第2話 聞いてる?

「一真、聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ」

「こんなんだったら、真理子と結婚しなければよかったよ。あーー、したいわ。マジで」

「贅沢言うなよ!俺達三人幼馴染みで、選ばれたのは拓生なんだからさ」

「一真も真理子が好きだった?」

「はあ?何言ってんだよ」


拓生は、ビールをグビグビと飲み干す。


「おかわら」

「拓生。飲み過ぎだから……。お冷やもお願いします」

「かしこまりました」


俺は、拓生を見つめながら

【拓生に俺の気持ちなんか一生わかんないよ】

心の中で呟いていた。


「真理子は、絶対不倫してる」

「してないよ。するわけないだろ?」

「だったら、何で俺達レスなんだよ!」

「そんなのわかるわけないだろ。俺は、二人がデートしてる時も家にいる時も知らないんだからさ」

「どんな顔するのか見たかったか?キスとか?する時とか?どんな声だすかとかさ」

「だから、何言ってんの?」


拓生は、枝豆をつまみながら俺を見つめる。


「真理子がずっと好きだったんは一真だったんだよ」

「はあ?今さら何だよ」

「今さらじゃない。ずっと知ってて知らないフリをしてた」

「拓生……情緒がおかしいぞ」


泣き出す拓生にハンカチを差し出す。

ギュッとハンカチを差し出した手ごと握りしめられた。


「真理子とレスになったのは、8年前の夏からだ。ほら、一真の奥さんと四人でキャンプに行っただろ?あの後、帰ってからキスをしようとしたら払いのけられた」

「そんなのたまたまだろ?」

「たまたまじゃない」


拓生は、俺からハンカチを奪うと涙を拭き始める。

確かに、真理子は昔。

拓生と付き合うって言った時に泣いているようだった。

でも、嫌ならすぐに別れればよかっただけだし……。

結婚までしたのなら、拓生を愛していたからなんだろうし……。


「俺を好きじゃないのはわかっていたんだ。だけど、真理子は押しに弱いから。俺がしつこくしたから付き合ってくれたんだよ」

「そんなんで、結婚までするわけないだろ?」

「それだって、一真と居たいからに決まってんだろ?俺を愛していたわけじゃない」


どうしてだろう。

拓生が惨めになればなるほど、俺は何故か嬉しくて。

拓生が話す言葉の全てが嬉しくて。

って、性格悪すぎるな俺。


「真理子がずっと一真を好きなのは、知ってた。だけど、俺は真理子を渡したくなかった」

「渡してないからいいだろ?俺には、亜美あみがいるし」

「ふざけんなよ!!!心はずっとお前の元にあるじゃねーーか。真理子をまるごと奪えてないじゃねーーかよ」


拓生は、俺のカッターシャツの襟を掴んできた。


「殴りたいなら、殴れよ。ただし、外でな」

「一真を殴れば惨めなだけじゃないか」


拓生の涙を見ているだけで、笑みがこぼれる。

やっぱり、俺は性格が悪い。


「真理子は、ちゃんと拓生を愛しているよ。だから、大丈夫だって」

「愛してないよ。一真と亜美ちゃんがキスしてたの見たって泣いてたんだ。8年前。寝室のベッドで……」

「そんな事言ったってどうにも出来ないだろ?」

「何でだよ!不倫とか出来るだろ?一度でいいから、真理子にキスしたり抱いたりしてくれよ」

「はあ?ふざけんなよ。もう飲み過ぎだって」


俺は、拓生からビールジョッキを取り上げた。

店員にお会計と言って、立ち上がる。


「ほら、帰るぞ!そんな下らない事言う暇があったら、ちゃんと家に帰って真理子と話せよ」


ふらふらと立ち上がる拓生の腕を肩に回して歩く。

お会計をスマホで払って店を出る。

拓生の体重が俺の肩にのしかかっていく。


「ちゃんと歩けよ。タクシーまで、遠いんだからさ」

「なあ、一真。考えてくれよ。真理子とさ」

「その話しは、もういいって」

「子供作ったっていいんだぜ!俺、一真と真理子の子供なら愛せる自信あるから」

「ボロボロ泣いてるくせに嘘つくなよ」


俺は、眉毛を寄せて拓生を見つめる。


「だったら、俺とキスするか?一真……」

「はあ?何でそうなるんだよ」

「一真とキスした唇なら真理子がキスしてくれるかも知れないだろ?」

「そんなわけないだろ?」

「あるよ」


拓生は、ふらふらなのに俺を払いのけた。


「何だよ。危ないって、ほら」

「一真、お願いだよ。真理子を抱いてやってくれよ。そしたら、俺達うまくいくんだって」

「拓生。声がデカイって……。やめろよ」


諦めた心を今さらぐちゃぐちゃに踏み潰さないで欲しい。

俺は、この気持ちを二度と言わないって誓ったんだ。

だから、真理子を抱いてくれなんて軽々しく言わないでくれよ。

拓生……。



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