ep3:甘え方
『前回までのあらすじ』
明日の誕生日で消える母のことを気遣う味来に朝橋先生、保健室の主である神崎から「一人にさせるな、一緒にいてあげて欲しい」と言われた。
先生の勧めで早退したが母は仕事で忙しく家には帰っていなかった。
味来は疲れからか、少し昼寝をしようとソファに横になった(はずだった)。
◇ ◇ ◇
トントンという階段を上がる足音。その小さな音が私の意識を戻してくれる。体内時計キッチリにいつもなるかすかな音。その音と、ガチャッという音。その半秒後に聞こえたのが私が大好きな声だ。
ママ:「味来、朝よ、起きなさい!」
その言葉で目が覚める。いつものベットの上。少し体をよじると私の部屋の入り口にはお母さんが立っていた。
その姿を確認して私はやっと上体を起こす。少し私は一つのびをしてみる。すると体中がボキボキいって少しいた気持ちい。
ママ:「味来、おはよう」
味来:「おはよ、ママ」
珍しく今日は寝起きが良い。だいたいいつもは「あと五分だけ」を3回くらい使うのだがそれすらいらなさそうだ。
そういえばいつから寝たのだろうか。服を見てもいつのまにやらパジャマになっているし、そういえばソファーで寝たような……。
ママ:「朝ごはんできてるよ」
それに「はーい」と返してベットから降りた途端だ。全身から鳥肌が立った。
味来:「ごめん、ちょっと、トイレ!」
私はダッシュで2階のトイレに入った。そのもう何万と見たこの光景にママはやれやれと首を横に振っていたらしい。
ep3:甘え方
〈day2 /7:18 / 言峰家・リビングルーム〉
味来:「いただきます」
トイレから出た私は手を合わせてから真っ先に目玉焼きに飛びついた。カリッという触感に黄身が半熟でとろけている。
ママ:「ところで、昨日、ソファーで完全に寝ていたけど、どうしたの?」
それにコーンスープを口に含もうとした左手を止めた。思えばそうだ。私はソファーで軽く眠っていたはずなのに……。
味来:「そこにソファーがあったから!」
なんてうけ狙いの言葉を投げるとママは少しだけにやけただけだった。ただその返しの言葉がかなり私には効いた。
ママ:「乾燥シャンプー、乾燥ボディーソープ、パジャマ着せ替え、寝室までご案内したのは誰だと思ってるんの?」
――え、私、そんなにされていたのに起きなかったの?
にわかには信じられないお寝坊さんなことに私は思わず時計に目をやった。白猫が左右に飛び出した我が家の時計は7時20分を指している。
味来:「これ、午後7時20分よね?」
そう聞くと「朝の7時20分です」と返された。窓を見ると7時にしてはかなり明るい。負けじともう一度。
味来:「今日は大好きなお母様のお誕生日前日ですか?」
すると「当日です」と返された。最後にもう一つ。
味来:「ゆうべは私の体でお楽しみでしたか?」
有名なゲームのセリフを引用すると「大変でした」とそっけなく返された。するとお母様が右手の箸でベーコンをつまみながらこう聞いた。
ママ:「私に言うことはありますよね?」
そう将棋で言うところでいう詰み状態。
味来:「ごめんなさい、それとありがとうございました」
そうお礼を言うと「よろしい」とママはにっこり笑った。
〈day2 / 7:45/ 言峰家・リビングルーム〉
朝食を食べ終えていつもの制服をハンガーラックから取っているとママが「味来」と呼んだ。
ママ:「今日は息抜きもかねて、学校はお休みにして、遊びに行かない?」
そうママが笑顔で聞いてきた。正直嬉しかったけど、一瞬受験勉強のことが頭をよぎった。
――良いのかな、私だけ遊んでて……。
万が一、最後になるかもしれないなら……、一緒にいてあげて欲しい。ふと先生の言葉が蘇った。
――もし、万一、明日お母さんが消えるかもしれないならせめて……。
味来:「うん、行く!」
――せめて今日だけは甘えてみよう。
そう思って私は大きくうなづいた。
ママ:「となるとどこ行きたい?」
そうママが聞いてきた。それに私は元気にこう答えた。
味来:「一日中映画館!」
なつかしさなのか、母がその言葉を聞くと苦笑いをしていた。
◇ ◇ ◇
ep3:甘え方(Fin.)
next ep4:一日映画鑑賞会
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