第4話 亜美と俺

帰宅すると亜美は、「用意をしてやるから」と言ってキッチンに向かう。

俺は、玄関の靴を揃えて並べる。

俺が亜美に出会ったのは、拓生と真理子の結婚式の帰りだった。

胸が押し潰されて、苦しくて涙が止まらなかった。

まだ、実家暮らしだった俺は両親を困らせたくなくて……。

結婚式場の駅の近くの公園のベンチに座って泣いていた。

そこに、亜美が犬を散歩しながら現れたのだ。


「話聞いてやるよ」

って、亜美が言ってくれたから俺はすらすらと話したのを覚えている。


話し終わった俺に亜美が

「同じじゃん」

と言って笑うから……。

つられて俺も笑ったんだ。


「生ハムもあるよ。食べる?」

「うん」


俺達の秘密を家族さえ知らない。


「話って何だったの?」

「真理を抱いてくれって」

「はあ?何それ!!絶対許せないんだけど……」


ワイングラスとワインを持った亜美はイライラしながらキッチンから歩いてくる。

俺は、亜美のこういう所が好きだ。


「一真、ちゃんと断ったんでしょうね?」

「断ったに決まってるよ!そんなの無理なのわかってるだろう?」


亜美は、ドタドタと足音を立てながらキッチンに向かうとチーズと生ハムを乗っけた皿を持ってくる。

チーズの形のピックが刺さったブロックチーズは、見た目にも可愛らしい。


「一真、飲むよ」

「うん」

「それで、抱いてくれって事はやっぱりレスだったの?」

「あぁ。そうだった」


昨夜、拓生から話があると言われた時にレスじゃないのかな?って亜美と話していた。

予想は的中した。


「嬉しかったんでしょ?レスって聞いて」


亜美は、嬉しそうに笑いながらブロックチーズと生ハムを一緒に刺して食べ始めた。


「嬉しいなんて、最低だよな」


ワイングラスをグルグル回転させながら話す俺に亜美は「全然」と真顔で答えてくる。

俺は、亜美のこういう所が好きだ。


「全然っていうなら、嬉しかったって言ってやる!!!」

「いいじゃん!嬉しかったなら」

「うん。亜美の方もレスだった?」

「そうそう。優君とずっとしてないのーーって言ってた。めちゃくちゃガッツポーズしたわ」

「俺達、最低だよな」

「いいんじゃない?別に本人に言ってるわけじゃないんだから……。それで、一真はどうするつもり?」

「どうするも何もないよ。本人に直接聞いたわけじゃないし」

「まあ、そうだよな。本人に言えたらスッとするのになーー。お互いに」

「それは、あるよなーー」


亜美と俺の関係は、夫婦ではない。

俺達は、セックスレスとかではない。

元々、セックスはしない関係だ。






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