【カクヨムコン応募中】触れた指先から熱をもつ♡ーその告白が嬉しくてー

三愛紫月

第1話 秘密を打ち明けられた夜

「俺さ、セックスレスなんだわ」


その言葉に驚いた顔をしながら目だけをかろうじて動かしてみせた。


「言いたい事は、わかってるよ。結婚して15年。子供が出来ない理由はそれ?って思ってるんだろ?」

「別に、何も言わないよ。ただ、急に言われてビックリしただけ」

「だったら、とことん聞いてくれよ」


個室の居酒屋である【羽音はおと】に呼ばれたのは、つい15分前の出来事だ。

親友である吉村拓生よしむらたくおは、俺がついた時からすでに出来上がっていた。

この姿を見て、腹が立ったり心配したりしていた過去の自分が馬鹿らしくなった。


「あのさ、一真かずまの所はどうなんだよ。子供いないだろ?レスじゃないのか?」

「まあ、レスではあるよ」

「どれぐらいしてない?俺はさ、8年だよ。8年」


拓生の告白に俺は笑みがこぼれそうになるのをバレないようにビールを飲む。


「俺は……。7年かなーー」

「7年か。我慢出来るのか?」

「我慢はしてないけどな。ちょうど仕事も忙しくなってきてるから。拓生は、我慢出来ないのか?」

「出来ないよ。まだ、38だぞ。かなりしたいよ!一人ではしてるけどさーー。正直、猫の手でも借りたいわ」

「じゃあ、俺が手伝ってやろうか?」

「えっ……?」

「冗談だって。そこだけ冷静になるのやめろよ」

「ごめん、ごめん。一瞬、一真ならありか?何て考えたよ」

「馬鹿じゃねーーの。手伝うわけないだろ」


俺は、食べ終わった皿を手に取って移動させる。

拓生は、グラスをひっくり返しそうになるから俺はグラスを押さえた。


「大丈夫、大丈夫」

「拓生、飲み過ぎだから」

「はいはい。また、真理子に話すか?」

「これ飲んで帰らなかったらな」

「わかった、わかった」


拓生の指先が俺の手に触れる。

これ以上を望んじゃいけないから、ずっと傍にいれる方法を選んだのに……。

どうして、こんなに胸が苦しくなるんだろう。


「真理子、元気?」

「元気すぎてヤバいよ。一真にも会いたがってた」

「そっかぁ。じゃあ、今日は家まで送り届けるよ」

「それなら、遠慮せずに飲もうかなーー」


拓生は、ビールをごくりと飲んだ。

拓生と真理子と俺は、幼稚園からの幼馴染みだ。

俺達三人は、仲が良くて小学生の時も中学生の時も高校の時も一緒にいた。

それが、変わったのは中学2年の終わりだった。


「私、拓生と付き合おうと思ってるの」


真理子からの突然の告白に……。

俺は、ショックを隠しきれなかった。

三人で一緒にいたのに……。

俺が知らない場所で、二人の時間が刻まれていく寂しさや悲しさも存在していた。

バレたくなくてわざと「そっか、よかったな」何て言ってみると真理子は悲しい顔をした後で……。


「初めての彼氏は、一真か拓生がいいって思っていたから」


真理子は笑いながら言った。

その言葉に心臓むねが抉られていく。

俺の知らない場所で、二人が別の思い出を刻んでいくのが悲しかった。

それだけじゃない。

この想いを、二度と伝える事が出来ないって事も悲しかったんだ……。



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