第3話はなよとのぞみ
穏やかな昼前。
遅めの、ブランチと言った方が良いだろうか。
優は久しぶりに食卓で目の前のお握りに手を伸ばす。
それにしても、優はお母さんにそっくりね!
良かった、素材がこれだと鍛えがいがある。
そう言う目の前の女性は自分の事をのぞみ、と名乗った。
確か、母の葬儀の時に8人の女性が棺の前で号泣してたなぁ。
母親の名前は、はなよ。
高校時代、スクールアイドルをしていたらしい。
なんとかっていう大会に出て優勝したって言ってたっけ。
泣き腫らした顔の優はお握りを頬張りながら亡き母から聞いた話を想い浮かべる。
お花屋さんでアルバイトをしている時に父さんがじいさんのお墓に供えるお花を頼みに行って知り合ったんだったかなぁ。
父さん、一目惚れって言ってた、まぁそうだよな、あれだけ綺麗だと好きになるのに時間なんて関係ないし。
ぶつぶつ言いながら食べていると、
優!考えながら食べるのやめなさい!
せっかくお父さんが作ってくれたお握りが優の栄養にならないわ。
のぞみがそう言うと
父さん、あんなんなりだからお握りが固い。
ふふふっ、そうね♥️
はなよから結婚するって聞いてどんな男性かなって8人で品定めしたのよ?
そうしたら、結構かっこ良くて。
あっそうそう、優のおしめ、私変えた事あるのよ?覚えてるかしら。
穏やかな表情、なにものにも動じないしっかりとした口調。それでいてなぜか声を聞いていると心が安らぐ。
母さんとは高校時代仲良かったんでしたよね?
のぞみに問いかける優。
そうね、私が3年生ではなよが1年生。
私は途中からグループに入ったんだけど、最初は学年が違うって事で、はなよはびくびくしてたわね、ふふふっ。
そうよね、だって1年生の時の3年生と接する時って話をするだけでも緊張しちゃうし。
でもね、私ははなよが入学してきた時から目をつけていたのよ?
彼女の背後には不思議な色のオーラが見えたから。
ふーん、そうなんですね?って俺のおしめかえてくれたんですか?
ふふふっ、そうよ?はなよがグループ内で最初に産んだ子供が優、貴方だから。
それはもう、8人で交代で優の面倒観てたんだから。覚えていないの?
そう言われてみると幼い頃、柔らかい感触がたくさんあったなぁって記憶がある。
まきなんか、手術の後に慌ててここにきて貴方の頬にキスしてたんだから。
あと、そうね?ほのかはわざわざ海外から貴方の事を見にきていたわ、歌手志望なんだけど。
えりはミュージカル女優、にこは保育園で園長、ことりは私達のいた高校の理事会役員。
うみは華道の家元の修行してるって言ってたわね、りんは大道芸人。あの娘大丈夫なのかしら…
そして私。
みんなの中で私が一番自由だからここに来たってわけ。
お父さんは素敵な方だけど私のタイプではないわ。
そうなんですね、それじゃあなんで父さんと結婚することにしたんですか?
それは勿論はなよの忘れ形見だからにきまってるでしょ?ましてや貴方、引きこもりニートなんですってね!
はなよが知ったら何て言うか、多分号泣ね。
わたしがいないから優はこうなってしまったのねって言って。
だって母さん、急にあんなことになって…
優!それは貴方だけじゃないのよ?
貴方のお父さんだって、私達8人だっておんなじ気持ち。
みんなそう、はなよは周りの人達を笑顔にしてくれる、そんな存在だったから。
のぞみが涙ぐみ、ポケットからハンカチを取り出し目尻を押さえる。
そして
優!これから貴方は私達9人の子供。
9人分の想いを心に秘めて生きるのよ?
貴方には才能がある、貴方の足元に女性がすがりつく光景が浮かぶから。
今日これから特訓!学校なんていいわ、行くだけ無駄だし。
勉強はまきに見て貰うとして、中学卒業まであと半年で貴方を夜の住人にするわ♥️
へっ?なにそれ。
食べるのをやめて口をぽかんと開ける優。
これから半年間の壮絶な特訓が始まる、どれだけ凄くなるのか今の優では想像できない程であった。
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