考会があると伺いましたのでお邪魔した次第なのですがぁ、あぁ?
うらみの視界にぽっちゃりマネージャーが正座している姿が入り、
あのぉ、マネージャーさんはどうされたのですか?
と上目遣いで鈴音を覗く。
あぁ、あれは良いのよ、それで?うらみさんは何が出来るの?
いっ、一応、録画したまいさんのお姿を毎日観ていたので歌いなら踊ることは出来ます。
あら、そう、へぇ~、随分と大きく出たわね。
ねぇブゥ、お前が発掘したこの娘が使い物になるかどうか。
今すぐに凌駕を呼びなさい、すぐによ!
はっはいぃ。
バランスを崩しながらもよたよたと歩きだし奥へ消えて行く。
さぁ入りなさい、ここがアイドル事務所rioよ。
そして私がここの事務所の社長、陽我鈴音。
うらみさん?どうしたの?入ったら?
はい、失礼しまぁす。
壁一面に大きな太陽のポスターがあり中心にはrioの文字。その下には、可愛いが正義と書いてある。
ふたりは奥の客間に向かい、鈴音が促して着席する。
向かい合うふたり、鈴音の眼圧が鋭い。
それに負けじと震えながらも鈴音を直視するうらみ。
数秒の後、ノックの音がして外から男性が入ってくる。
日焼けした全身にカーニバルを思わせる様な衣装、その男、陽我凌駕がうらみの側に立つ。
はじめまして、あたしがここの振付師兼歌唱指導をしている陽我凌駕よ?よろしく、うらみ♥️
挨拶の最中、踊るとは。
うらみはすっかり見惚れてしまっていた。
差し出した手をうらみの顔の前で振る凌駕。
どうしたの?うらみ、あんたまさか、あたしの事好きになったんじゃないでしょうね?ふふふっ。
あっ、いやっ、そのっ、つ、つい見とれてしまっていまして…。さすがだなぁ、と。
でしょ?ここで全てのアイドルを鍛えてるって相当なものよ?おわかり頂けたかしら?
そっ、そうですね、rioのアイドルをしている女性は皆さん常に輝いて見えますから。今納得しました、ふぅ~。
凌駕!挨拶はそのぐらいにして、さっさとうらみさんを審査するのよ!時間がないんだから、もぅ。
わかってるわよ、姉さ、いや社長。
さぁ、うらみ、レッスン室へ案内するわ。
はい、よろしくお願いいたします。
立ち上がったうらみを横でエスコートしながらレッスン室へ向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます