ep6:はぐ

『前回までのあらすじ』

ママの提案で今日は一日映画館で映画を見終わった。ふと、ママがトイレに行って戻ってくると紙袋を手に提げていた。その中身はスマホであり本来なら高校受験が終わるころにもらうものだった。その理由は「明日になると消える」から。私はその事実に「もっと早くに教えて欲しい」と伝えることしかできなかった。それでも、ふとした瞬間、朝橋先生とクラスメイトの神崎が言った言葉を思い出す。


 私は急いで階段を駆け下りたのた。




ep6:はぐ――一緒にいたいから




〈day2 / 22:00/ 言峰家・リビング〉


味来:「ママ!」


 私は駆け降りるように階段を下りた。その慌ただしい様子にびっくりした様子のママ。間髪入れずに味来は食い下がる。


味来:「ママ、最後のお願いがあるけど、聞いてくれない?」


 息を荒げてそういった。その反応にママは何やらパソコンの前で固まっていたけど「いいわよ」と答えてくれた。


 それに少し微笑して、私はこう伝えた。


味来:「えっと、今から一緒に寝てくれない? ちょっと今日見たホラー映画が怖くなっちゃったの……」

 

 その言葉にママは真顔で沈黙した。それもそうだ。もうすぐ高校生になる娘がこんなことを言い出すなんて思いもしないだろう。でも……。


ママ:「いいわよ、ベットはパパと私のやつ使おうね」


 そう優しいアルトな声に私は笑顔でうなづいた。




〈day2 / 22:30/ 言峰家・寝室〉


 照明も消してはや20分と少しくらい、私は宵闇の布団にくるまった。真冬の夜、パパのお布団を借りたが、1か月以上主を包んでいなかったベットは少しいつもより冷たかった。


 正直、寝れそうにない。目を閉じてゆっくりと呼吸しているうちに、少しまどろんできた中でも、どうにも心が落ち着かない。


 ――まだ怖くて辛くてしょうがない。ママが消えるとわかったときから、気分が落ち着かないのだ。



ママ:「味来、起きてる?」



 そうママの声がした。目を開けて「うん」と返すとゴソゴソと音がして、暖かいママの身体がくっついてきた。私とそれほど変わらない手で私の背中をつつむ。



ママ:「にしても、大きくなったねー。小さいころ、一緒に寝てた時は抱き枕としてもっといい感じのサイズ感だったのに」



味来:「覚えてるよ……、あの時いっつも抱き着いてきたからね……」



 ママの手の温かさが触れていくと安心してか、眠気が増してくる。


 そういえば、長い間、ママからもパパからも「大きくなったね」とは言われてきてなかった。


 いつもパパとママの実家に行くと「大きくなったね~」といつもおじいちゃんとおばあちゃんが褒めてくれた。それが少し恥ずかしくて、でもどこか誇らしくて、喜びに似た気分を感じていた。



ママ:「ほんっと、あの時の味来はね、人前ではしっかり者だけど裏では相当の甘えん坊でね、本当にパパママっ子だったのよ」



味来:「覚えている。でも、恥ずかしいな……」



 私はどこかクラスメイトに意地っ張りで、見栄を張っていていた。じゃないとパパとママにくっつけるだけの対価がないから。パパとママの為に一生懸命になって、いい子になっていた。だって今でもパパとママに褒められることも私にとっては宝物だから。



味来:「パパママっ子の私の、もう一つお願いごとを聞いてくれない?」



 眠気でまるで寝言のような声でママに聞く。ママは「言ってみて」と穏やかに返してくれた。私は言う前から嗚咽が出そうだった言葉を始めて、口にした。




味来:「ママ、消えないで、消えないで欲しい……」




 私はママに必死に抱き返して叫んだ。




味来:「消えないでずっと私と話して、ずっと遊んで、ずっと、ずっと、ずっと……」




 ……やっぱり、涙が止まらなかった。声も上がりすぎた感情のせいでうまく出せない。でも必死に、ただ必死に声と言葉を絞り出した。



味来:「無理だとわかってる。分かってるけど、もっと、もっと……、甘えたかいし、ママとパパと旅行に行って、おいしいご飯食べて、そして、そして……」



 その嗚咽混じった声の答えは力のこもったハグだ。抱き着いていた腕に力がグンと加わって私を強く抱きしめる。




ママ:「ごめんね、味来。ママも高校生になった味来を見てみたかったし、大学生になって、就職して……、せめて私が病か何かで死ぬまで味来を見守っていたかった……」




 ママの低い言葉に、私の涙は止まらなかった。歯を強く食いしばるそれでまた泣いてみる。そうやって本心のままを教えられた私はのこの昇り続ける感情は収まらなかった。



 どこまでも冷静で、頼りになって、それでカッコイイお母さん。真っ暗であまりみえないその顔には、何か滴るものがあったのに私はどうにか気づけた。




味来:「でも、ありがとう……」




 あふれる涙を裾で拭いてどうにかこう言葉を返した。必死に目を凝らす暗がりの中、ママの顔には少し驚きのようなものがあった気がした。




味来:「私、本当にで良かったの。




 その言葉にママは涙をぬぐっていた。小学校の卒業式でも、パパが消えても、涙一つ見せなかったのに、ママは酷く泣いていた。




ママ:「生まれてきてくれてありがとうね、味来。だから、味来はゆっくり人生を経験してからこっちに来るんだよ」




 この言葉とハグがだった。どうしてもここからは眠気が私を襲っていて、それからのことを私はあまり覚えていない。ただ、ママの最後の言葉と、あの強いハグと、頭をなでてくれた感触は一生忘れるはずもないものだった……。






〈day3 / 7:00/ 言峰家・寝室〉






 でも翌朝、目を開けたところに、やっぱり姿




   ◇ ◇ ◇


ep6:はぐ (Fin.)


next ep7:置き手紙

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