ep4:一日映画鑑賞会
ep4:一日映画鑑賞会
〈day2 / 9:00/ 佐世保ショッピングモール〉
平日というのに少し人通りが多い。でもそこにおばあちゃんやおじいちゃんの姿はない。
今日は一日中、昔やっていたように一日映画鑑賞。私のリクエスト映画とママのリクエストを交互に4本映画を一緒に見るつもりだ。
小さい頃は月一でこの企画を家族みんなでやっていた。映画はド迫力で、夢の世界に私を運んでくれる。ストーリーで泣くこともできるし、アクションシーンに鳥肌が立ったり、ホラーシーンでは家族みんなで抱き合ったり……。
今も家のサブスクで映画を見たりするけど「やっぱり生が最高」。酒好きのおじいちゃんが言っていた言葉を借りるならこれだよね。
ママ:「味来、覚えてる? 小さいころ、このショッピングモールで迷子になったの」
ベージュ色のコートを大人げに着こなすママの言葉に私は「ちょ!」と声を荒げた。
確か、
あの後、息を荒げながらパパママと歩佳パパママと稲葉パパママがバタバタと来たのを覚えている。
その後、めっちゃ叱られた。それで怒られて泣いた私にママはこう言ってくれた。
ママ:『泣きたいなら泣いたらいい。でも女の子でも何度も泣いていたら、ダメよ。何度も泣いていたらあなたの可愛い顔が台無しになっちゃうからね!』
その暖かい言葉まで私はどこか覚えていた。
ママ:「その反応、覚えてたかー、さすがに」
味来:「あの時、とても恥ずかしくてしょうがなかったんだから……」
ママ:「それはこっちのセリフよ」
そう微笑みながらママは返した。でもあの事件、言い出しっぺの歩佳が一番悪かったのに。稲葉もやるやるって言ってるからしょうがなく……。
味来:「あの時確か、一階の屋内アスレチックに行こうとしてたと思うけど……」
ママ:「ああ、あったねー、味来、ほんと好きだったんだから」
そう懐かしそうに大きな相槌を打っていた。
味来:「あそこけっこー広かったからね」
するとママが「久しぶりに遊びに行く?」と聞くけど「いいかな」と私は断った。確かに良くも悪くも思い出の場所だけど今日は「偽りのドールハウス」というホラー映画と「明日の朝日」という青春映画を見る予定だ。
ママ:「にしても、歩佳、ほんとに大丈夫なの? 新作映画も出ているのに……」
私は結局2本とも復刻上映を所望した。なぜならこの映画が私が覚えている中で一番最初の映画だから。
ママ:「あと、怖くなっても一緒に寝るなんて言わないでよー」
味来:「うっ……」
そうママがいうのも覚えている。小さい頃に一度見てそれで「ママ、一緒に寝て!」ってせがんだのもなんとなくだか覚えている……。
ママ:「私は良いよ、あの、おねだりした時の味来可愛かったし」
――グぬぬ……。
これが大人の余裕というものだろうか。でも私だって負けてばっかりは嫌だ。
味来:「ねーえ、今の私が可愛くない言い方ってやめてよ、もう……」
――我ながらナイス切り返し!
でもママは少し笑みを浮かべるだけ。
ママ:「なんなら、今日一緒に寝る?」
味来:「べ、別に……」
そう私はどうにかごまかした。正直、ここで一緒に寝ると宣言するのは気恥ずかしい。ただそれだけ。
でも……。
――今夜が最後かも、なんだよね……。
映画館についたようで私は「チケット買ってくる」と言って私は恥ずかしさからも逃げるようにママから離れた。
◇数時間後◇
あの後、私たちは良い意味で鳥肌が立った映画館を後にした。やはり一度見たストーリーと言っても名作はめいさくなのだ。例えばヒロインに変装した殺人鬼が主人公に襲い掛かったあのシーンは怖かったし、ヒロインがずっと好きだった幼馴染に告白するシーンとか、とても素晴らしかった。
たらふく映画を見た後、ママはカフェでケーキをつついていた。大きなマカロンが冠のようにかぶせてあるモンブランをフォークでつつく。母の誕生日ケーキというていで私も苺のタルトを頼んでいた。
ふとママが立ち上がる。
ママ:「少しトイレで席を外すね」
それにうなづいて、ママは離れていった。
数分後、ママは紙袋を左手にかけていた。少し高級そうな紙袋のロゴに携帯電話会社のロゴがあったような……。
味来:「なにそれ?」
そう聞いてみたけど「ないしょ」とそっけなくかえさえた。
その後、一階の食品エリアで軽く買い出しに行って私たちは帰ることにした。時計は既に午後4時半を回っていた。
◇ ◇ ◇
ep4:一日映画鑑賞会(Fin.)
next ep5:味来のスマホ
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