第2話 山間部の村落
いわゆる酷道だ。
舗装路はひび割れ、隙間から力強く草花が顔を出している。
人間が管理を放棄したのなら状態の維持等は数年の歳月で脆く崩れ去るのだ。植物の強さとは本来人間如きでは太刀打ち出来ないものなのかも知れない。
日も傾き、黄昏時にもなると周辺の草木がまるで魔物の様に見えてきた。
太くどっしりとした幹を支える根はまるで無数の足。光を遮る枝葉は高く振り上げた無数の腕だ。
昔、大好きだったRPGにはこんな大木のモンスターが登場していた事を思い出す。
もし、今この樹木が動き出したのなら一瞬で僕は絶命するな。とそんな風に考えてしまったものだから“ぶるっ”っと軽く身震いしてしまい。
かれこれ30分以上歩いて。そもそも部屋の中に居たはずなのに気がついたらこんな場所にいる。服装もパジャマだし履き物はスリッパだ。
「流石に踵が痛い。まじで何だよこれ。ドッキリか? 某TV番組でもこんなドッキリを仕掛けられている芸人がいたな」
モニター越しに観ている限りは“バカだ”とか“俺ならもっと上手くできる”などと揶揄していたが、いざ自分が同じ環境に立たされてみると凄く孤独だ。もしこの光景を観て笑ってる奴が居るなら確実に殴って埋める。
脳内で想像の人物を幾度と殴殺しながら公園から見えた明かりを目指して2時間が経った頃、ようやく居住地らしき物が眼前に広がってきた。
「やっとか...... きつかった。とりあえずコンビニだ」
ワタルはペタペタと力なくスリッパを鳴らしながら見慣れぬ町の中を散策する。
どうやら集落の様でコンビニなんて物は無さそうだと分かり、疲れがどっと押し寄せた。
「とりあえず休もう。 ニートにこの運動量は酷だ」
適当なブロックに腰を下ろして“はぁ”と大きな溜息を一つ。
両手を背中側に伸ばし、そのまま体重を預けて天を仰ぐ。
凝り固まった背中が気持ちよく伸びた。
「おいおまーそこでなにやってる」
突然前方から怒声にも似た声が飛んんできた。
慌てて反った体を戻し、声の方に視線を戻す。
ボロボロの麦わら帽子を被り、首には泥々の手拭いをかけた白いシャツの老人が親しみの無い警戒心を込めた視線をこちらに向けている。
肩にかけていた桑の握りが強くなるのを見逃さなかった。
「あ......すいません。怪しい者では無いんです。僕にもどういう状況か分からなくて」
老人は益々警戒心を露わにした。
「おみゃーなにいってんだぁ? 頭でも打ったんか? そんなスリッパでこんな場所に座り込んでて怪しく無いってそりゃ筋がとおらんじゃの? 」
老人の言う事は何一つ間違っていない。悔しいが一切反論の余地は無かった。それでも現状を打破するにはこの状況をどうにかするしか無い。心の中で決意を決めて話を初めた。
「本当に分からなくて。部屋で寝ていたはずが急にこんな場所にいて。 どっちに帰ればいいのか、そもそもここが何処なのかも分かってなくて。荷物も何もかも無くてどうしたらいいか分からずそれで......」
ワタルは必死にジェスチャーも加えながら説明をした。最初は警戒心を解く事なく話を聞いてた老人も、ワタルの必死な訴えに根負けした形である提案をしてくれた。
「まぁよぐわがんねーケドこまっちょるってこっちゃな? ここにうっちゃっとく訳にもいかんし、それじゃオラの家にとりあえず来いや」
老人の提案は願っても無い事だった。小柄な老人が仏に見えた。間違いなく釈迦が生きてたらこんな感じの人だったんだろうと、大袈裟に聞こえるかも知れないがそれ程に感謝したのだ。
「是非お願いします。手伝いも何でもしますんで」
老人は“ふんっ”と鼻で笑い
「当たり前じゃ。しっかり扱き使ってやるから覚悟しとくんじゃな」
そういうと顎先で“クイっと“方向を示すとそのまま無言で歩き出した。
ワタルもその後を付いて行く。
足袋の様な物を履いており、2人の足音はペチペチと山間部に鳴り響いた。
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