第二章 その②

 そう洩らした僕は、敷布団に手をついて立ち上がると、畳を踏みしめ、埃っぽい空気を掻きながら机に駆け寄った。その上に置いてあった時計を見つめる。時間は、朝の六時。

 今何が起こっているのか悟った僕は、逸ろうとする心臓を必死に抑え、息を吸い込んだ。

 肺が冷える感覚とともに、部屋を抜け、階段を降り、キッチンに入る。

 冷蔵庫に駆け寄ると、扉に貼り付けてあったカレンダーを凝視した。

 夜明け前。薄暗闇に浮かぶカレンダーの年月は、二〇一五年 十一月。日付は…、「二十六日」までは印が入っているということは、二十七日か?

 それを見た瞬間、全身に電気のような衝撃が走った。

 ふらっと半歩下がった僕は、震える手で自身の頭に触れた。当然、割れていない。血も出ていない。包帯も巻かれていない。健康体そのもの。

「…ああ、なるほど」

 薄暗闇の中、ぼんやりと呟いた。

「戻ってきたのか」

 すっかり忘れていたよ。

 奇跡というものは、期待していないときに起こるものだってことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る