第11話 誰にも知らせないまま

「嫌です。私はあまり魔術を使いたくないし、渡したくもないです」

 学校には行かず、施設に無理やり連れてこられたノエルが不機嫌そうに言いながら椅子に勢いよく座る。メア達の顔を見ないように顔を横に向けているノエルに、メアが少し困った顔をしつつもフフッと笑う

「じゃあ私達を助けるってことではダメなの?」

「はい、余計に嫌です。ていうか、記憶を渡すっていう手助けをしているし。これ以上の手助けは嫌です」

「あらそう……。アオイには力を貸すのに、残念ね」

 メアがため息混じりに呟くと、ノエルがキッとメアを睨み、二人の視線が合う。その様子を魔術師達がハラハラとした面持ちで見守っている

「アオイのこと、何にも知らないくせに……」

「ええそうね。でもあなただって知らないでしょう?アオイがいた頃の記憶がもうあまり残っていないんだものね」

 メアがノエルに言い返すと、その言葉に返事をするように視線を横に向けた

「知っているのよ。魔術が消えない変わりに記憶が消えているのを。私達はあなたが忘れないように残してあげているのもあるのよ。感謝しないとね」

 部屋にあった本を取り、ページを開く。数ページほど開いた本から、公園で一人夜空を見上げるノエルの姿が写し出された。ページの上に写し出された自分の姿を見て、椅子から立ち上がりメアが持つその本をバタンと強めに閉じた

「とりあえず私は助けないです。どうせいい記憶でもないし。残したくもない」

 語気を強めて言うと、椅子に置いていた鞄を取り出ていった。バタバタと足音が遠退いていくのを呆然と聞いている魔術師達に対しメアはまたクスクスと笑った

「したかないわ。今は私達で記憶が消えないように補い合いましょう。悪いけれど、ノエルちゃんとの話を報告をしてきてくれる?」

「はい、すぐに……」

 メアに返事をしてすぐ部屋にいた魔術師達が全員急ぎ足で部屋を出た。一人残ったメアはノエルが閉じた本をまた開いて、楽しそうに記憶の続きを見はじめた



「何に知らないくせに……」

 その頃、施設を出たノエルはまだ不機嫌な顔で帰り道を歩いていた。はぁ。とため息をつき機嫌を直そうと寄り道をしようとふと辺りを見渡した時、よく通うスイーツ屋で見覚えのある髪色の女の子を見つけ、またはぁ。とため息をついた

「そりゃあアオイのためになら力を貸すよ。約束したんだもの」

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