第5話 二人の秘密

「チーズと生ハムとワインって、まじで最高だよな!そう思わない?一真」

「確かに、思うわ」


俺と亜美の事、もう気づいてるだろうけど……。

俺達は、同性愛者だ。


亜美が好きな人は、中森なかもりあざみ。

結婚して11年の子なし。

理由は、7年に及ぶセックスレス。

俺の好きな人は、吉村拓生。

こっちもセックスレスだった。


「覚えてないだろうけど……帰り際にキスされた」

「えぇーー。めっちゃ嬉しいじゃん」

「いや、そんなキスは嬉しくなかった」

「まあ、そうだよな」


真理と拓生の結婚式の日。

俺は、一生友達でいる事を誓った。


「真理を抱けるわけないよ。俺、女を抱けないし……」

「たまにいるらしいよ。ゲイとかレズだけど、異性を抱けて結婚して子供作っちゃう人」

「へぇーー。人間愛とか言っちゃうパターン?」

「だろうな。ただ、単に体の構造上気持ちよかっただけじゃね?」

「いや、言い方。酷すぎな」

「悪い、悪い。だけど、そうとしか思えなくてさ。だって、僕は一真を好きだし、精神的に支えられてるよ。だけど、一真とはキス以上は無理だわ」

「まあな。俺も同じだな。キスは、結婚式の為に散々練習したからなーー。だけど、抱くのは無理だわ。亜美は、ついてないじゃん」

「その発想面白すぎだから。あっ、でもそっちは女側だもんな。何か納得。僕も、一真はついてるから無理だわ」

「何だそれ」


違う人種に偏見の目で見るなって思いながらも、俺達だって同じ人種を偏見の眼差しで見ている。

結局、人間は差別したがる生き物なのかもな。


あっ、そうだ。俺と亜美が結婚した理由。

それは、双方の祖母の為だった。

亜美の祖母は余命3ヶ月。

俺の祖母は認知症を患っていた。

だから、結婚式を見せてやりたかった。

亜美とはすぐに結婚を決めた。

だって、お互いに結婚したい相手は結婚してしまっていたから……。


それから俺達の毎日は、平和で穏やかだった。

今日が来るまでは……。


「一真が、彼を好きになった話。また聞かせてよ」

「えっ?いいよーー。もう、50回ぐらいしてるだろ?」

「100回でも1000回でも聞きたいの」

「何でだよ!」

「だって、あの話聞いたら。胸がギューって苦しくて切なくなるんだもん」


ピリピリ……。

ピリピリ……。


「誰?」

「拓生からだわ。ちょっと待って」


俺は、拓生からの電話に出た。


「もしもし……」

「もしもし、一真。今、何してる?」

「今?家だけど……」

「だったら、すぐに山本総合病院に来てくれよ」


拓生の声が震えているのがわかる。


「何で……?」

「真理が、真理が……。帰ったら、風呂で手首切ってて」

「わかった。すぐ行く」


慌てて電話を切って、俺はタクシーを呼んだ。


「自殺しようとした?」

「えっ……?」

「ほら、見て!僕も行かなきゃだわ」


亜美が見せてきたメッセージには【優君が飛び降りました】と書かれていた。

亜美もタクシーを呼んでいる。


「今さらになって、書き乱されたくないよね。この生活」

「ああ」

「だけど、一真。傍にいたいんどしょ?」

「まあな。亜美もだろ?」

「まあな。じゃあ、僕も行くよ」


例え、嘘をつかなければいけないとしても……。

それでも、好きな人の傍にはいたい。

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