第37話 音に紛れながら

 本に囲まれつつアオイが昔書いた本を読むノエル。難しく出来ないであろう魔術が書かれた本の数々に、はぁ。とため息をついて本を閉じた

「ちょっと休憩」

 椅子から立ち上がり、一息つくためのお茶か何かを探しにキッチンへと行こうとしたノエル。突然、隣にアオイのコップが一緒に並んでキッチンへと移動しはじめた

「私の分もよろしくー」

 アオイが本を読みながら言うと、ノエルがはぁ。とため息をついて一緒にキッチンへと向かっていく。キッチンからカチャカチャと聞こえてくる音で、アオイが楽しそうに鼻唄を歌う


「ねえ。側で眠るその子、生きているよね」

 キッチンから、ちらりとアオイ達がいるリビングを見る。まだ本の上でスヤスヤと眠る小さい方を見て、ノエルが少し心配そうに問いかけた

「そうでなきゃ困るよ。私ここにいれないもん」

「そうかもだけど、いくらなんでも……」

「まあでも寝ているだけじゃ魔力のコントロールの練習も出来ないからね。そろそろ起きてくれないと困るね」

 二人が目線を向けつつ話をしても眠っている様子を見ていると、おかわりの紅茶が入ったカップがふわふわ浮かんで隣にやって来た

「確かに、そろそろ起きてくれないと、私が本の解読を出来そうだよ」

「へえ。それは偉いね」

 フフッと笑いながら返事をすると、それを聞いたノエルが怪訝な顔でアオイを見た

「ちゃんと誉めているよ。魔力が強くなってるんだなって」

 テーブルに追加で来たお菓子を頬張りながらそう言うと、スヤスヤ眠るアオイを見た。ゆっくりと寝返りを打ちスースーと寝息をたてたその姿を見た

「そろそろかなぁ……」

「なにが?」

「……起こそうか。美味しいご飯でも用意してくれたら起きるかもね」

 リビングに戻ろうとしていたノエルがその言葉を聞いて、キッチンへと戻った。代わりに紅茶のおかわりで用意していたコップがリビングのテーブルにカチャンと微かな音を鳴らしつつ着いた。その音に紛れるように、眠るアオイの頬を軽くつついた

「君が頑張ってくれないと、私の今いる意味が無くなるんだよね。もうちょっとだけ頑張って」

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