後悔とそれから…



 今思えば…

 高校生になってすぐだ。


 瀬島先輩に会ったのは——…



 高校の入学式に朝起きれず遅刻して行った私は

 校門でしゃがみ込む

 いかにも不良な2人に絡まれた。


「新入生のくせにやるね」


 それが瀬島先輩と陸だった。



 入学してから知ったことは

 2人は学内のみならず地元ではやんちゃで有名。

 "金髪の瀬島と赤髪の田中"と呼ばれていて

 2人と付き合うことは女の子達の間ではステータスだった。



「見て、瀬島先輩!!」


 瀬島先輩は特に人気があった。


 理由は単純明快。

 どんな地味な女の子にも優しく女タラシだったから。


 幸か不幸か入学式から目を付けられた私は

 なにかと先輩に絡まれる日々を送った。


「佐渡ちゃんってモテるでしょ?」


「モテないです…」


「そ? 綺麗って有名だけど」


「誰が言ってるんですか」


 ケラケラ笑った私を真っ直ぐ見つめた先輩は

 "俺"と答えながら口付けた。


 これが私のファーストキス。


「……え、」


「……あ、やべ。間違った…」


 "間違った"——


 そう意味深な言葉を残した先輩はキスから数日後

 陸を連れてきて私に紹介した。


「陸が佐渡ちゃん可愛いって。仲良くしてやって?」


「……」


「陸って呼んで」


「……はい、」


 純粋な私はその瞬間に全てを悟る。


 …あぁ、弄ばれたんだ。と。



 一応ファーストキスだったから心は揺れ動いていた。


 高校一年生の私からしたら高校三年生の瀬島先輩は大人で

 かっこいいし、ふざけてる時も多いけど優しいし

 なによりキスの時、髪に添えられた手が優しくて…


 好きにならない訳がなかった。



 そこからなんだかんだ陸と遊ぶ機会が増えて

 増えたと同時に瀬島先輩にはずっと付き合っている

 美人な彼女がいることが分かり、私は自暴自棄に陥った。


「俺と付き合って」


「うん」


 だから陸と付き合うことにした。



 * * *


「…付き合ったんだ、陸と」


「付き合いましたよ」


「……そっか、残念——」


 陸の家で瀬島先輩と宅飲み中。

 陸が外に電話をしに行った隙を狙って

 私は瀬島先輩に押し倒された。


「…それを瀬島先輩が言います?」


「佐渡ちゃんのこと狙ってたのになぁ…」


「………なら早く口説いてくれたら良かったのに」


「無理だよ、彼女いるもん」


 根っからのクズ。


 うざすぎて…


 好きな人に押し倒された嬉しさを

 悲しみが超越した。


「……ッ、」


「…泣くのは反則だろ」


「…、陸に…ッ、言うから」


「陸、いま浮気してると思うけど」


「………ッ、知って…るよ、バカ…」


 どうしようもないクズに惚れた私が悪い。


 学校での優越感とか

 皆んなからの羨望せんぼうの眼差しとか…

 ……別に欲しくない。



 私はただ、好きな人に好かれたかっただけ——。



 結局そのまま瀬島先輩と体を重ねて

 私もクズに成り下がった。



 私と体を重ねた後も

 平気で自分の彼女に

 "好きだよ"と言う瀬島先輩を見る度

 吐き気がして、つい壊したくなった私は


「私、この前、瀬島先輩とヤったよ」


 陸にそう伝えた。


 もちろん陸は激昂。


 瀬島先輩は陸に散々殴られて

 ボロボロな姿になってもヘラヘラしていた。


「…ざまあみろ」


「…慰めてよ、楓」


「…っ、」


「好きでしょ、俺のこと」


 ……好きだよ。


 だからムカつくんだよ。



 高校を卒業したらもう会うことないと思ったから

 それからも陸に隠れて何回か関係を持った。


 卒業式の日。

 陸じゃなく瀬島先輩にボタンを貰った。


「……いる?そんなの」


「いるよ……」


「ただのボタンじゃん」


「私にとっては違うから…」


 若かったなぁ、と心底思う。


 今ならそんな風に道は外さない。




 * * *



「……はぁ」


 ランチ中に少しだけ寝るつもりが、最悪な夢見た。


 よりによって高校時代の夢って…悪夢かよ。



 立ち上がると

 ポケットからコロンと何かが落ちた。


 拾ったそれはあの日貰った第二ボタンだ。


「…なんでこんなとこに…?」


 こんな物をまだ持ってるからあんな夢見るんだ…。



 もう良いや捨ててしまおうと

 投げようとした私の腕は彼によって止められた。


「…何やってんの」


「なんでいるんですか、瀬島さん…」


「いや、たまたま通りかかって」


「手、離してくれませんか?」


「……何捨てようとしたの?」


「ボタン」


「…うわ、すげ。懐かしい…」


「………私が好きって言ったら、彼女と別れてくれます?」


「……急になに」


「答えてよ」


「あー…、んーっと…別れない、かな…」


「…ははっ、」


 何年経っても変わらないクズを好きな私もまた変わらない。


 捨てようとしたボタンを

 瀬島さんに無言で返した私は

 そのままその場を立ち去った。



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